ルイスの気持ち
朝日が窓から入り、眩しさから目を開けると、そこには真っ黒な瞳と目が合った。
「わっ……ふふっ……おはよう」
初めは驚いたが、すぐに誰なのか気づいて微笑んだ。すると、目の前の彼も目元を柔らげた。
機嫌が良さそうな彼に私も機嫌が良くなる。
「おはよう……ニーナ」
「ふふっ……」
「機嫌が良いな」
「それは、ルイスでしょ?」
その言葉に彼は身体を起こした。そして、私の身体も彼は起き上がらせた。
「さっさと着替えろよ」
「あれ……シルルさんは?」
側で寝ている筈の彼女がいない。もう、起きているということだろう。
「朝ごはん作ってる」
「大丈夫かな?」
「…………大丈夫だろ」
ルイスの言葉には間があった。少しだけ不安に駆られたのだろう。
「……あの人達も手伝うって言っていた」
あの人達……昨日の二人の事だ。なら、大丈夫なのかな?
「じゃあ、行くか」
差し出された手を取って、ベッドから降りた。そして、朝ごはんを食べる前に身だしなみだけは整えた方がいいと思い、櫛で髪をとかそうとしたら、何故かルイスに櫛を取られた。
「えっ? 返して」
だが、彼は私を近くの小さな椅子に座らせると、彼はその後ろに回って私の髪をとかし始めた。
「どうしたの?」
「時間がかかるだろ?」
「ええ……シルルさんじゃないから、大丈夫だよ」
「…………俺がやりたいんだよ」
ルイスの様子がいつもと違う。それに、私の髪に触れる手がとても優しい。
「……ねえ、ルイス」
「何だよ……」
「シルルさんと二人の時も楽しかったけど、ルイスが家に来てくれて……さらに、もっと……楽しくなったよ……」
段々と目が潤んできた。泣きたいわけじゃない。彼に一緒にいられて楽しくて、貴方のことが大好きだよ、と伝えたいだけなのに、涙が出てくるのだ。
「ごっ、ごめん……めっ、目にゴミが入ったみた……」
涙を誤魔化そうとした時だった。後ろにいた筈の彼が目の前にいた。
「泣くなよ……」
そんな事を言いながら、彼の目から同じように大粒の涙が溢れていた。
「ルイス? どうしたの? 大丈夫?」
「……俺は、大丈夫だよ」
そう言いながらも彼の目からは涙が止まらない。そして、両手を伸ばして私を抱きしめた。
「俺がいなくなっても……怪我はするなよ」
「…………うん」
「シルルと仲良くしろよ」
「……うん」
「俺を…………」
ルイスは昨日の会話を聞いていて、決心したのだろう。
「俺を…………忘れないで」
その声は小さくて気を抜けば聞き逃してしまいそうだった。だけど、目の前の彼を見れば何を言いたいかは一目瞭然だった。
「忘れないよ。ルイスも私を忘れないでよ」
「……こんなポンコツたぬきなんて忘れたくても忘れない」
「ポンコツじゃないもん」
「じゃあ、小さな可愛いコダヌキ」
「…………それは、いい」
すると、彼の肩が小さく揺れた。笑っているのだろう。
「ねえ……ルイス」
私は彼からゆっくりと離れて、目を合わせた。真っ黒な瞳に私が映っている。
「行くんだね」
「ああ。俺は……空をもう一度、飛びたい!」
その瞳に嘘はない。彼が心の底から願っている事なのだ。
「……頑張ってくるんだよ!」
彼の頬を両手で挟んで額を合わせた。鼻と鼻がくっつきそうになるが、気にせずに額を合わせたままだ。
「ルイスはきっと、空を飛べる」
「…………飛べるようになる、じゃなくて……飛べるなんだな」
「当たり前だよ! ルイスは空を飛べるもん」
「……ああ。俺は、空を飛ぶ。そして、空を飛んで……もう一度、ニーナとシルルに会いに来る」
「絶対、絶対だよ!」
「ああ……約束だ」
約束。その言葉が嬉しくて、大きく頷いた。
「目が赤くなってる」
「お互い様だろ」
そして、二人で顔を見合わせて笑った。




