小さなカラス
「おい……」
ユナが目の前に座っているシルルに小声で呼びかけた。それに視線だけを移した彼女は「何?」とだけ返した。
「あれ……絵面がヤベェ」
「あれ?」
ユナは軽く指差した。指した先に視線を移すが、シルルは首を傾げただけだった。
「……可愛いニーナがいるだけよ?」
ユナが指差した先にいるのは柔らかなクッションに寝かされた小さなカラスの周りをウロウロと忙しなく動く小さなたぬきだった。レッサーパンダなのだが、ユナの目にはたぬきに見えていた。
「どう見てもコダヌキが獲物を捉えようとしている姿にしか見えねえ」
「…………?」
ユナの言っている意味がわからないシルルは首をさらに傾げた。
「もう、いいわ……」
ユナは自分が何を言ったところで目の前の彼女には話が通じないことがわかっている。
あの後、連れ帰ったルイスはカラスの姿に戻った。それに発熱もしていた。シルルの薬を飲ませて熱は下がったが、その身体は怪我だらけだった。シルルの薬では治しきれないほどの怪我を負っている彼に心が痛かった。それに、鳥類である筈の彼にはあれがなかった。……大事な羽がなかったのだ。正確には飛べるほどの羽がない。バッサリと切り落とされたような断面に息を呑んだ。
その姿を見たユナは奴隷商人かルイスが働いていた店で切られた可能性があると言っていた。
私はそっとその小さな身体に寄り添った。そして、小さく動く心臓の音に耳を傾けた。
ルイスは夢を見ていた。生まれたばかりの雛のそばには親がいなかった。それでもなんとか生き残れたのは周りの小鳥達が哀れに思ったのか餌を運んでくれたからだ。だが、身体が大きくなるに連れて離れていく。小鳥達とは違い真っ黒な瞳にそれと同じく真っ黒な身体。その姿を見た小鳥以外の動物が囁くのだ。「不吉な鳥、不吉な鳥」と。さらには、何もしていない彼に向かって石やきのみの種を投げつけてきた事もあった。「やめて」と言ってもやめてくれない。そのため、逃げた。誰も彼の味方にはなってくれなかったためだ。そして、彼の周りには誰もいなくなった。
「まって、まって、まってよ……ぼくもなかまに入れて」
どんなに鳴いても彼の側には誰もいない。そして、一人ぼっちになった小さなカラスは街に降りた。すると、楽しそうに遊ぶ子供達や手を繋いで楽しそうに歩く親子の姿を見た。それを見た小さなカラスは姿を変えた。
「こっ、これで……かっ、かぞく、が、でき、る」
ルイスは獣人であった。きっと彼の親が森に捨てたのだ。だが、彼自身はその事実に気づいていなかったが、人になりたいという気持ちが強くなった事で人型の姿になれたのだ。
そして、希望を胸に街に降りたが、現実は厳しかった。そっくりな見た目だが、人とは圧倒的に違う部分があったのだ。
「ぼっ、ぼくも……なっ、なか、まに、いれて……」
遊んでいる子供達に声をかけた。だが、楽しそうな子供の声は消え、その場は静まりかえったのだ。
「ねっ、ねえ……あれ……」
「真っ黒い羽が生えてる……」
そして、子供達は勇気を振り絞った彼に向かって石を投げてきたのだ。
「ばっ、化け物!」
「変な羽なんか生やしやがって!」
その目は侮蔑と蔑みに満ちていた。
「あっ、あっ……」
少年は逃げた。だけど、森にも帰る場所などない。仕方なく路地裏に逃げ込んだ。そして、隠れるように生活し始めた。
「はね……はね、なんか……あるから……」
背中に生える真っ黒い羽があるせいで仲間に入れない。自由に飛び立てる筈の羽がいつしか憎いものに変わった。だが、拾った小さな剣でその羽を切ろうとしたが、できなかった。
そんなある日のことだ。少年は悪質な奴隷商人に捕まった。
「この羽! 獣人の子供だな! それも……珍しいカラスじゃないか⁈」
少年の背中には真っ黒な羽が生えていた。それを見た商人は目の色を変えて無理やり彼を捕まえた。そこからの生活は最悪だった。ご飯は身体が大きくならないように二日に一回。それもパン一つぐらいだ。そして、檻に入れられて商品のように飾られた。




