挨拶②
ユナは深いため息を吐きながら、首を傾げるシルルを見つめた後に、隅に立っている背の高い男を確認した。
「顔はイケてるな……顔だけは合格だ」
そんな事を言いながらも、話を元に戻す。
「それで? 家を出て、あの男と結婚でもするのかよ?」
「はっ?」
ユナは驚いた。何故なら、いつも無表情のシルルが顔を思いっきり顰めたからだ。内心、こんな顔もできるのだと感心してしまった。
「じゃあ、どうして、家を出て行く? あの男と関係ねえのかよ? チビどもと一緒にいるが……」
ユナの目に映るのは小さな子供達が男と楽しげに話す様子だ。
「仲は良いみてえだしな」
「…………嫌がっているわ」
シルルも彼女同様に視線を三人に向けるが、どう見てもルイスが怒っている上に、ニーナが顔を引き攣らせていた。
「いや、じゃあ……何で一緒にいるんだよ」
「……あの男が勝手について来たのよ」
「ストーカーかよ。私が捕まえようか?」
サキの元へと行こうとする彼女をシルルは止めようと……しなかった。
「おい!!」
三人で隅に立っていると、ユナが怒りの形相で話しかけて来たので驚いた。それは、私だけではない。その証拠にルイスが握る手を強めたのだ。ただ、サキだけが笑っている。
「やっぱり、強靭な人……」
その呟きは彼には届いていない。その代わり、ユナと真正面から見つめ合っていた。
「こんにちはー」
爽やかに笑う彼とは違い、ユナはずっと彼を睨みつけている。一触触発の空気だ。何故、彼女を止めなかったのかと非難めいた視線をシルルに向けたが、先程まで居たはずの場所に彼女の姿はなかった。
「えっ? シルルさん?」
私はキョロキョロと辺りを見渡して、彼女の存在を探すが、姿は見えない。どこに行ったのだろう。そう思った瞬間、壁が砕けたような大きな音が真横から聞こえてきた。
「ええっ⁈」
すぐさま隣を確認すると、サキの真横あたりの壁が崩れていた。それも、人の拳の大きさぐらいだ。そして、それを行ったのがユナだとすぐに気がついた。何故なら、彼女の手に壁の砂が付いていたからだ。
「やべい奴……」
ルイスがそう呟くと、私の手を引いて、彼らから距離を取った。それなのに、私達の行く手を阻むかのようにサキが声をかけて来た。
「ニーナちゃん。どこに行くの? 俺を置いて……」
まるで置き去りにされる子犬のような顔を私に向けたのだ。
「見るな。知り合いだと思われる」
ルイスの言葉に頷くと、サキを無視してソフィがいる場所へと向かった。ここよりはきっと安全な上に、シルルもそこにいる気がしたからだ。
二人の子供に置いていかれたサキは「嘘でしょ⁈」と叫んだが、すぐに表情を変えた。先程までの爽やかな様子はない。むしろ、顔を顰めている彼女を挑発するように笑った。ただし、視線の先はずっと二人の子供に向かっている。
「お姉さんはあの三人と仲が良いんだね?」
「ああ? 当たり前だろう!」
「へえ……いいなー。俺も、仲良くなりたいなぁ。お姉さんよりも、もっと親しい関係にね」
そして、二人が受付の女性に話しかけたのが見えた後に視線をユナに向ける。
「あれ? 俺、何か変な事でも言ったかな? 首元にナイフが当たってる気がするんだけど……」
サキの首スレスレに短剣を剣先を当てた彼女は無理やり笑顔に変えた。
「私よりもあいつらと仲良く? そんな事、許すはずがないだろ? その減らず口、塞いでやろうか? ストーカー野郎が!」
「ストーカー⁈ とんだ誤解だよ!! 俺は、サキって名前で、ニーナちゃん達と仲間になる男!!」
大きな声で叫んだサキの声はニーナ達の耳にも届いた。だけど、彼の元に行くという選択肢はなく、ソフィにルイスを紹介していた。
「ルイスだよ。シルルさんと私の新しい家族」
紹介されたルイスは軽く頭を下げるだけで彼女から顔を逸らした。そんな彼の様子にソフィは口元に手を当てて叫んだ。
「可愛いーー!! ええ⁈ 可愛い子が二人になったー!! 紹介してくれるのも嬉しい!!」
そんな彼女の様子にルイスは引いていた。その証拠に私の手を引いてこの場を去ろうとするのだ。だが、ソフィには街を出て行く事を話していない。そのため、その場を動かなかった。それに、この場にいるだろうと予想していたシルルの姿がなかった。どこに行ったのだろうと思っていると、サキが駆け寄って来てルイスもろとも両手を大きく広げて抱きついて来たのだ。
「はあ⁈ 離せよ! この、馬鹿!! 馬鹿力が!!」
ルイスが暴れるがサキの腕は離れない。それどころかさらに強くなる。
「二人ともひどいんだよー。彼女が俺の事をストーカーって言うんだよ! それに、俺の事を殺そうとするんだ。助けてよー!」
うわぁ。そんな声が口から漏れた。だが、喚く彼の耳には届かなかった。それよりも、大の大人が子供に抱きついて喚くなど恥ずかしいったらない。その証拠にユナの顔を引き攣らせて、何だこいつ? って引いている。
「チビども。こいつ……どうする? 警備隊に渡すか?」
彼女の口からそんな言葉まで出ている。警備隊は流石に駄目だ。彼の仲間に怒られそうだからだ。そのため、ユナに向かって叫んだ。叫んだのはサキの声に自分の声がかき消されないためである。
「ユナさん!! 一応、こんな人でもこれからお世話になるから大丈夫!! 警備隊は呼ばないで!!」
その言葉にユナは私とルイスに視線を向けた。私は頷き、ルイスも渋々頷いた。それに対してサキはさらに抱きしめる力を強くする。
「嬉しい! やっぱり、俺たちは仲良くなれるね! 短剣のお姉さんよりも!!」
一言……一言多い気がする。その証拠にサキの頭をユナが叩いた。
「痛い⁈」
「あたりめーだろ。なんか……むかつく。ストーカー野郎のくせして」
「ええ⁈」
私達が騒いでいる時だった。またしても大きな音がギルド内で響いたのである。其方に皆が視線を向けた。勿論、私も視線を向けた。
「……ええっ⁈ シルルさん?」
視線の先には体格の良い男の頭を掴んで持ち上げるシルルの姿があった。




