眠れない②
そこに立っていたのは頭に寝癖をつけたシルルだった。別に悪い事などしていないのに、慌てて言い訳を並べ立てた。
「ねっ、眠れなかったの! そっ、それで……ミルクを飲んでから寝ようと思ったのよ!」
そんな私にルイスも言葉を付け足した。ただ、彼の場合は私と違い慌てふためいていない。
「ここの部屋が開いていた上に、薬草が光っていたから興味が湧いた」
その言葉に彼女は視線を私達から後ろの植木鉢に移動した。
「ああ……確かに、光っていたら……気になるわよね」
そう言った彼女は植木鉢の側に行くと、私達を手招いた。
「この薬草は……毒なの」
私はジッとその薬草を見つめた。
「ただし、薬が効きにくい獣人の薬にもなるのよ」
毒は薬にもなるって言うもんね。そんなことを思っていると、ルイスが気になることを彼女に問いかけた。
「光るのは何で? 魔力が宿っているから?」
その問いに彼女は口角を上にあげた。その質問を待っていたかのようだ。
「この薬草は魔力を吸い取るの。と言っても……空気に漂ったものだけよ。近づいただけで、私達の体内にある魔力は吸い取らないの。空気にあるものだけを吸い取り、夜になると……その魔力を吐き出しているの。だから……光っている理由は魔力を吐き出しているからよ」
「へえ〜」
「魔力を吐き出しているのか……」
私はなるほど、なるほどと頷いた。隣のルイスは小さく呟くと、その薬草を興味深く見ていた。
「さあ……もう、寝る時間よ」
彼女はそう言うが、正直まだ眠たくない。どうしようかと考えた時だった。
「ぐっ……」
心臓が痛いほど早く動き始めたのだ。身体が熱い……。急に身体の内側から熱くなったのだ。
「ニーナ! ルイス!」
心臓あたりを抑えながら、蹲った私の様子にシルルが焦ったように大きな声で叫んだ。しかし、今、彼女は私だけではない。ルイスの名前を呼んだ。そのため、急いで隣の彼を確認すると、彼も同じように苦しげに心臓を押さえていた。
「どうしたの⁈」
騒ぎを聞きつけたサキが焦った様子で部屋に飛び込んできた。
「ニーナちゃん! ルイス!」
そして、シルル同様に私達に駆け寄ってきた。
「どうしたの? 心臓が苦しいの?」
「身体が熱い……熱い……」
「身体?」
ドクドクと大きな音を立てている心臓。だが、次の瞬間に急に落ち着いた。身体も熱くない。
あれ? もう、大丈夫だ……。
「ニーナ?」
大丈夫だよ? 私は大丈夫だから、不安そうにしないで。彼女にそう伝えようとしたのに、何故か側にいる彼女がいつもよりも大きく見える。
「ルイス?」
その隣でサキの困惑した様子が見えた。そのため、ルイスを確認すると、彼はカラスになっていた。
ルイス?
声をかけると、彼の真っ黒な瞳は大きく見開かれていた。そして、彼の瞳に映る自分の姿に驚いたのだ。急いで手足を確認すると、それは人のものではない。可愛らしいお手てだった。
レッサーパンダになってる⁈ どうして⁈ どうして、急に⁈
慌てふためく私はその場をくるくると回った。逆にルイスはその場でジッと固まっていた。
「どうして急に?」
シルルの声色から困惑しているのだとわかる。隣のサキも目を見開いて驚いていた。
私はすぐにルイスの元へと向かう。
ルイス! ルイス! 彼に向かって、可愛らしい声で叫んだ。
「大きな声を出さなくても聞こえてる」
どうして、急に動物の姿に戻ったんだろう?
「わからない。人型に戻ろうとしても戻らないならな」
そうなの⁈ どうしよう? ただでさえ、私は戻り方もわからないのに。
ルイスと話していると、困惑気味なサキが会話に加わった。
「二人が話しているのはわかるんだけど……ルイスの言葉はわかるけど、ニーナちゃんの言葉はわからないんだ」
ええ⁈ 私だけわからないの? 悲しげな声がサキの耳に届く。そんな私を彼は持ち上げて抱きしめた。
「ごめんねー。俺が、動物語がわかれば良かったんだけどー」
ギュウギュウと抱きしめてくる彼が嫌で可愛らしい手で彼の頬に触れると、さらに力が強くなった。
「慰めてくれるんだー。嬉しいー」
違う! 全く違うよ! 言葉が通じない! そう思っていると、シルルがサキから私を奪いとった。
「あっ!」
名残惜しげに私に手を伸ばしたが、彼女は無視してルイスに話しかけた。
「ニーナ、ルイス……人型が解ける前に何があったの?」
「心臓の動きが早くなった。それに、身体もかなり熱くなった」
ルイスが説明してくれる事に私も頷き返した。
「獣人が動物の姿に戻る前兆にそんな症状はない筈だよ」
サキの言葉にルイスも同意した。
「俺もあんな事は初めてだ」
シルルは心配なのか、私を抱きしめる手に力が入っている。そんな彼女に心配しないでと言えたらいいのだが、私も理由がわからないので悲しげに鳴く事しかできなかった。




