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二人で見上げる星空

 結局、シルルの弟が家にやって来ることを待つことにしたため、私とルイスは薬草園で水撒きをすることにした。ユナは街へと向かい、シルルは部屋に戻り薬草を使って薬を作るらしい。


「俺……魔法なんて使えない」


 私も魔法は使えないよ。そのため、シルルから貰った小さなジョウロで水を撒いている。それが置いてある場所まで向かって口を咥えて彼の元へと向かった。


「……それで、撒くのか?」


 彼の言葉に何度も頷いた。そして、彼は私からジョウロを受け取ると、そこに水を入れて薬草の上にかけて行った。私はそんな彼の隣を歩いた。時折り、彼の細い腕から見える傷跡に心が傷んだ。どれだけ彼の心と身体が傷ついたかはわからない。だけど、これからは傷つかないでほしい。私はそんな思いを込めて小さく空に向かって鳴いた。


 その日はゆっくりとした時間が流れた。ただ、ルイスとシルルの間には少し緊張した空気が流れていた。

 その日の夜、ルイスはこっそりと部屋から出て行った。そして、薬草園の隅に小さく丸まって座った。


 喉が渇いて目が覚めると、ルイスがいないことに気づいた。今あるベッドの隣に子供サイズのベッドを魔法で簡易的に作り、そこで寝ていたはずだ。それなのに、今は誰もいない。それに焦った私はシルルを起こすことにした。

 シルルさん! 起きて! 起きて! 何度も彼女の身体を小さな手足で叩いて鳴いたが、うっすらと目を開けるだけだった。


「……どうしたの? ん? ……ああ、あの子なら……大丈夫よ。きっと、すぐに戻って来るわ」


 どうして? どうして、わかるの? ルイスはどこにいるの? それが聞きたくて彼女の耳元に向かって鳴いた。すると、彼女はゆっくりと指を外に向けた。彼女の指先は窓に向かっており、その先は薬草園だ。私は彼女を避けてベッドから降りた。そして、振り返り彼女に視線を向けると寝息が聞こえてきた。

 そのことに安心して、外に向かった。少し、不安だったのだ。彼がいないとはいえ、彼女を起こして騒いでしまったことにだ。シルルは怒ることはなかった。そのことに今更ながら安堵している。それに、自分の言葉が今は動物の鳴き声になっていることに安心している部分があるのだ。今のままでは不便だが、私の言葉で人が嫌な気持ちになることはない。

 そんなことを考えていると、薬草園の隅で丸くなっている彼を見つけた。だけど、その姿を見て心が傷んだ。一人で寂しくて、怖くて、だけど……どこにも行くところがない。そんな不安そうな彼の様子に私は自分を重ねてしまった。

 だけど、私は……シルルさんに出会った。

 私は自分の手を見た。小さな獣の手。先程まで人の姿じゃなくて安心していたのに……今は人に戻りたい。

 私はもう一度、彼に瞳を向けた。すると、彼……ルイスは空を一度見上げるとまた顔を隠した。そして、気づけば、私は彼に向かって走っていた。


「ルッルイス……ルイス!」


 その声に気づいたルイスは顔をあげた。だが、彼が声を出す前に私は彼を抱きしめた。


「だっ、大丈夫……大丈夫だよ……」


「お前……どうして……それに、人型……」


 私は両手一杯に彼を抱きしめる。彼を抱きしめてあげたい。そう思って彼に向かって走っている間に気づけば人の姿に戻っていた。


「ルイス。泣いてもいいよ……」


「……はっ?」


「ここには、私もいるよ。一人じゃないよ。大丈夫だよ……。私が……ルイスが泣いている間は、抱きしめてあげる」


「なっ、何言って……」


「私……ううん。ルイスの側にはシルルさんもいるよ。もう……一人じゃない」


 彼がゆっくりと私の背中に手を回して来た。すると、すぐ側から小さく泣く声が聞こえて来た。


「……ずっと、ずっと……寂しかった……殴られるのは……嫌だった……本当は……この羽、嫌いじゃなかった……もう一度、そ……らを……空を自由に……飛びたい」


「うん……うん……」


 背中に回る彼の手は必死に私にしがみついていた。その間、私はずっと彼を抱きしめていた。彼が泣き止むまでずっと……。


「……俺が泣いたことは誰にも言うなよ」


 鼻声で何度も私に言う彼に小さく笑った。


「大丈夫だよ。誰にも言わないよ」


「絶対だぞ」


 必死な彼の様子に私はもう一度笑った後に空を見上げた。


「っ!! ルイス見て!」


 見上げた瞬間に流れ星が落ちた。私はその光景に興奮して隣に座る彼の服を引っ張った。


「流れ星! 流れ星だよ!」


 その言葉に彼も私と同じように空を見上げると、目を見開いた。一度だけではなく、何度も流れたのだ。その光景に二人して見惚れた。


「……きれいだな」


「うん……とっても……」


 私たち二人は流れ星が全て落ちるまでずっと二人で空を見上げた。その間、二人の手はしっかりと握られていた。

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