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一緒に生活

「シルルさん! 起きて!」


 隣で寝ている彼女の背中を強めに叩いた。そうしないと、いつまで経っても起きないのだ。別に私一人が先に起きてもいいのだが、それができないから彼女を起こしている。


「そ・れ・か! 私から離れて!!」


 彼女の手は私の背中に回っている。つまり、私は彼女の抱き枕になっているのだ。彼女に潰される事はないのだが、力が強すぎて抜け出す事はできない。


「お腹! お腹すいたの!!」


 日の上がり方からもう、昼前だろう。そのため、お腹が空いている。彼女の耳元に向かって大きな声で叫ぶと薄らと目を開けた彼女はゆっくりと視線を私に合わせた。


「……おはよう」


「おはようございます! もう、お昼だけどね!」


「あら……もう、そんな時間かしら?」


 シルルは私から手をゆっくりと離すと、身体を起こした。


「お腹すいた……。ご飯は昨日の残りで作ろうかしら?」


「わっ、私が作るよ!!」


 シルルが作ると二分の一の確率で炭に変わる。そのため、基本的には私が作っている。

 急いでベッドから降りて、台所に向かった。


 フライパンを手に取ると、シルルが私の横に立った。

 そして、薪に火をつけた。この世界には魔道具という便利な道具が存在する。例えば、ボタン一つで火がついたり、手をかざすだけで水が出たりという物だ。だが、シルルの家には魔道具は一切ないのだ。彼女自身が魔法を操る事に長けているため、そういう道具を必要としなかったためだ。そのため、料理をするときなどは彼女の魔法にお願いしている。


「ありがとう!」


 笑顔を彼女に向けると、シルルは目元を和らげた。


 彼女の手を取ったあの日から、私はシルルと暮らしている。

 その家は森の奥深くにある。そして、家の周りには結界が張られている。それに気づいたのは暮らし初めてすぐのことだった。外に出た時に透明の見えない壁にぶつかったからだ。シルル曰く、安全のためらしい。

 彼女は料理が苦手で、面倒くさがりなところがある。だけど、優しく、そして穏やかな人だった。私の事を愛情を持って一生懸命に育てようとしている事も側にいればわかる。例え、表情が乏しくてもだ。


 だけど、何故見ず知らずの私を引き取ったのか気になった。だから、初めて一緒にベッドに横になった時にどうして、私と一緒に暮らしてくれるのか聞いた。


「シルルさん……どうして?」


「……貴方が迷子の子だったから……」


「それだけ?」


「……子供には家族が必要なの」


「……私が……子供じゃなかったら? どうしてた?」


 その言葉にシルルは考える素振りなど一切なく、即答した。


「家族になっていたわ」


 それを聞いた私は起き上がって目を見開いて彼女を見た。


「どうして? 大人だよ?」


「……一人で寂しいからよ」


 シルルも起き上がると、そっと私を引き寄せて抱きしめた。


「……私が一人でいるのが寂しくなったのよ。だから、一緒に暮らして欲しいの」


 抱きしめる力は弱く、すぐにでも彼女から逃げることはできるのだが、それができなかった。それどころか、目から涙が出てきた。ずっと、不安だったのだ。突然異世界に飛ばされて、怖い人たちに絡まれたりと、普段の日常とは異なる事に恐怖も芽生えていた。これからどうすればいいのかさえ全く分からなかった。だけど、抱きしめられる温かさに心がゆっくりと落ち着いていく。


「本当に? 私、何もできないよ。それに、シルルさんを苛立たせてしまうかもしれない」


 しかし、上司や先輩を思い出した。ほんの小さな些細な事で嫌われた。だから、私は人と関わるのが苦手になった。もしかしたら、彼女にもすぐに嫌われてしまうかもしれない。


「大丈夫よ。私もよく、怒られるの……一緒ね」


 ゆっくりと彼女の背中に手を回した。すると、シルルは私の背中をポンポンと優しく叩いた。鼻を軽く啜りながら、小さく溢した。


「私の名前……新名」


()()()? 可愛い名前」


 そんな言葉は初めてだ。嬉しくでギュッと抱きしめる力を強くした。


「ニーナ。今日から貴方は私の家族よ……」


「……うん」


「これから……よろしくね」


 シルルは私と目を合わすと、無表情の表情を柔らげて、微笑んだ。

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