薬草を探す理由
ヴィルグとサキは海賊だった。海賊というと危ない連中のように聞こえるが、船の上で生活しながら、旅をしているだけなのだ。初めはヴィルグだけだったのだが、旅をしている間にたくさんの仲間達と出会ったのだ。だが、その内の一人である獣人のジンが毒に侵されてしまったのだ。海の魔獣に船が襲われた際にそれに対応した時に刺されたのだ。他の船員も同じく刺されたのだが、ジンは獣人だった。本当に偶々、皆が聞くはずの毒草が効かなかったのだ。焦ったヴィルグは片っ端から本を調べると、とある薬草なら毒と毒を消し去る作用がある草だとわかった。それは、数年前に立ち寄った場所で見つけたものだったが、特に必要ないと感じたヴィルグが適当に植え直した物だったのだ。そのことを思い出した彼はそこに船を移動させて、サキと降りたのだが、肝心の植えた場所が覚えていなかったのだ。
「これが……俺たちの事情だ」
二人を部屋の中に招き入れて、話を聞いた。その間、ニーナとルイスは二人から離れた位置に座っていた。これは、シルルの指示だった。彼女は話を聞くために部屋に入れたが、子供達と関わるのは避けたかったのである。
「海賊……」
本当にいるんだな……。マジマジと二人を見つめていると、サキという男に手を振られた。それに振り返そうとしたら、ルイスに止められた。
「変な奴に手を振りかえすなよ」
「でも、いい人そうだよ」
「人は見た目じゃない」
二人に警戒心MAXなルイスはニーナの側を離れなかった。その様子をサキは微笑ましい顔で見ていた。
「小さな子って可愛いー。警戒してるしー」
そんな彼をヴィルグは呆れたように見ていたが、シルルは冷めたように見ていた。
「それで、あんたは俺たちが探しているものに検討がついているようだな」
獣人と人では効能が違う薬草。そして、シルルが植えた記憶がない草……。私は謎の草を植え直した鉢植えに目を向けた。
「持ってくるわ……絶対にその場から一歩も動かないで待っていて……絶対に動かないで」
何度も念押ししたシルルに苦笑を浮かべた二人を置いて、彼女は席を立った。私はその隙に彼らに近づいた。
「あっ、あの……」
ニーナが席を立ったことでルイスも共に動いたが、二人に近づいたことで腕を強く引っ張られた。
「近づくなって言っただろ!」
ルイスの語尾が強く一瞬ビクッと身体が反応した。その事に気づいた彼は罰が悪そうな顔をしたが、自分が悪いわけではないと私を連れて行こうとする。それを止めたのがサキだった。
「お嬢さんは俺たちに何か用があるんじゃないの?」
「あっ……」
私は引っ張られながら、後ろを振り向いた。そして、無理やり足を止めた。
「おい……」
「だって……私は大丈夫だから……」
二人のやり取りを見ていたサキが小さく笑った。
「なら、少し離れた位置からでもいいよ。お嬢さんは何が聞きたいの?」
「えっと……」
顔を顰めているルイスの顔を見た後に彼の背中に目を向けた。だが、すぐに視線は彼らに戻した。
「うっ、海は……広い?」
「そうだねー。お嬢さんが想像しているよりも広くて、自由だよ!」
私が想像しているよりも世界は広い。それに、色んな旅をしている彼らなら、もしかしたら……そんな希望を胸抱いた時だった。シルルが鉢植えを持って戻ってきた。
「……お待たせ」
彼らの意識は私ではなく鉢植えに映った。そのため、ルイスも止めていた足を動かして私を彼らから離した。
「……貴方達が探している物であっているかしら?」
食い入るように鉢植えを見ていたヴィルグはシルルの言葉に頷いた。
「……これは、貰っても……いいのか?」
「元々貴方の物でしょう。だけど……少しだけ、分けて欲しいわ。これから先の未来……あの子達が何かあった時に使えるようにしたいの……そんな未来は訪れないけど」
シルルの視線は私たちに向けられていた。そして、ヴィルグはそれに頷き返した。
「ああ。それは構わない。こいつらに使ってくれ……」
このままでは、彼らはもう出て行ってしまう。そうなると、彼らに話を聞くことができない。
「シッ、シルルさん」
「どうしたの?」
「あっ、あの……もっ、もう、夜も遅いから……二人に泊まってもらったら?」
何とか振り絞って出た案だった。彼らを引き止めて話を聞くにはこれしかないと思ったのだ。だが、想像通り、ルイスとシルルは顔を歪ませた。
「駄目だろ。まだ、危ない奴じゃないっていう保証はない」
ルイスの言葉は最もだ。だけど……私は彼らに話を聞きたいのだ。この世界は広い。もしかしたら……ルイスの羽が治るかもしれない。そんな希望を彼らに抱いたのだ。ルイスは空に憧れているのだ。彼はよく空を見上げている。ジッと見つめるのだ。その姿を見るたびに心が痛い。これは私のエゴかもしれないけど、彼には空をもう一度羽ばたいて欲しい。
「でっ、でも! 夜は危険だよ!」
引き下がりたくなくて、必死に二人を説得していると、サキが話に入ってきた。
「俺たちも朝一に出発したいと思っていたんですよー。よかったら、お嬢さんのご好意に甘えたいです。ねっ? リーダー」
その言葉にヴィルグも渋々ながら、頷いた。シルルとルイスだけはすごく嫌そうな顔をしていた。




