救出③
「いっ! なっ、何すんのよ! この獣が!」
私は噛みついた彼女の足に蹴られ、地面に倒れた。だが、彼女の足から血が出ている。口の中に鉄の味が広がった。
「ニーナ!!」
シルルは急いでその小さな身体を抱き上げた。そして、女性の顔を掴もうとしたが、その前にユナによって地面に叩きつけられていた。
「お前……小さな子供を蹴ったな……それに、奴隷だと?」
ユナの瞳孔が開き、その目は彼女を捉えていた。だが、その声色は冷たく、そして低い。そのため、女性の隣に立っていた青年は腰を抜かしてその場に座り込んだ。シルルはニーナに声をかけていた。
「大丈夫! ニーナ!」
シルルの焦った様子に彼女の声だと思えないほどの大きな声に驚いた。目を開けて、彼女の頬を舐めた。私は大丈夫。大丈夫だから……泣かないで。
「怖かったでしょう……」
抱きしめる力が弱々しいが、その瞳に宿っているのは怒りだ。その瞳のまま、視線を押さえつけられている彼女に向けた。
「この国は……奴隷制度は無くなったはずよ。それに、獣人の差別も……」
シルルの言葉にユナは頷いた。
「そうだ。皇帝が代わり、法も変わった。奴隷は無くし、獣人を差別しない。そして、人身売買などもっての他だ。それを破ったお前達は……極刑だろうな」
「なっ⁈」
極刑。その言葉を聞いた二人は顔を青ざめた。だが、まだ諦めていないようだった。
「そっ、そいつが私達と関わりがあるっていう証拠はないでしょ?」
そいつというのは倒れているルイスのことだろう。
「ああん! お前が、そいつの事を奴隷と言ったんだろうよ」
「そうね。だけど、言葉だけじゃ証拠にならないわ」
その言葉に顔を顰めたユナ。しかし、その時だった。路地裏を野次馬のように覗く三人が現れた。
「何してるんだ?」
その声は聞いたことがあった。そちらに視線を皆が移した。すると、一人がユナを見て驚いたように叫んだ。
「ええ! 伐倒のユナ? それに……昨日の人?」
シルルを見て思い出すよう放った言葉で昨日、ルイスが働いている店で出会った冒険者だと気づいた。
「おいっ! 失礼だろ」
剣を背負った青年の首根っこを掴んで現れたのはラルフだった。それに、彼らの仲間である綺麗なお姉さんも一緒だった。
「あっ! 貴方は……」
シルルを見たラルフも店にいた女性だと気づいた。
「あれ? 昨日の綺麗なエルフのお姉さんだ。あの、小さなおチビちゃんは?」
彼女も気づいたようだった。キョロキョロと私を探している素振りを見せたが、目に入ったのは倒れたルイスと動物を抱いたシルル。それに、顔を青ざめた女性を取り押さえているユナに同じく顔を青ざめて座り込んだ青年。
「これは……どんな状況なの?」
「エレナ。それは……俺にもわからない」
エレナと呼ばれた女性は只事ではないと気づき、状況把握に努めた。だが、それに応えるようにユナが話し始めた。
「私が取り押さえている奴とそこにいる奴が倒れている子供を奴隷にした挙句、シルルが抱いているコダヌキの獣人を売ろうと画策した。この国はそれを法で禁止している」
話を聞いた三人は顔を顰めて二人を見た。
「証拠がないでしょう? あいつが私達の店にいた……なんて」
「俺、見たよ。昨日、あんたの店で飲んだからな」
その言葉はラルフに首根っこを掴まれていた青年だった。だが、出会った時とは違い瞳が酷く冷めていた。
「俺は記憶力がいいからな。あそこで倒れている子供が働いていたのも覚えている。それに、あんたら二人もな」
「なっ⁈」
私は目の前の青年を見た後に急いでシルルの腕から離れてルイスの元へと向かった。
そして、この後、三人の冒険者が二人を連れて警備隊の元へと向かった。残された私、シルル、ユナ、ルイスは一先ずシルルの家へと向かった。




