救出
「逃げろ! 急いで、逃げるんだ!!」
ルイスの必死な叫びが耳に届くが、二人からの嫌な視線に身体が震えて動けない。そんなニーナを見ながら、青年と彼女は顔を見合わせてさらに嫌な笑みを浮かべた。
「獣人の子供だ!」
「売ったら、お金になるよね!!」
その声色は上機嫌で二人は目の前の獣人の子供であるニーナを金になる商品にしか見えなくなっていた。
ルイスを女に渡すと、青年の方が大股でこちらに歩いてきた。怖くて後ろに下がるが、すぐに追いつかれ、その手を強く掴まれた。
「いやっ、いやだ!」
怖くて勝手に瞳から涙が溢れてくる。
「暴れるなよ!!」
「いやだ! やだ!」
手を離してもらおうと、暴れるが大人と子供では力の差は歴然だ。ルイスも助けようとするが、掴まれた手を離せないでいた。殴られて怪我をしている上に空腹で力が出なかったのだ。
「おいっ……」
「やだってば!」
このままでは、私は売られてしまう。すぐにでも彼から離れなければ危ない。そして、私は力を振り絞って私の掴んでいる彼の手に力一杯噛みついた。
「いてっ!!」
獣人となった私の歯は子供といえど鋭い。口の中に鉄の味が広がるが気にせずに彼から逃れた。だが、その瞬間、青年に頬を殴られた。
「うっ!」
「大人しくしとけよ!」
私は地面に転がった。殴られた頬が痛い。それに、怖い。どうして良いのかわからない。怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
恐怖に身体が支配された瞬間、私の身体は変わった。
「たぬき⁈」
青年が大きく叫んだ。私は獣の姿に変わっていた。それに気を取られた女の隙をついて、ルイスは彼女の手から逃れて私の元にまで急いで走って、私を抱き上げた。
「おい、大丈夫か?」
ルイスが問いかけるが、私は悲しげに鳴くだけだ。
「ルイス。そのたぬきを俺に渡せよ」
「嫌だ!」
はっきりの拒絶を表した彼に青年はもう一度、催促した。
「はあ〜。さっさと、渡せよ」
「良いから、渡しなさいよ」
ルイスは私を強く抱きしめて、絶対に離さないという意志を彼らに見せた。だけど、痺れを切らした青年は苛立った様子でルイスを勢いよく足で蹴った。その衝撃で私を抱いたまま地面に転がった。
「うっ……」
苦しげな声が頭の上から聞こえてきた。ルイスの声だ。彼は必死に腕の中で私を抱きしめていたため、私に怪我はない。だが、彼の苦しげな様子に心配になり、小さく鳴いた。大丈夫? 大丈夫? と彼に必死に問いかける。
「おらっ! さっさと渡せよ!」
転がった彼を青年はさらに足で蹴った。ルイスはそれを背に受けた。私を覆い隠すように丸まったためだ。
「ぐっ……」
苦しげな彼の声と青年の罵声に耳を塞ぎたくなる。助けて、誰か……助けて……。お願いだから……。助けて。助けて、シルルさん!! シルルさん!!
私は大きな声で鳴いた瞬間だった。
「見つけた……」
小さな声だが、しっかりと私の耳に届いた。私は彼女に聞こえるように大きな声で鳴いた。すると、目を見開いた彼女は一気に青年に詰め寄り、手で顔を掴み、壁に押さえつけた。
「ぐがっ!」
「私の……可愛い子に何をしたの?」
その声は背筋が冷えるほど冷たく、低かった。怒りに満ち溢れていた。
シルルさん。シルルさんがきた。だけど、彼女が助けに来たことが嬉しくて、その声は私と耳には届かなかった。




