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小さなカラス②

 少年は身体だけでなく精神的にも疲れてきた。毎日、縮こまって生きていた。同じ檻には同族である筈の獣人からも嫌われていたからだ。


「カラスだ……」

「真っ黒い羽……不吉を呼ぶんだ」

「こっちにくるなよ!」


 そんなある日のことだ。奴隷商人が店を開く日はバラバラだ。そのため、開いていない日はずっと薄暗く光がない場所に檻が置かれている。だが、その日は外の様子が見える場所だった。楽しそうに歩く親子が目に入った。


「ねえ、()()()。今日は何を食べる?」

「んー。お母さんが作ったスープがいいな」


 楽しそうな会話に耳を澄ました。『お母さん』とはどんな感じなのか……。わからないが、目を閉じて想像だけした。先程の親子のように自分も「今日は何を食べたい?」と自分と同じ姿をした鳥から聞かれるものだ。

 そこで、ふと気づいたのだ。自分以外には皆名前を持っていることに。ここでは番号で呼ばれるが、商人に見えない所ではお互いに名前で呼び合う姿を見たのだ。


「なまえ……」


 名前がないなら、自分で決めたらいい。そこで思いついたのが、先程の親子だった。幸せそうな親子。


「ぼくも……ルッ、ルイス……に、しよう」


 小さなカラスの少年は自分の名前を決めた。『ルイス』その日から、彼はルイスと名乗った。


 そして、少し経ったある日のことだ。


「えーー。獣人の子供⁈」

「紹介してもらったのはここだね」


 食堂を営む親子が奴隷商人の元へと訪れたのだ。


「獣人は力仕事をもってこいらしいからね。それに……」

「身体が丈夫! でしょ?」


 獣人を求めてやってきた親子はカラスの獣人であるルイスには見向きもしなかった。だが、安いのはルイスだけで他は値段が高く、親子のお金では到底買えなかったからだ。そのため、仕方がなくルイスを買うことに決めたが、皇帝が代わり国の法が変わった。そのため、奴隷が禁止になっていた。それなのに、黒い羽を持った子供が働いているなど、誰かに通報されては困る。そう思った親子は商人に羽を切ることはできるか? という相談を持ち込んだのだ。初めは渋っていた商人だが、カラスの獣人として売るよりも、黒い羽だけで売る方が元を取れるという判断を下した。


「やっ、やめて。やめ……やめ、やめろよ!!」


 そんな悲痛な叫びは聞き入れられず、ルイスの羽は切られた。激痛が彼に襲い掛かり、気絶するように倒れた。そして、流れ出る血を止めるだけの処理だけをされただけで、その夜には熱に襲われた。しかし、熱ぐらいなんだ? といい無視された。

 あんなに憎んでいた筈の羽だったのに、いざ無くなると悲しみに襲われた。その日、熱に浮かされながら、声を出さずに泣いた。


 そして、そこからの生活も最悪だった。親子が営む店では朝から晩まで働かされた。ご飯も野菜の切れ端や傷んだパンなどだった。だが、貰えない日もあったので、それを必死に食べた。

 親子の機嫌が悪い日は暴言を吐かれたり、身体を殴られたりした。娘の恋人も同じ食堂で働いている。そんな男からも殴られた。目の前にいて、邪魔だったからというだけでだ。そんな日々が続くと、ルイスの目から光が消えた。毎日、仕事を繰り返し、殴られないように息を顰めて生きていた。例え、嫌がらせされようとも、殴られてご飯を抜かれるよりはいい。そう思っていたのに……。


『その、少年は無実よ』『あの二人が言っていたもん』


 少年を助ける人が現れた。心臓が痛いほど跳ねた。光が差し込んだと思った。だが、それが彼らの機嫌を損ねることになることはわかっていた。


「あんたがさっさと謝らないからだよ!」

「その目が気に食わない!」


 その日、意識を失うまで殴られた。やっぱり、光など存在しない。他人を信じてはいけない。そう思った筈なのに……。


 暗いカラスの世界に小さな光が差し込んだ。


 小さなカラスの瞳は硬く閉ざされている。ニーナはそれを見て、心臓が動いているか確認する。


 早く元気になってね。彼に向かって小さく鳴いた。


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