5 魔法研究会
ベット、机と椅子、あと棚類。
部屋にあるものはそれぐらいで、窓からは校舎が見える。殺風景。
荷物を下ろして椅子に腰掛ける。
まだお昼を過ぎたばかりなのに、疲れた気分だ。
前世だったらこのままスマホを弄って一日を浪費していたのだろうが、この世界にそんなものはない。
何と言うことだ。今の私、生産性の塊じゃないか。
ビバ異世界。君が優勝。
机の上に紙束が置かれているのが見えた。
私の荷物にはなかったやつ。
「新入生向けの案内…」
分厚い冊子からチラシまで、予め説明書類が置かれていた。
ホテルみたいな仕様。
「あ、コミュニティの募集がある」
サークルや部活動の類を指すものだろう。
簡単な活動内容と日時が記載された一覧表を眺める。
部活系って入って成功した試しがないけど、どこに入るか考えるのは楽しいんだよね。
おぉ、楽器も良いよなぁ、異世界だから魔法系も面白そう。
数日後、私は学園の別棟に来ていた。
「初めてきた」
エリカが隣で呟く。
「見学にいこう」と授業終わりに誘ってみたら、あっさりOKしてくれた。
勇気を出して誘ってよかった。
「行きたいとこってある?」
「やっぱり魔法は興味ある」
彼女はチラシを眺めながら答えた。魔法系良いよね。異世界ならではって感じでロマンの塊。
使ったことないから魔法って憧れるわぁ。
「わかる。魔法研究会は2階っぽいね」
「行こう」
別棟の中に入ってから、2人で階段を登る。
人の気配のしない廊下に、魔法研究会と書かれた木製の看板。絵の具が滴った跡が残っている。
その横には、新入生歓迎。と書かれたチラシが無造作に積まれていた。
は、入りずらい‥
「おや、体験希望かな?」
扉の奥から、小柄な女性が顔を出した。
「丁度1人来ているんだ。君たちも良ければどうぞ」
彼女が跳ねるように動く度、緑色の髪も同じように弾む。
主要キャラか?と疑ってしまうぐらいには美少女だ。視線の動かし方や所作が小動物を連想させる。
「し、失礼しまーす」
「失礼します」
促されるまま部屋に入る。
目の前に居たのは想定外の、非常に親しみのある人物だった。
「テルル‥さん」
「あら、こんなモブでも私のことを知っているのね」
秒速の切り返し。
まぁ、私がそこら辺の一般人であることは違えようのない事実だから問題はないね。
それに、ゲームという前提条件の上では、ほぼ関わりのないキャラクターに優しくする必要はない。リスク管理的には方向性の違いを感じるけど。
「ちょっと、その言い方はない」
「は?何アンタ?」
意外にも不満を露わにしたのはエリカだった。
「私はエリカ。あなたの態度が悪いって言ってる」
「誰もアンタのことなんか興味ないんだけど。セリフも登場シーンも無い癖にしゃしゃり出てくんなよ」
一触即発の雰囲気。
こうして喧嘩腰でいかれると実際に空気が悪い。
でも前世ではこういうバチバチなのは稀だったな。
みんな意外と理性的なんだよね。だからこそ自分のダメさが際立って…いやこの話はナシだ。もっと楽しい話をしよう。
そういえば、モブって言葉通じるんだね。
流石ご都合が良い。
そうでないなら、エリカも実は異世界から‥って言うのは考えすぎかな。
「はい喧嘩しなーい」
薄暗い室内に緑の髪の救世主、その声が響いた。




