6 部外者
「テルル様もエリくんも一度落ち着くといい。ここは楽しい魔法の研究場だからね。あ、飲み物でも淹れようか」
穏やかに、けれど口を挟む暇のない速度で言い切ってから、さっさと部屋の奥へと去っていく。
彼女は数秒もしないうちにコップを手に戻ってきた。
「どうぞ」
彼女は順にそれを配っていく。
エリカにコップが手渡された。
「今取り乱すのは悪い判断だ。聖女様を怒らせたら、その立場は吹き飛ぶだろうに」
揺れる水面越しに、そう耳打つ声が聞こえた。
そう言えばそうか。当て馬っぽいから忘れちゃうけど、彼女だって偉い人だ。頑張れば事故ってことにして処分とか出来る感じの。
怖くなってきた。敬語とか使おうかな。
だとしたら、エリカの怒りはなおさら不可解ではあるけれど。
「改めて、よく来てくれたね。ようこそ魔法研究会へ」
芝居がかった仕草でばさっと両手を広げた。
「私は3年のエレメイ•トレッチェルだ」
「我が魔法研究会は2年が6名、3年が11名、4年が4名の総勢21名で活動している」
トレッチェル先輩が指折り数えながら告げる。
結構多いような、いや魔法だもんなぁ、そりゃ人気か。
「今日は其々の都合で私しかないだけで、普段はもう少し賑やかだから安心してほしい」
確かに部屋は思いの外広い。
先輩1人で活動しているのなら使い余すくらい、数十人でちょっと狭いぐらいの感覚。
活動するには申し分ないんだろう。
「活動内容は一言で言えば魔法の研究。君たちは魔法基礎学はもう受けたかな?」
言われて記憶を辿る。
魔法に関する勉強は魔法基礎学が初めてだ。
ここ以外で学ぶ手段は、それこそ弟子入りになるのかな。
「受けましたぁ」
打って変わって、甘い声で答えたのはテルルだった。語尾の上がる感じって言えばいいのかな。
媚びた感じの可愛い声。ちゃんと可愛い。
「主にあの授業の内容を基に、魔法技術試験の合格、得意な分野の魔法への理解を深たり、勿論実践的な魔法活動を行う者も多い。ひとくくりに魔法に関する研究を行っていると言って差し支えないだろう」
先輩はテルルの方に視線を向けてから話を続ける。
良いな。なんか良いこの研究会。
勉強とか試験って将来大事だし、学生時代には何か打ち込んでおかないといけない気もするし、悪くない。全然悪くない。
そう言えば、なぜ彼女は甘い声で返事をしたんだろうか。
先輩綺麗だし、実は攻略できるとか?
漫画には書かれていた記憶がないから、小説版の人かもしれない。
「活動日は定刻の授業終わり以降3時間程、この部屋は毎日空いているため、好きな時間に来て活動に打ち込むことが出来る。基本参加推奨だけれどね」
個人のペースで良いのも割と高得点か。最悪行かなくてもなんとかなるのはありがたい。
「以上、何か質問はあるかな」
先輩はそう締めてから私たちの方を見やった。
「かつ「聞きたいことがあるんですけどぉ」
エリカの言葉を遮って、テルルが先輩に喋りかけた。
「何かな」
「先輩はどんなことしてるんですかぁ?」
ああ、確かに勉強とか研究だけじゃ具体的に活動が想像出来ないよね。
「主に禁忌魔法の研究をしている」
「すごぉい。かっこいいですねぇ」
先輩の返事から数秒も経たずに答えた。
レスポンスの良い聖女様だ。
「ありがとう。世間的にも中々受け入れられないんだ。それらがどうして禁忌とされるようになったのか、その歴史と分類について研究しているのだよ」
「禁忌魔法って具体的にはどのようなものを指すんですか?」
エリカが再び問いかける。
禁忌魔法が何かって、危ない魔法とかってイメージはあるけど。
「基本的には世界的に禁止されているもの、其々の国の法により規制されているものを指すことが多いな」
「例をあげると、隣の国では、とても弱い火の魔法でさえ禁忌魔法とされている。信仰上許されないからね。禁忌とされる所以は、膨大な犠牲や残虐な効果に限らないんだ」
「面白いだろう」と彼女は笑って見せた。
なるほど。この世界の定義ではそうなんだね。
それなら禁止魔法で良いじゃんとも思わなくもないけど。
「他に質問はある?」
「私はないです」
「ないです」
先輩にエリカと2人で答える。
「エレメイ先輩について知りたいですぅ」
「私?」
その後は日が暮れるまで、テルルとトレッチェル先輩の会話の応酬と、時折エリカが話に加わりながら話が続いた。
私?私はアレだよ、ちゃんと相槌打ってたよ。
いや特に聞きたいこともなかったからさぁ。
テルルの物怖じせず主張できるところ、羨ましいなぁって思うよ。
その後も幾つかの団体を見て回って、魔法研究会に入ることにした。




