眠れない
皆が寝静まったのに、私は目が冴えていた。何度も寝返りを繰り返してしまう。身体は疲れているというのにどうしてだろうか? そう思っていながら、もう一度寝返りをうつと、目があった。
「〜〜〜〜っ⁈」
声にならない叫びが出た。ルイスの目が開いていたのだ。
「眠れないのか?」
その言葉に頷いた。しかし、眠っていないのは私だけではない。
「ルイスも? ルイスも眠れない?」
「ああ……。目を閉じても寝れない。身体は疲れている筈なのにな」
「子守唄でも歌おうか?」
彼はまだ幼い子供だ。善意からそう言ったのに、彼は顔を軽く顰めた。
「いらない。それに、するなら俺の方だろ。俺が歌うからお前は寝ろよ」
少しルイスの子守唄に興味があるが、首を横に振った。そして、起き上がると、シルルを跨いでベッドから降りた。
「ミルクでも飲もうよ」
眠れないなら、眠たくなるまで起きていればいい。ルイスを手で手招きすると、彼もベッドから降りた。チラリとシルルを見たが、寝息が聞こえた。そのため、口元に人差し指を当てて「シー」と彼に合図した。幼い子供二人は足音を立てないように部屋を出た。すると、床に布団を敷いて寝ているサキの姿があった。
「こいつも……寝るのか?」
「生き物なら誰しもが寝るよ」
一応、彼の瞳は閉じている。だが、もしかすれば起きているかもしれないと口元に耳を当てた。
「寝息が聞こえるから寝てるよ」
「…………寝息って……息はするだろ」
それもそうだな。だけど、私達が小声と言っても話している声は彼が起きていれば届いているだろう。しかし、それでも目が開かないのなら寝ているのだろう。
「でも、寝てるよ。私達がいても起きないんだもん」
彼が起きている時はずっと私達二人にくっついているからだ。何処にいてもついてくる。面倒くさくて本を渡すが、彼はすぐに読み終えるのだ。
「それも……そうだな」
ルイスは納得したのか、台所へと向かった。私もその背を追いかけた。だから、私達は気づかなかったのだ。彼の口角が上に上がり、小さな声で笑った事に。
二人で並んで椅子に座り、テーブルの上には同じようにカップが二つ並んでいた。中にはミルクが入っている。
「何で寝れないんだろう?」
子供の身体だ。街の中をあれだけ歩いたなら、眠れる筈なのだが……。
「夜に食べたスープ……変な味がしなかったか?」
「えっ?」
今日の夕飯は街の食堂で済ましてきた。彼に言われて思い出してみると、確かに変な味がした。誰も何も言わないので、ただ単に私が苦手な味だと思ったのだ。
「ルイスもしたの? 舌がピリピリする感じ」
「ニーナもか?」
「も? って事はルイスも?」
「ああ。だけど、好きじゃない味だと思っただけだった」
「私もだよ! あれは……美味しく無かったね……」
スープは私達二人にだけ出されていた。小さな器に出された上に、子供達にどうぞって、お店のお姉さんが持ってきた物だったから私達だけが食べた。
「あの時、サキさんにも食べてもらえば良かったね」
サキから「一口頂戴」っておねだりされたが、私達二人は断ったのだ。
「スープに何か入ってたのかな?」
「わからない」
私達は食材の知識にかなり乏しい。シルルがスープを飲んでいればわかったのかもしれないが。チラッと彼女が寝ている部屋の方をみると、その扉はしまっていたが、代わりにシルルが薬を作るための部屋の扉の方が開いていた。そして、その奥に光っている薬草が見えた。植木鉢に入ったそれはキラキラと輝いている。興味が惹かれた私は椅子から立ち上がり、招かれるように部屋へと入ってしまった。その後ろで慌てた様子のルイスが追いかけてきた。
「ニーナ」
「ルイス! 見て」
私はルイスを手招きした。すると、彼は私の隣に並んだ。そして、目の前には植木鉢に植えられたキラキラと光る薬草があった。
「綺麗だね……」
ルイスはその言葉に軽く頷くと、私の手を引いて部屋を出ようとする。
「勝手に入ったら駄目だろ。それに、この草……あれだろ?」
「あれ?」
「魔力が宿った毒草……」
ああ……シルルさんが触ったら駄目と言った薬草か……。
私はそっと植木鉢から離れた時だった。
「貴方達、何をしているの……?」
その声の主に私たちは動きを止めた。




