3 自己紹介
試験トップの王子様とテルルが挨拶を済ませ、入学式は特にトラブルなく終わりを迎えた。
それぞれがばらばらと教室に移動する。
暫くして、灰色の髪の男性が、落ち着いた足取りで部屋に入ってきた。
「本日からCクラスを担当します、セイです。どうぞよろしくお願いいたします。」
彼は一礼すると、辺りを軽く見回した。
「まず、皆様には自己紹介をしていただきたく存じます。恐縮ですが、右前のルーツ様から初めていただけると助かります」
そして、右の列から自己紹介が敢行される。
自己紹介。それは、第一印象を決める重大な行為。
前世の記憶。その本領を発揮するとき。
順にクラスメイトが立ち上がる。
刻々と私の番が迫ってくる。
周囲の視線を一同に集め、私は静かに立ち上がった。
「マリです。イート地区出身です。よろしくお願いします」
まばらに拍手が起こった。
自己紹介なんて、無難で良い。
変に失敗したら後で苦労するに決まっている。
前世で学んだんだよ。前世で。
はぁ、これが知識無双ってやつですわ。
次々に続く自己紹介を再び聞く側に回る。
初めのフォーメーションが変わらないのはどこの世界でも変わらないんだな。と思いつつ次の人に視線を向けた。
彼は、
「シキ・ホーデンって言います、気軽にシキって呼んでくださいっす!よろしくお願いします!」
彼は攻略対象の一人だ。
騎士の家系で、幼い頃にフルーレクス様と会って、誰かを助ける姿勢に感銘を受ける。
そして今は彼女の騎士になることを目標に行動している。
ちなみに作中ではアホの子として扱われており、Cクラスは妥当かなと思う。
‥ん?妥当?え、つまり私たちもアホの子ってこと?
く、違うんだ。あいつらが優秀すぎるだけなんだよ。私は何も悪くない。
くだらない自己弁護をしている間にも自己紹介は進んでいく。
「はい。全員いらっしゃるということで、只今より、園内での過ごし方についてご説明します」
視線が再び教卓にもどる。
「原則として、学園内からお出かけになる場合は、規定の申請書を提出していただく必要があります。」
それは知っていた話だ。
中身がバレにくくなるので、家族と会えないのは個人的にも好都合だとは思う。
そのまま明日以降の日程や、学園内の設備について一通り説明が続く。
食堂や、それぞれの部屋。進級に必要な条件など。
「以上です。それでは、本日はこれで解散となります。お集まりいただき、誠にありがとうございました」
先生は一礼すると、そのまま教室を去っていった。
親交を深めるためのレクリエーションとか、グループワークとかないんだな。と思いながら周囲を伺う。
取り残された生徒達は、緊張した空気感が残りつつも、話が盛り上がりそうになっていた。
私も何か誰か話しかけた方が良いはず。
成功した試しがないけど、結局友達ゼロなんて、そいつはまずい。マリにとっても申し訳ない。
「はじめまして、私マリって言います。」
隣の席の、特に会話もしてなさそうな人に話しかけてみる。正直自己紹介中に、相手の名前を覚えておくのがスマートなんだろうけど、マジで出てこない。
「私はエリカ。よろしく」
「エリカさん。よろしくお願いします」
綺麗な赤髪の女子生徒。
染めてるのかな、ちょっと触りたい。
「えっと、趣味とかってあります?」
会話が思いつかなくて、歯牙にもかからなそうな質問を投げる。
「趣味?」
彼女は少し怪訝な声色で答えた。
「いや、私はお貴族様じゃないし、贅沢な趣味なんて持ったこともない」
「あ、そう。そうだよね。このクラスって貴族の方もいるから、間違えないようにって思って」
あ、この世界だと趣味って贅沢な扱いなんだ。
間違えた。完全に間違えたー。
「あーそれはわかる。うっかり失礼なことしそうで怖い」
彼女は少し笑って答えた。
「それなら、マリは趣味あんの?」
「裁縫とか?家でやってるし」
実はマリは服を手縫い出来る。
制服以外の私服は全てが手縫いである。
すごい、前世は玉留めもできなかったし、これが転生特典かもしれない。
「そんなんなら誰でも言えるって」
「まぁそうだけどねー」
普段息抜きに何やってる?とかって聞いた方がニュアンスとしては近かったのかもしれない。
趣味何?の無難さには劣るけどね。
「この後って用事ある?」
「昼だし、学食で何か食べるってぐらい」
もうそんな時間か。
確かにお腹が空いてきた気がする。
「一緒に行ってもいい?」
「いいよ。そういえば、道わかる?」
「あー地図あるよ」
私は鞄から一枚の紙切れを取り出した。
「見して」
それを彼女に手渡しつつ、人が減ってきた教室を後にした。




