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エルフ……?

 目をゆっくりと開けると、その瞳に映ったものは銀髪でできたカーテンのように長い髪を垂らしたまま私を見下ろす気怠げな緑色の瞳だった。


「ヒッ!!」


 人間、本当に驚くと大きな声が出ないようだ。


「起きたのね……」


 そう呟くと、その人は私から離れた。

 目をパチパチとして、身体をゆっくりと起き上がらせた。すると、ドンッと音と共に目の前に鹿が置かれた。それも、冷たい体に目を閉じた鹿だ。


「お腹が空いているでしょう。食べて」


 …………空いた口から言葉が出てこなかった。


 鹿と首を傾げた様子の彼女を交互に見つめた。そして、気づいた。近くに立っている彼女は人とは思えないほどの綺麗な顔にピンっと尖った耳、それに長身にスラリとした身体。息を呑んだ。


「エッ、エルフ……?」


「そうよ。私はエルフ……シルルと呼んで」


 シルルは近くにあった椅子に座った。だが、気怠げな視線は私から逸さなかった。


「……食べないの?」


 エルフがいると言う事は……あれは夢じゃなく、ここは異世界だと言う事だ。もしくは、夢のままなのかもしれないが……そんなことを考えていると、座っていたシルルが目の前にいた。


「子供はたくさん食べないと大きくならないわ」


「こども……子供⁈」


「ええ。貴方は小さな子供。何をそんなに驚くのかしら?」


 表情を変えない彼女は淡々とした話し方だ。だが、瞳だけはどこか気怠げだ。


「さあ……食べて」


 鹿を持ち上げて、食べさせようとするが、流石に生肉は無理だ。


「なっ、生肉は嫌!」


 鹿から距離を取るように後ろに下がるが、すぐに壁にぶつかった。もしかしたら、彼女が怒っているかもしれないと恐る恐るシルルを見ると、鹿を持ったまま考え込んでいた。


「……()()は生肉が好きじゃないのかしら?」


 獣人? ……えっ? 獣人? 彼女の言葉に首を傾げると、頭の中に声が響いてきた。


『申し訳ありません! 獣人の数が足りないので、そちらにさせてもらいました! あっ! でも、安心してくださいね。君が好きな動物にしましたよ!』


 ……嘘でしょ。それだけの理由で? それに、私の好きな動物? そこで思い浮かんだのは犬だが、そんなことをあの妖精が知っているのだろうかと考えてしまった。


「生肉が嫌なのは、()()()だからかしら?」


「たぬき⁈」


 まさかのたぬき⁈ えっ? 私、たぬきが好きなんて言ったことなんてない。確かにたぬきも可愛いけど。


 頭を抱えそうな私の目に飛び込んできたのは窓に映る私の姿だった。茶色い長い髪を持った少女の頭には小さな丸い耳、そして、お尻の辺りにはふわふわの尻尾。だけど、その尻尾の柄はどうみても……レッサーパンダだった。たぬきじゃない。あの島々の模様はレッサーパンダだ。そこで、ふと思い出したのは鞄につけていたキーホルダーだった。偶々お土産で貰った物をつけていたのだ。それがまさかの好きだと勘違いされるとは……。


「焼いたお肉は好きかしら?」


 その言葉で意識を彼女に戻すと、片手には鹿、もう片手では炎を出していた。


「なっ、生よりは焼いたお肉がすきです」


 そう言うと、シルルは片手の炎を鹿にそのまま持っていった。


「えっ⁈」


 すると、炎の力が弱いと思ったシルルはさらに火力を上げた。すると、鹿についた火は一気に燃え上がった。


 やばい光景である。


「熱い」


 そう言うと、彼女は持っていた鹿を床に落とした。言葉通り、そのまま落としたのだ。すると、どうなるか簡単に予測できる。今いる場所はどう見ても木でできた小屋だ。


「たっ、大変!!」


 私はすぐ様ベッドから起き上がり、ジッと鹿を見つめる彼女の手を取った。


「はっ、早く! 早く、水で消さないと! そっ、それよりも、この場から早く離れないと!」


 焦った様子の私をジッと見つめた彼女は立ち上がり、私を片手で持ち上げると、すぐさま小屋から外に出た。


「危なかったわね」


 燃える小屋を見ながら、そう言った彼女に唖然としてしまった。


「家……燃えちゃってますけど……」


 震える指でゆっくりと燃え上がる小屋を指差した。彼女はその様子を見て焦り出すと思ったのだが、ジッと小屋を見たまま落ち着いたままだった。


「えっ? 家が燃えてるんですよ! 水で消さないと!」


「大丈夫よ。この小屋は私の家じゃないから」


 私の家じゃ……ない? 隣に立つ彼女と燃える小屋を交互に見た。


「貴方が倒れていたから、介抱する場所として借りていたの」


「あっ……なるほど。助けてくれてありがとうございました」


「気にしないで」


 そう言った彼女は私に向かって口角を小さく上に上げた。その時だった。草が大きく揺れて、大柄な男性を先頭に柄が悪い男たちが現れた。


「おっ、お頭!! 小屋が……俺たちの小屋が燃えてます!」


 その大きな声で、小屋の持ち主が男たちであるとすぐに察した。


「シッシルルさん……」


 ギュッと彼女の服を不安げに手で掴んだ。すると、その姿を見たシルルはその手を包み込むように優しく触れた。


「大丈夫よ。貴方は心配しないで……お姉さんに任せなさい」


 その言葉を聞いて安心したいが、元凶は目の前の彼女のだ。そして、その心配は的中した。困惑してざわめいている男たちの前にシルルは立った。


「貴方達の小屋は燃やしました」


 やばい。あの言葉はやばい。私は目を見開いて、シルルと男たちを交互に見つめた。そして、案の定、男たちは激怒した。

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