再び
シルルは目の前で騒ぐ彼女をジッと見るだけで何も言わない。そのため、さらに大きく叫んでいた。
「テメェが私の火を空に上げたの覚えて無いのかよ!!」
「…………あっ」
「思い出したか!」
思い出したと思い、彼女の顔は一瞬明るくなったが、シルルが首を傾げたので、目を吊り上げた。
私は目の前の彼女が誰だか知らないが、今注目を浴びていることだけはわかる。
「また、やってるよ」
「ユナの奴、振られたんだとよ」
ユナ。それが彼女の名前だろうか。二人は未だに上げた、上げていないという論争を繰り広げていた。これは長くなりそうだな……。そう思って、窓の外を見ると黒髪の少年が通り過ぎたのが見えた。急いで窓に近づいて見る。もしかしたら、気のせいかもしれない。そう思ったが、窓越しにちょうど立ち止まっていた少年がいた。誰かにぶつかり、パンを落として拾っているところだった。
「あの子かな? 大丈夫かな……」
そして、見えた少年の顔を見て目を見開いた。何故なら、少年の頬は腫れている。それどころか、傷だらけに見えた。私は急いで外に出ようとしたが、シルルとの約束がある。そう思って、彼女を確認すると、未だにユナと言い合っていた。
「……すぐ、そこだから……大丈夫だよね」
私は少年と少し話すだけですぐに戻る予定だから、大丈夫だと思い彼女に声をかけなかった。私は急いで、ギルドから出て少年の元へと走った。
こんなにすぐに出会えると思っていなかった。そのため、少し興奮していた。だから、昨日のやり取りを一瞬忘れてしまっていた。獣人だからか、走るのが早い気がする。前の私だったら、絶対に追いつけなかったであろう彼に追いついたのだ。そして、後ろから声をかけた。ちょうど、彼が人気が少ない路地裏に入った時だった。
「あっ、あの!!」
私の言葉に彼は驚いて、持っていたパンを落とした。
「だっ、大丈夫?」
驚かせてしまった。慌てて少年のパンを拾おうとしたが、手で振り払われた。
「触んな! 俺のだ」
「あっ……ごめんなさい」
私はゆっくりと手を引っ込めた。
「さっさとどこかに行けよ」
彼はそっぽを向いて私を追い払った。だけど、怪我をしている彼をほっとくことなどできない。顔だけじゃ無い。身体の至る所があざだらけだ。昨日、彼を見た時はそんな傷はなかった。
「怪我してる……大丈夫なの?」
もう一度、彼に手を伸ばしたら避けられた。
「怪我してるよ」
諦めずにもう一度、彼に話しかけた時だった。ドンっと身体を押された。そして、押された反応で身体がよろけた。
「お前のせいだろ!」
「えっ……?」
彼の言っている意味がわからなくて、呆然としてしまった。
「お前、昨日のガキだろ? お前達のせいで……せいぜい、飯抜かれるぐらいだったのに……変な正義感を振り翳したせいで……」
鋭い視線で睨みつけてくる彼の真っ黒の瞳には悲しみに満ちていた。そして、その奥には小さな怒りが見えた。
「私のせいで……?」
心臓が痛いほど早くなる。私の正義感……私の言葉? ダメだった? やっぱり、私の言葉はダメだったの?
「わかったなら、もう……俺に話しかけるな」
「あっ……」
彼が背を向けて歩いていく。その背を私は見ているだけだ。このまま、彼を行かせてもいいのだろうか? でも、引き留めたところで……私にできることはあるのだろうか? それに、彼の身体の怪我は私のせいだった。
『ニーナの好きにしていい』
迷ったその時、シルルを思い出した。彼女は私のことを肯定してくれる。なら、今……私が一番したいことは……何?
「…………まっ、待って!!」
私の足は動いていた。そして、彼の腕を掴んだ。




