思い当たる事
理由がわからないため、皆んなが考え込んでしまった時に私はとある事を思い出した。
ルイス! スープが美味しくなかった!
私達だけが飲んだスープは変な味がした。それに、眠れなかった事を考えると異変の原因はそれなのでは? と考えてしまったのだ。その言葉にルイスも思い出したようで、すぐにシルルに話した。
「……そのスープに何か入っていたのかしら?」
彼女の声が冷たくて、自分に言われているわけじゃないのに私は身震いした。
「獣人に効くモノだよね……シルル姉さんがそれだと思う薬草とかはあるの?」
サキの言葉に彼女は首を横に振った。
「人と獣人とでは効能が違うなら……思い当たる物はないわ。それに、身体を変化させる薬草は無いはずよ」
「そっか……。じゃあ、俺たちにわかる事はないね」
ええ⁈ じゃあ、私達は人型に戻れないの⁈ その場に悲しげな声が響き渡る。
「大丈夫よ……」
私を安心させるようにシルルの優しい声が耳に届く。
「大丈夫、大丈夫! 俺の船には、獣人に詳しい奴がいるからね!」
サキはにっこりと笑った。その笑みに私も自然と安堵してしまう。
「それに、数日もすれば元に戻るかもしれないからね」
確かにそうだよね。前も少ししたら、戻れたし……そう考えていたが、三日経っても元の姿に戻れなかった。まだ、大丈夫、大丈夫。絶対に人型になれる。そう思っていたのに、さらに三日が過ぎても変わらなかった。
そして、その姿のままでヴィルグに久しぶりに会う事になってしまった。
「……おい、まさかとは思うが……」
ヴィルグがサキの鞄の中に入った私を恐る恐る指差した。
「あはは。リーダーったら、忘れちゃったんですか? ニーナちゃんですよ」
その言葉に頷くように私が鳴くと、彼は固まっていた。獣人を見慣れているはずの彼なのに、この反応はおかしい。彼はさらに、サキの肩に乗っている小さなカラスに視線を移した。
「おい……なら、そのカラスは……もしかして……」
「ルイルイですよ」
「ルイスだ!」
その言葉に彼は私とルイスを交互に見て、彼は頭を抱えていた。
「元の姿には戻らないのか?」
「これが、戻らないんですよねー」
サキが事の経緯をヴィルグに話した。
「なるほどな……。ん? エルフの姉さんは?」
「ああ。シルル姉さんは……」
シルルは遅れているのには理由があった。結界を張り直しているのだ。長期間、家を空けるため、結界の強度を上げるらしい。
「……待たせたわね」
話していると、シルルがやって来た。
「いや、そこまでは待っていないが……どうかしたのか?」
彼女を見て、そんな言葉が出て来たので、私も彼同様に彼女を見ると、後ろを睨むように見つめていた。
「……何でも無いわ」
何でも無いと言うが、何も無いなら、何故あんなにも鋭い視線で見ていたのだろうか?
「ニーナ、ルイス」
シルルはサキから私が入った鞄を受け取った。そして、ルイスも彼からシルルの肩へと移動した。
「身体が軽くなって、寂しいー」
そんな言葉を彼女は無視して、ヴィルグに話しかけた。
「……これからよろしくお願いします」
そして、頭を下げたのだ。あの、シルルがだ。私は驚いて目を見開いた。しかし、それは私だけではなかった。ヴィルグもサキも驚いた様子で彼女を見つめたのだ。
「……お世話になるのだから、私だって、頭を下げるわ」
しかし、頭を上げた彼女の瞳は冷たい。そのため、彼らは苦笑した。
「船は港に止めてある。いつ帰って来られるかわからないが……忘れ物はないか?」
その言葉に私たちは首を横に振った。それを見たヴィルグはニッと歯を出して笑った。彼がそんな風に笑うなど、初めて見た。
「じゃあ、行くか……俺たちの船に」
その言葉に私は可愛らしい声で大きく鳴いた。私達の様子を伺う人達がいるなど知らずに。
「あっ! 行っちゃいました」
フードを深く被り、手には杖を持ったいかにも魔術師ですという格好をした女性が、隣に立っている男に声をかけた。男も彼女同様の格好をしている。しかし、歳は彼女よりもだいぶ年上だろう。その証拠に真っ白な髭を長く伸ばしている。
「チッ。獣人の子供をみすみす逃してしまった」
男は悔しそうな顔をしたが、女性は仕方がないじゃないと言う顔をしていた。
「みすみすと言うよりも、この結界を突破しても、あのイケメンの男に倒されて終わりですよ」
「…………」
「何人、あの男に殺されたと思うんですか?」
「うっ、うるさいわい! そもそも、食堂を出た後で捕まえとけば良かったんだ!」
「無理ですよ。隙がないエルフと暗殺者かよって思うほど気を研ぎ澄ました男ですよ? 無理無理」
二人は食堂からずっと、二人を見張っていた。他にも仲間がいたのだが……サキに倒されてしまったのだ。
「そもそも、スープに魔力の込められた薬草を混ぜた意味は?」
女性は段々と苛立ちを露わにし始めた。
「獣の姿に戻した方が捕まえやすいだろうが!」
それに感化されるように男も声を荒げた。
「それですよ! 何で、数時間後に効くようにしたんですか? 飲んですぐに効くようにしとけば良かったんですよ!」
「それだと、食堂ですぐに怪しまれて終わるだろうが!」
「怪しまれた瞬間に騒ぎになる筈です! その隙を狙えば良かったんですよ!」
言い争う声が段々と大きくなっていく。ニーナ達の食事に薬を混ぜた犯人である二人は奴隷商に雇われた魔術師である。魔塔を追放された男とその弟子だった女性である。主に、獣人を捕まえたり、奴隷紋を刻んだりする役目を任されていた。
「それに、この家の結界が半端ないですよ! 何とかして突破した瞬間に暗殺者のような男に殺されるなんて……この仕事辞めたいです!」
ニーナ達、獣人の子供を捕まえるために、シルルの家の結界を壊した。しかし、その都度、結界内に入った瞬間にサキによって倒されてしまったのだ。暗殺者も雇っていたのに、残ったのが二人だけ。
「くっ、くそ……正直、わしも辞めたいわ……」
「師匠……」
二人は奴隷商に弱みも握られているのだ。そのため、彼らに従うしかなかった。




