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アイラの受難

「ヨハン氏ー。カラスの子供の奴隷紋の解除が先じゃないのー?」


 ヨハンの後ろを歩くリカルドは奴隷紋がついた子供の事を思い出した。だが、問いかけられた彼の足が止まることはない。


「ヨハン氏ー! 某の言葉は聞こえるー?」


「聞こえています。カラスの子供の奴隷紋については解除されている可能性があるので」


「ええ⁈ 某でも頑張らないとできないのに⁈ 他の人間ができると⁈」


 リカルドは魔法に対してだけ、自己肯定感が高い。その証拠に「某以外ができると?」などとほざいているからだ。アイラはそんな二人のやり取りをただ聞いているだけだ。会話に入るなど面倒な上に意見を求められるかもしれないからだ。それは嫌だと思い、空気に徹していた。


「リカルド殿。さっさと、歩いてください。奴隷商の痕跡がさらに消えるかもしれないでしょう」


「ない痕跡がさらに消える筈などないでしょうが」


 煽るような笑みをこちらに向けたリカルドにヨハンはにっこりと微笑んだ。ただし、目の奥は笑っていない。


「…………」


 そして、彼に背を向けて早歩きで歩き始めた。


「ヨッ、ヨハン氏ー? おっ、怒ってる?」


「…………いえ」


「その声は怒ってるじゃんー」


「別に。さっさと、付いて来てください。貴方のせいで日が暮れたら最悪です」


「めっちゃおこってるー」


 そんな二人の様子を見ながら、アイラは深いため息を見えないように吐いた。そして、二人の会話に口を挟まずに空気に徹して良かったなと思っていた。


 そんな彼らの様子を窓から見ていた皇帝は顔を顰めていた。獣人に対しての差別は未だに減らない。それどころか、この国の人間の多くが獣人を下に見ていた。そのため、商売が捗るとでも思っているのか奴隷商が減らないのだ。それどころか、彼らの痕跡は消える。まるで初めから何もなかったかのように。


「魔法か? ……優れた魔法師でも雇っているのか?」


 その呟きに誰も答えることはない。誰も理由がわからないからだ。答えを知るのは奴隷商のみだ。


 そんな奴隷商を追う三人は街へと向かった。だが、そこで問題が起きたのだ。


「ヨハン氏ー。某に街は無理ですー。人混みで吐きそう……と言うよりも、視線が某に突き刺さっている気がする」


「気のせいです。リカルド殿、その視線は気のせいですので、さっさと、痕跡を調べてください」


「ない痕跡をどうしろと⁈」


「どうにかするのが貴方の仕事です」


 二人の会話を聞きながら、アイラは他に視線を向けた。魔道具で連絡を取っている男がいたからだ。魔道具の種類は通信伝達用である。庶民には到底手が出ない品の筈だ。それなのに、貴族でも商人でもない男が持つのは不釣り合いだ。それに、その男に聞き耳を立てているエルフの女性も目が入ったのだ。


「リカルド様……」


 怪しい組み合わせに疑問に思ったアイラは二人に声をかけようとしたが、ヨハンの足元で土下座するリカルドを見てやめた。


「……あーし、少し見て来ます」


 それだけ呟くと、その場を後にして、男の後に付いて行った。だが、彼が向かった先は冒険者ギルドだった。そして、中を覗くと。エルフの女性が男の頭を掴んでいるだはないか。アイラは言葉を失い、顔を真っ青に青ざめた。


「ええ……。エルフ、やばすぎ……。あーしには無理だ」


 そして、アイラはすぐさま二人の元へと戻り、彼女が見た二人の話をした。

 すると、話を聞いたヨハンが首を横に傾げたのだ。


「そのエルフの女性の側には小さなコダヌキとカラスはいた?」


「コダヌキとカラスっすか……? 見ていないです」


 エルフの女性が強烈すぎて、他に目はいかなかったのだ。


「……じゃあ、男が通信伝達魔道具で何を話していたかはわかるか?」


「ああ……それなら、わかるっす」


 アイラは男の口元を見て会話の内容を読み取っていた。彼女は口の動きで何を言っているのかわかるのだ。


「男はこう言っていたっす。『獣人の子供見つけた! 売れば、高値だ! 俺は、冒険者ギルドに戻って、そいつらの様子を伺う。奴らがギルドから出た後に狙おう』って……」


「男は奴隷商と繋がっている可能性が高いな」


 ヨハンは考え込んだ。その隣でリカルドだけが置いてけぼりになっており、ソワソワとしながら周りを見渡した。


「リカルド様。落ち着いてくださいっす」


「おっ、落ち着いているよ!」


 そんな二人にヨハンは提案した。


「ギルドに行き、男の身柄を引き受けよう。それは、私が行う。リカルド殿とアイラは男の通信相手を探して欲しい」


「ええ⁈ 通信相手⁈ そんなに簡単に見つからないって⁈」


 無理無理と首を横に振るリカルドに冷めた瞳を向けた。


「わっ、わかった! わかったよ!! 探せばいいんでしょ!」


「…………魔塔主の貴方に期待しています」


「その目は期待していないよね⁈ 某、本当にすごい魔法使いだからね!」


 そんな彼の叫びを無視して、ヨハンはギルドに向かった。

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