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奴隷紋

「理由は……分かった」


 ルイスの手に力が入っていることに気づいた。どうしたの? 大丈夫? と彼に向かって鳴くと、揺れる瞳を私に向けた。


「先程も言ったけど……私の魔法だけでは、奴隷紋の解除は難しいわ……」


 ルイスの足に施された魔法『奴隷紋』その言葉通り、奴隷に堕ちたものにつけられる印。簡単に逃げ出さないように居場所の特定と主人を裏切らないように施されたものだ。もし、主人に反抗しようとするなら、そこから電撃が与えられ、主人が死ぬ時はその奴隷紋が爆発する仕組みになっている。そのため、奴隷紋は脈の上に施されることが多い。


 それを解除するためには契約書の破棄、もしくは魔法での解除なのだが……契約書は不明、魔法の解除も難しいのだ。


「この変な模様……奴隷紋ってやつだったのか……知らなかった」


 捕まった日に気づいたら足に施されたものだった。そのため、何の意味があるのか気づかなかったのだ。それに、自分を買った親子も知らなかったのか電撃もされたことがなかったからだ。そこは不幸中の幸いと言ってもいいのか微妙な所だが、気絶するほどの痛みらしいのでよかった。


「契約書については、店の中を探しても発見できなかったそうよ……」


「そうか……」


 だが、彼の足に施されたものを解かなければ、自由とは言えない。そのため、解除しようと心がけたシルルだが、複雑な仕組みの魔法のため、変に触ると爆発する恐れがあったのだ。


「だから……会いに行こうと思うの」


「魔塔主が不在にしていても?」


 会話に突然入ってきた男がいた。


「こんにちは。少年」


 先程まで寝ていた筈のヨハンである。その彼が起き上がり、私達の会話に入ってきた。だけど、先程の雰囲気とは異なっていた。

 そのため、私たちは彼を警戒した。だが、そんな様子を見たヨハンは苦笑した。


「ごめん、ごめん。驚かせたかな? 俺の名前はヨハン。ヨハン・スムーズ。第三騎士団所属の騎士であり、飴屋の店主であり、時には食堂の意地悪なおじさん。そして……皇帝の忠実な犬。どうぞ、お見知りおきを……」


 会釈したヨハンはどこから出したのかわからない動物の形をした飴を二つ取り出した。そして、それをルイスに渡した。一瞬食べるのを迷ったルイスだったが、覚悟を決めてそれを口に入れた。すると、彼は表情を明るくさせた。


「あまい……」


 そして、もう一度飴を口に入れた。それをジッと見ていた私に気づいたルイスはもう一つの飴を私の口に近づけた。


「お前も舐めてみろ……美味しいぞ」


 その言葉通り、私は飴を口に入れた。美味しい。それに、この動物の形も可愛い。そして……私はこの飴を舐めたことがある。街に行った時にシルルに買ってもらったものと同じだ。私はヨハンを見ると、人差し指を口に当てて微笑まれた。


「……貴方が誰なのか……正直、私には関係ないわ」


 シルルの冷めた声が部屋に響く。ヨハンに向ける瞳も冷めていた。


「私達に危害を加えなければ……ね」


 その言葉にヨハンは両手をあげて、苦笑した。


「今日の俺の目的は彼に話を聞くだけです。奴隷商人を捕まえるために。この国の新しい皇帝は奴隷制度を許さない方ですので」


「……なら、どうして魔塔主が不在なのを知っているの?」


「皇帝が魔塔主に命じているので……奴隷紋を解除せよってね。だから、今回も……少年についた奴隷紋の確認をした後に魔塔へと案内するつもりでした。しかし……その、魔塔主が現在不在にしていることをここにくる前に知りまして……」


 ヨハンは視線を逸らして困ったように笑った。そこから察するに勝手に留守にしたのだろう。


「なので、契約書の方はどうだろうと調べたんですが……不明で……そのことは説明したのでご存じだと思いますが……」


「理由はわかったわ。だけど……私が会いに行くのは、魔塔主じゃないわよ」


「えっ?」


 ルイスは飴に夢中で二人の話を聞いていないようだった。私は首を傾げて二人を見たが、ヨハンは驚いた様子だったのだ。これだけの複雑な魔法となると、解けることができるのは魔塔主だろうと普通なら考える。魔塔とは魔法使いが所属する機関である。そして、魔塔主というのはその魔塔で一番トップに存在する人を指す。つまり、この国で一番の魔法使いというわけだ。


「私は……弟に会いに行くつもりよ」


「弟、ですか……?」


「ええ」


 その言葉に驚いた。彼女の家族の話など聞いたことがなかったからだ。


「……魔法について詳しい子だから……きっと、その子に施された魔法を解けると思うの」


 その瞳は嘘をついているように見えない。そのため、ヨハンは考えた。魔塔主を探すよりも彼女の弟を頼る方が早いだろうと。


「わかりました。彼のことは貴方に任せます。ですが……奴隷商人のことは私達に任せていただけますか?」


「……別にいいわ。私はニーナがその子を心配しているから力を貸すだけ。奴隷商人……は貴方達の勝手にしたらいいわ」


 ヨハンはニコリと笑った。シルルはそんな彼を無視してお茶を飲んだ。

 そして、飴を舐め終わった彼から話を聞くと、未だ寝ている先輩を叩き起こして、家から出て行った。

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