謎の草
ルイスが家に来てから一週間が経った。彼が家から出て行こうとしたのを無理矢理止めたのだ。魔法が解けたからと言って身体の調子が万全というわけではないからだ。今は二人で薬草園の水やりを行なっている。
「ニーナ。この草は抜いてもいいやつか?」
「えっ? どれ?」
二人で生えている草と手に持っている図鑑を交互に見比べるが見分けがつかなかった。そのため、図鑑を持ったまま部屋へと二人は向かう。彼女に答えを聞くためだ。
「シルルさん!」
「……どうしたの?」
二人の登場にベッドの上で横になり目を瞑っていた彼女はゆっくりと目を開けて顔だけをこちらに向けた。その姿に私たちの方がどうしたの? と言いたくなった。だが、この姿はいつもの事なので気にしない。シルルは薬の調合のやる気がなくなったらこうしてベッドに横になるのだ。しかし、ルイスはその姿を見たことがなかった。
「何してんだ?」
そのため、素直にその言葉が口から出て来た。その問いに答えるのはもちろん私だ。
「シルルさんの今の状況はやる気がないって姿だよ!」
だが、意味が正確に伝わらなかった。その証拠にルイスは首を傾げた。
「シルルさんはやる気がないんだよ」
そのため、もう一度彼に説明するのだが、さらに首を傾げられた。何故わからないのかわからない私も首を傾げた。
そんな私たちの様子を見ていたシルルは小さく笑った。
「どうして笑ったの?」
彼女が笑った理由が知りたくて問いかけたが、答えてはくれなかった。その代わりに起き上がって、一緒に外へと出てくれた。
「これは……何かしら?」
先程の草を彼女へと見せた。だが、彼女は何かわからずに首を傾げた。
「この草じゃないのか?」
そのため、ルイスがシルルに図鑑を見せた。だが、彼女は首を横に振った。
「それは……また、違うものね。この草の先がその本では尖っているけれど、これは丸みが帯びているの」
そう言われて、ルイスと共に草をジッと見つめると確かに微妙に違う。
「違うな」
「違うね」
二人で顔を見合わせて頷いた。だが、シルルだけはその草をジッと見ていた。
「どうしたの?」
そんな彼女が珍しくて問いかけた。すると、彼女は私の頭を撫でた。
「この草、私が植えたやつじゃないのよ」
「…………えっ?」
シルルが植えたものではない? なら、ただの雑草では?
「じゃあ、ただの雑草か? 抜いてもいいのか?」
ルイスも同じ答えだった。そのため、目の前の草を抜こうとしたのだが、シルルが止めた。
「…………抜かないで。ただの雑草じゃないと思うから」
ただの雑草じゃない? なら……何の草?
「危ないやつ?」
ルイスの言葉にシルルは首を傾げた。彼女自身、何の草なのかわかっていないのだ。それなのに、雑草ではないとわかるのは何故だろう。その疑問をそのまま彼女に問いかけた。
「何で雑草じゃないとわかるの? シルルさんも知らない草なんでしょう?」
「……その草、魔力が宿っているのよ……」
「えっ?」
魔力が……宿っている? 私にはただの雑草にしか見えない。それは、ルイスも同じでジッと見つめている。
「見た目にはわからないわ。ただ……草の周りに薄らとした魔力を纏っているのを感じるのよ」
この雑草に魔力が纏っている……。見た目にはわからないらしい。なら、手から感じられるのでは? と思い、草には触らずに手をかざしてみた。
「何にも感じないよ?」
それを見たルイスも同じように手をかざしてみたが、彼も首を傾げるだけだった。
「ふふっ……」
すると、私達の様子をジッと見ていたシルルが口から声を出して小さく笑っていたのだ。その様子が珍しくて目を見開いてしまった。
「この人……笑えるんだな」
すると、ルイスも彼女が笑った姿に驚いたのか私に小さく耳打ちした。
「すっごくレアだよ。シルルさんが声に出して笑うのは滅多にないから、今日はラッキーなことが起きるかもしれないよ!」
私は彼に向かってにっこりと笑った。すると、ルイスは呆れたような顔をしていた。
そして、草はシルルさんが根っこから引き抜き、土ごと鉢植えに移動させて部屋へと持って帰った。
「……危ないかもしれないから……一人でこの草に近づいては駄目よ」
そう言われて、私達二人は外で遊ぶ事にした。シルルさんは草を調べるらしい。
「魔力……わからなかったね」
「……そうだな」
私達は地面に座ったまま、何もせずに空を見上げていた。二人は時間を持て余していたのだ。




