目の前に現れた
魔術師達は気づかなかった。その後ろに忍び寄る影に……。
「こんにちはー」
この場に似つかわしくない爽やかな声が森に響き渡った。その声に魔術師二人は身体を硬くした。そして、冷や汗が一気に吹き出した。
「あれ? 二人が楽しそうに話しているみたいだから、来たのに」
その言葉に二人はゆっくりと振り返った。そこに立っていたのはにっこりと笑ったサキだった。見惚れるような笑みを浮かべた彼に二人は顔を青ざめた。
「なっ、何で……? さっ、さっき……」
女性の震える声に彼は笑う。
「あらら……声が震えてるよ? それに、俺がここにいるのは……君たちがいるからだよ? シルル姉さんが家の事を心配してたからね」
サキは二人の事を知っていた。それもその筈だ。彼らの存在は食堂の時から気づいていたのだ。しかし、まさか食堂の食べ物に何かを混ぜるとは思ってもいなかったが。
数日前に遡る。ニーナ達の人型が解けて元の姿に戻った日の事だ。二人には「大丈夫、大丈夫」だと言ったが、どう見ても、食事に何かを混ぜられたのはわかった。彼らが部屋に戻ったのを笑顔で見送ると、サキの表情が真顔に変わった。その瞳は酷く冷えて、その視線だけで人を殺しそうだった。
「……結界が壊れたわ」
そんなサキに声をかけたのはシルルだった。彼女はすぐにでも外に出ようとしたのを彼が止めた。
「俺が行くよ。シルル姉さんはニーナちゃん達についていて」
その声はいつも通りなのに、瞳は冷たいままだった。そんな彼の言葉にシルルは一瞬だけ、ジッと彼を見つめたが、すぐに頷いた。
「ええ。わかったわ……ただ……絶対にあの子達には気づかれないで……」
「それは……当たり前だよ。子供は太陽の元で生きないと」
そう言うと、サキは外に出た。そんな彼に、獣人を捕まえに来た魔術師と暗殺者達は笑った。たった一人で何ができるのだと。だが、その思考はすぐに変わる。何故なら、一瞬で仲間が倒れたのだ。魔術師二人を残して。
「さて……君たちはどうしようかな」
頬についた血を拭いながら、話しかける彼の表情は爽やかに笑っていた。ただ、瞳だけが酷く冷めていた。そんな彼に恐怖した二人はすぐに魔法を使ってその場を去った。しかし、獣人の子供を捕まえる事を諦めてはいなかった。自分達はやらないが、毎日のように暗殺者を結界内に送り込んだのだ。しかし、結果は全滅。二人は一人で何人もの暗殺者を一瞬で倒すサキに恐怖した。
そして、今日、獣人の子供とエルフ、それから恐怖の対象である男が家を空けるらしい事を確認したのだが……。
「師匠……」
女性が師匠である男を見た。
「こっ、ここまでか……」
二人の魔術師はその場で膝をついて項垂れた。そんな彼らに興味がないサキは二人の前にしゃがみ込むと言葉を放った。
「君たちにはお願いしたい事があるんだ」
そう言った彼の姿はまるで魔王のように二人は見えた。




