2 初登校
マリとして振る舞いつつ、この世界に慣れるように過ごしていたら、あっという間に一週間が経過してしまった。
「ここの生徒になるのか」
マリの父親が感慨深そうに呟く。
視線の先には、荘厳な門と数えきれない程の人々。
これら全てが学生とその家族だ。
私も含め、指定されたグレーの制服を着用している。
「頑張ってね、楽しく過ごすのよ」
「うん!行ってくるね!」
マリの両親にそれっぽく挨拶を交わして、門をくぐる。
確か会場は、この先を真っ直ぐ行って。
考えながら見取り図を開くと、ざわざわと周囲が一層騒がしくなった。
釣られて視線を上げる。
その先にいたのは、燃え盛るような赤毛の女性。
その顔立ちは、精巧な人形の様に美しい。
釣り上がった琥珀色の瞳が、そこにあるだけで威厳を纏っていた。
不自然に開けた道を、堂々と歩いて進む。
着用している制服は白く、わかりやすく貴族の証。
誰もが道を譲り、彼女の権威こそが絶対だと信じて疑わない。
彼女こそがリリィ・フールレクス。悪役令嬢だ。
中身は確かOLって設定だったかな。
「おい、あれがあの‥」
「俺初めて見た‥」
周囲の話題が一瞬で塗り替わる。
ちなみに他にお偉い人はいない。
時間がズラされていて、フルーレクス様が意気込みすぎて早く来ただけだ。
テルルは対照的に遅れてくるので、キャラクター性がわかりやすい。
彼女の姿が見えなくなってから、早々に会場へ入り、指定された番号の通りに椅子に座った。
荷物を置いてからあたりを見回す。
会場には、チラホラと人が集まり始めていた。
「ここって2041の席?」
「‥えっ?」
上から声が降ってきた。
ぼーっとしていたからか、反応が一拍遅れる。
「あ、そうですよ」
そう返事をすると、声の主の少女は「ありがとー」と笑って、私の隣に座った。
「なんかこう言うのって緊張するよね」
「そうだね」
彼女はそのまま話を続ける。
聞いて終わりかと思っていた。
「クラスってどこだった?」
「私はCだったよ」
問いに答える。
そう言えば、この席ってクラス順で並んでいるのかな。
「どこだった?」
聞かれっぱなしも良くないと思って、質問を返す。彼女は少し思い出すようなそぶりを見せて「Bだったと思う」と答えた。
「え、すごい」
優秀な人なんだろうな。上のクラスだ。
私と変わらない年齢なのに、ここまで差があるのか。
「そうかな?ありがと」
彼女は何でもないことのように答えた。
「‥‥」
「‥‥‥‥」
自然に、お互い無言になった。
‥ここからどうしたら。
先ほどだって険悪なやり取りはなかったと思う。
ただ、話す話題が尽きただけ?
ぼんやりと、前世でもそうだったなと思い出す。
別の誰かになったからといって、根本的な性格まで変わるとは限らない。
良いことでもある反面、何となく。
それが残念でならないような気がした。
会場全体にアナウンスが響き渡り、式の開催を盛大に告げた。
学園生活のスタートだ。




