再び②
「だあーもう、離せよ!」
彼が振り解こうとするが、無理矢理腕にくっついて離れないでいる。
「私のせいなんでしょ! なら、君をシルルさんの元に連れていく!」
シルルなら、彼の怪我の治療ができるはずだ。そのため、彼を連れて行こうとするが、抵抗される。
「シルルって、誰だよ!」
「私と一緒にいた人だよ!」
「知らねーよ!」
そして、無理矢理くっついていたが、彼の力の方が強いため、引き離された。
「わっ、わわ!」
身体がよろけて、後ろに倒れそうになった瞬間、彼はすごく焦った顔になっていた。だが、間一髪倒れずに済んだ。そして、目の前には行き場のなくなった手が伸ばされていた。そう、彼の手だ。私を支えようとしていたのだろう。
チラッと彼を見ると、目を見開いていた。
「お前……その耳……」
「耳……?」
そっと頭に手を伸ばすと、フードが外れていたのだ。
「あっ……」
急いでフードを被り直した。だが、彼の見開いた目を見ると誤魔化せないことを察する。
「お前……獣人だったのか?」
彼の言葉に戸惑いながら頷いた。しかし、彼の反応は想像していたものとは違っていた。珍しいものを見たような顔になると思っていたのに彼は顔を歪ませていた。
「どっ、どうしたの? 怪我が痛いの?」
「……違う」
「でも……」
彼に手を伸ばそうとした時だった。私の背後から声をかけられた。
「お前、ルイス? こんな所で何してんだよ?」
この声、聞いたことがある。
「えーー。サボリー?」
この声もだ。客の皿に虫を入れてそれを彼のせいにした奴らだ。私はゆっくりと振り返ると、若い女性と目が合った。
「君もこんな奴と仲良くしない方がいいよ。ねっ?」
にっこりと笑う彼女は親切心から言っているように聞こえるが、その声や言葉は不快感しかなかった。
「…………私は……」
「ルイス。お前、懲りてないのな」
私の言葉と被って青年がルイスに声をかけた。
「そんな所で油売ってないでさっさと帰って仕事しろよ。また……殴られたくないだろ?」
その言葉に私は目を見開いた。彼の怪我は殴られてできたものだったのだ。しかも、目の前の彼、もしくは店のものによって。
「なっ、何で……殴るんですか?」
信じられなくて思わず出た言葉だった。
「何でって……そんなこと、君に関係あるかな?」
青年はにっこりと笑って答えるが、私は震える声でさらに問いかけた。ルイスが止めようとするが、無視して青年と話続けた。
「何で、怪我……させたんですか? 殴るほど、彼は酷いことをしたんですか?」
「だから、君には関係ないことだろ〜」
「確かに、君には関係ないよね?」
面倒くさそうな青年に同意したように頷く彼女にも信じられないという瞳を向けた。
「私は昨日、貴方達が客の皿に虫を入れたことを知っています」
その言葉に二人は顔を見合わせた。
「君、昨日の……」
「言いがかりの子!」
言いがかり……。彼らは私を思い出して、そんな言葉を言い放ったが、私は言いがかりなど思っていない。
「彼が……何かしたんですか?」
怒りで手が震える。だが、真っ直ぐに彼らを睨みつけた。
「んー。何かって……君は知らないだろうけど……ルイスって、獣人なんだよね」
「わかる? 獣人?」
わかるも何も私も獣人だ。だけど、彼も獣人だなんて……。私は目を見開いて、ルイスを見た。すると、彼はバツが悪そうに顔を逸らした。
「あははははは。ルイス。お前、お友達には教えとかないと!」
青年は笑っていた。何がそんなに面白いのかわからない。
「何で……獣人じゃ駄目なんですか?」
「ん? ああ。獣人じゃ駄目な理由? 別に獣人が駄目なんじゃない。ルイスが駄目なんだよ。理由はわかる? わからないよね。なら、教えてあげるよ。だって、ルイスは獣人の中でも嫌われ者のカラスの獣人だからだ。しかも、奴隷だ。どう扱おうが勝手だろ?」
「そうそう。獣人の子供が買えるってなったのに、買えるぐらい安かったのはルイスだけ。本当はもっと別の獣人を買いたかったのになあー」
二人の会話が信じられなかった。身体が勝手に震える。きっと、顔は真っ青になっているだろう。その時だった。私を守るように二人の前に彼が立ったのだ。私が見えるのは彼の背だけだ。
「こいつは俺とは関係ない。変に関わるな。こいつが可哀想だろ」
挑発するように笑った彼に二人は目を吊り上げた。
「はっ? 何、調子に乗ってんだよ」
「あんたと関わる方が可哀想でしょ?」
青年はルイスの手を強く掴んだ。そして、彼を無理矢理連れて行こうとした。
「こいよ。躾直してやるから」
躾直し。その言葉はきっと彼を殴りつけることだろう。今も酷い怪我なのに、そんなことをするともっと悪化する。
「だっ、駄目!!」
私はルイスの腕を力一杯掴んだ。すると、二人は目を見開いた。
「邪魔をしないでくれるかな?」
「いっ……嫌だ!」
彼を離すまいと力をさらに入れた時だった。青年に無理矢理引き剥がされて、軽く投げ飛ばされた。
「きゃっ!」
尻餅をついてこけた。
「いたた……」
そして、睨みつけるように彼らを見たら、二人は目を見開いて私を見ていた。主にフードが外れて現れた私の丸い耳をだ。
「逃げろ!! 急いで、逃げるんだ!!」
ルイスの大きな声が路地裏に響き渡った。




