夜中にこっそり②
「お嬢さん。大丈夫?」
「あっ……」
サキがもう一度、優しく私の頭を撫でた。
「彼と離れるのは嫌?」
優しい声で問いかけるそれに首を横に振る。本当は離れるのは嫌。それに、寂しい。過ごした時間は短いが、私の中で彼はなくてはならない存在になっている。目から勝手に涙が溢れていた。
「そっかー。じゃあ、寂しいのかー」
その言葉に小さくだが、何度も頷いた。それを見た二人は顔を見合わせて困ったように笑った。
「なら、どうする? 本人の意思にもよるが……」
「……明日、ルイスに聞いてみる。あの子……空が好きなの……。できれば、彼を連れて行って欲しい」
「そうだね。本人の意思を確認しないとね」
サキは何度も私の頭を撫でる。
「じゃあ、夜も遅いし……寝ようか」
その言葉に頷いて、その場から離れようとした時だった。
「じゃあ、おいで」
私の前に両手を広げたサキがいた。そのため、一歩後ろに下がった。
「…………サキ」
「はい……って、痛い!」
ヴィルシュが勢いよくサキの頭を叩いた。涙目になりながら、痛いと喚く彼を冷めた目で見てしまうのは仕方がない。
「えっ? お嬢さんもそんな目で見ないでよー。冗談だよ。冗談」
「冗談に聞こえないんだよ」
「だって、フワフワの尻尾に子供体温なんて……一緒に寝たら、暖かいじゃないですかー」
「「うわぁー」」
私はまた一歩後ろに下がった。そして、ヴィルグはもう一度、彼の頭を叩いた。
「いたっ! って、二人とも同じ顔で俺のことを見てくるのやめてよ」
嘘泣きを始める彼を無視して、ヴィルグは私に早く寝に行け、と手で追い払う仕草をした。
「おっ、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
「おやすみー」
ヴィルグの優しい声とサキの穏やかな声によく眠れそうだなと思った。
そして、ゆっくりと部屋の扉を開ける。二人に気づかれないようにだ。
「……ニーナ」
だけど、目の前で静かに座っている彼女がいた。シルルだ。普段は絶対に起きないはずの彼女が起きている事に驚いて叫びそうになったが、何とか口を押さえて止めた。
「シルルさん……起きてたの?」
「……ええ。ニーナ、おいで」
彼女が両手を広げて、私を待っている。引き込まれるように彼女に近づいた。
「……眠れない?」
「ううん……。シルルさんこそ……眠れないの?」
その言葉に彼女は首を横に振った。だけど、それは嘘なのだと何故だか思った。
「あの……人たちの……こと、信用できない?」
彼女はきっと、二人のことを警戒して起きていたのだと思う。私達が不安がらないように寝たふりをしてまでだ。
「……私は、大人だから……貴方達を守らないといけないの……」
その言葉は私の勝手な行動に怒っているように聞こえた。だが、彼女は私を心配しているだけなのだ。
「……ごめんなさい」
「…………どうしたの?」
「勝手に二人に会いに行ったこと……」
彼女は小さく息を吐いたと思ったら、背中を優しくトントンとリズムよく叩き始めた。
「別に怒ってはいないわ……ニーナなりに二人に聞きたい事があったのよね……」
「うん……。ルイスに羽を返してあげたいの……」
「……あの人達なら、できると思ったの?」
「うん……」
「そうなのね……。さあ……もう、夜も遅いから寝ましょうね……」
彼女の優しい声と優しく背中を叩くリズムで段々と瞼が重くなっていった。
「おやすみ……私の可愛い子」
その優しい言葉を最後に意識を手放した。そのため、私達の会話をルイスが聞いていたことを知らなかった。
「……ルイス。貴方次第よ」
シルルの言葉にルイスはそっぽを向いて、無理やり目を閉じた。自分の羽を大きく広げて大空を飛ぶことを想像しながら。




