4 騒動
「フルーレクス様、なんて酷いお方なの!?」
食堂に入ると、よく通る声が響いた。
部屋の中心あたりに人だかりが出来ている。
何かトラブルが起こったらしい。フルーレクス様関連の。
「何あれ」
彼女が言葉を漏らす。
「わかんない、何かのトラブルかな」
恐らく、テルルがいちゃもんを付けてるんだと思われる。
王子様に泣きついているのだ。シナリオ通りに。
正直見物していきたい気持ちもある。
伺う意味も込めて、彼女の方に視線を向けた。
「ま、良いや。席空いてるし、ここにしよ」
「そうだね。これなら料理も早く貰えそう」
私たちは人だかりに入り込むことなく、席に荷物を下ろした。
まぁ、彼女を引っ張って行く程関心があるわけでもないし、関わったら首を突っ込みたくなる。
蚊帳の外で優越感に浸るぐらいが丁度いいのかもしれない。
人気の少ない配給口から料理を受け取って、対面で席に着く。
その後、手を組んで祈りを捧げる。
他の国の言葉なのか、昔の言葉なのか、意味はわからないが、多分前世で言うところの「いただきます」だ。
この世界ではどんな人でも大抵やっていて、すごいな異世界って思う。
食べる前になにしてるのー?って言うくだりはない。むしろちゃんと手を組めと怒られるレベル。
前世の私はちゃんとやってたっけかな。
この世界観だったら普通に手掴みで食べてもおかしくはないんだけど、ちゃんとスプーンも用意されている。
主人公のための世界だとしても、その恩恵にあずかれてるんだなと思う。ありがたい話だ。
素晴らしいよ世界。ありがとう世界。
本日のメニューは茶色いパンと煮込みスープ。
豆とか野菜が入っていて普通に美味しい。
そのまま食事を続けていると、勢いよく人影が通り過ぎた。
「えっ何?」
衝撃でスープが少し溢れる。
振り返ると、そこには去っていく小柄な女子生徒の後ろ姿があった。
「あれ、聖女様だ」
それを見ていたエリカが呟く。
何となく状況を察して、人だかりがあった方に視線を向ける。
そこには、金髪の王子様ことエリオット様と、その彼が気遣わしげに視線を向ける先には、顔面蒼白と言った様子のフルーレクス様がいた。
なるほど、危惧したことが本当に起きたのかと、恐怖を刺激された主人公と、普段とは違う彼女の姿に戸惑いつつも、本気で心配している王子様の構図か。
青春、してんなぁ。
本人にとっては大ごとかもしれないが、他人事な事に加えて、ハッピーエンドな結末を知っていれば特に心配も起きない。
むしろ奴隷落ちエンドを迎えるテルルさんのが心配なぐらいだ。また媚薬でも盛るんかな。
「何かあったみたいだね」
薄っすい事を言ってから食事を再開する。
幸い溢れた量も少ないし、これぐらいなら全然問題ない。
少しの時間をかけて、食事を終えた。
食器を片付け、私たちは食堂を後にする。
漠然と歩きながら、彼女が口を開いた。
「あ、私この後用事があるから先帰るわ。また」
「うん、じゃあね」
私は1人で廊下を歩く。廊下は既に人々の喧騒に溢れていた。
お喋りに興じながら歩く女子生徒達、笑い声をあげる男子生徒の声。
そのどれもを素通りして、私は再び案内図を取り出す。
これから過ごす園内の部屋、初のご対面だ。




