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異変

 シルルが奥の部屋に通されていくのを見ているだけだった。一緒に入室しようとすると、止められたためだ。そのため、私とルイスとサキはその場に残り、シルルとユナと男は奥の部屋へと向かった。


「行っちゃったね……」


「すぐに戻ってくるだろ」


 私の問いにすぐに答えたルイス。確かに彼の言う通りだ。説明をするだけなら、すぐに戻ってくるだろう。


「俺達はどうする? 散策でもする?」


 私達が退屈しないようにサキが提案してくれたが、首を横に振った。


「ううん、大丈夫だよ。シルルさんを待ってる。あっ! でも……サキさんとルイスは散策して来てもいいよ」


 だが、その言葉にルイスは顔を軽く顰めた。そんな彼の様子にサキは苦笑した。


「二人で? 行かない。それに、見慣れた場所だからいい」


「俺もいいかなー。せっかくなら、皆んなで周りたいよねー」


 三人で話していると、見た事がある人がギルド内に入って来た。そのため、小声でルイスに話しかけた。


「ルイス。あの人……」


「ああ。あいつ……騎士団の奴だ」


 ルイスも覚えていたようだ。騎士団の彼は言っていた。自分は皇帝の忠実な犬だと。そんな彼がギルドに何の用なのだろうか?

 注意深く見てしまった。そのため、サキが私達の視線の先にいる彼に気づいてしまった。


「知り合い?」


 彼の問いに首を傾げた。知り合いといえば知り合いだが、正直、知り合いと言うほど知っているわけではないのだ。そんな私の様子にサキは苦笑したが、ヨハンを見る目は鋭かった。


「彼……隙がないね」


 その言葉に私はもう一度、ヨハンを見たが、すぐに奥の部屋へと消えていく。


「中に入ったな」


 ルイスも同様に注意深く見ていたが、彼が奥の部屋に入ってしまい、追うことはできなかった。


「仕事かな?」


 ギルドに来る仕事って何だろう? 私が考え込んでいると、奥の部屋にいたギルド職員が焦ったように出て来たのだ。そして、違う部屋に入ると、両手いっぱいに液体が入った瓶を持って出て来た。


「……どうしたんだろう?」


 その言葉は皆が思っている事だった。だが、何が起きたのかすぐに知る事となる。


 少し前。シルルとユナ、そして男がギルド長がいる奥の部屋へと通された。彼らに話を聞くためだ。


 ギルド長の名前はディアナだ。元は冒険者だったが、引退して今はギルド長として働いている。彼女を慕うものは多くいる。厳しい所はあるが、皆を引っ張る力がある。それに、彼女ほど公正に人を見るものはいない。そのため、ギルド長として選ばれたのだが……現在、頭を抱えていた。何故なら、ギルドで揉めた二人の話を聞くとそれぞれの主張が違うのだ。ディアナは深いため息を吐いた。シルルの話が本当であれば、男は罪に問うことになる。しかし、その話が嘘であった場合も問題になるのだ。冤罪が生まれたとなると、このギルドの評判が落ちるのだ。さて、どうしたものか……そう思っていると、ギルド職員が慌てた様子で部屋へと入ってきたのだ。


「失礼します!!」


「どうした?」


 慌てた様子の彼の後ろから出てきた者にディアナは目を見開いた。


「こんにちは」


 現れた男はヨハン・スムーズ。皇帝の忠実な犬。人当たりが良い笑みを浮かべているが、隙のない男だ。それに、奴が来たとなると、男は『黒』だという事だ。

 彼がギルドを訪れた時は大抵が獣人の奴隷が関わっている。もしくは……皇帝の地雷を踏んだかだ。


「あれ? やっぱり、シルルさんとユナさんですね」


 ヨハンが座っている彼女達に手を振った。だが、二人は無視を決め込んでいた。


「知り合いだったのか?」


「そうなんです」


「違う」

「ちげえ」


 即座に否定されたヨハンは苦笑した。だが、すぐに鋭い視線を男に向けた。向けられた男はすぐに目を逸らした。


「彼に話を聞いても?」


 この部屋の主であるディアナに許可をとるが、それは建前だ。答えはイエスしか求めていないのだから。ディアナは手で追い払うような仕草をした。


「勝手にしろ」


「ありがとうございます」


 ヨハンはすぐさま、男のそばに行き、声をかけた。


「通信魔道具は持っていますか?」


「はっ?」


 男はその問いに目を見開いた。何故、突然そんな事を聞かれたのかわからないからだ。だが、通信魔道具を持っているのは本当だ。


「通信魔道具は持っていますか?」


「持ってねーよ」


 しかし、男は嘘をついた。魔道具はとある商人から貰ったの物だった。冒険者として伸び悩んでいる上に、お金も底をついていた時だ。その魔道具で頼まれた事をこなすだけでお金が貰えた。さらに、獣人を報告して連れていくと高値で買い取ってくれる。男はそれが奴隷の売買だと気づいているが、お金に目がくらみ、辞めようとは思わなかった。それに、獣人を人として見ていないのだ。何が悪いのか分からなかった。ニーナが獣人だと気づいたのは偶々だった。深くフードを被っているとはいえ、頭の部分が微妙に膨らんでいた。獣人を何度も見ていた男はそれが耳の膨らみだと気づいたのだ。


「そうですか……。なら、服装検査をしても良いですか?」


 爽やかな笑みを浮かべるヨハンの瞳は鋭いままだった。そんな視線に男はたじろぎそうになるが、魔道具がバレた方が困るのでしらをきる。


「知らねーって、言っているだろ? もう、いいか? 俺は暇じゃねーんだよ」


 しかし、男が立ち上がった瞬間だった。彼が急に「熱い! 熱い!」と騒ぎ始めたのだ。そして、急いでポケットから通信魔道具を取り出したのだ。しかし、その魔道具にヨハンとディアナは目を見開いた。真っ赤に染まっていたのだ。そして、一瞬の隙だった。その魔道具から手が伸びたのだ。


「はっ⁈」


 その手は男の喉元に向かっていた。ヨハンはすぐさま剣を抜き、ディアナも壁に立て掛けていた剣を手に取った。しかし、遅かった。男の喉は斬られていた。一瞬の出来事だった。


「いっ、急いで、上級ポーションを! 上級ポーションを持ってきて!」


 上級ポーション。怪我を一瞬で治すことができる魔法が込められた液体だ。シルルが作る薬とはまた別の物である。


 ディアナの声に職員は慌ててポーションが入った瓶を取りに行った。


「おいっ! 起きろよ! お前に聞きたい事があるんだ!」


 しかし、間に合わなかった。男の身体は冷たくなっていた。その横で魔道具は粉々に割れていた。

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