1 転生
夕暮れ時のことであった。とある町娘の部屋。
送り主の権威を象徴した、やけに上品な封筒とともに私は全てを思い出した。
「あ、この世界。巷で流行りの悪役令嬢系小説だわ」
私は勢いよくベットに倒れ込んだ。
うわ、前世の記憶のせいで肌触りが悪い気がする。いつもは気にならないのに。
とにかく、状況を整理しよう。
乱雑に封を破き、ざっと内容に目を通す。
物語の舞台となる国立アーレイ学園へ入学するための関係書類。
原因はわからないが、おそらく、私こと山口 美咲は、悪役令嬢ものの小説の世界へ、特に理由もなく転生してしまったらしい。
バッドエンド回避どころか、小説に名前すら出た記憶はないキャラクターだけどね。
なんで覚えてるかって?最近読んだ漫画が丁度それだったからだ。
「悪役令嬢になったので、裏で手を引こうと思います。」ってタイトルだったはず。
原作は小説らしいが、私は漫画で読んでいたから学園のシンボルマークにも気が付けたってわけだ。
ついでに前世の記憶もポンっと沸いてきた。今は驚きすぎて逆に冷静。
金髪の王子様とか、研究者とか、元暗殺者とか、シスコン兄弟とか。主人公に助けられて、忠誠を誓ったり恋したり。
目が覚めたら恋愛ゲームの世界の悪役令嬢に、平穏な学園生活を送りたいけど何故か攻略対象達が離してくれない!って話。
危険もあるけど、平穏に過ごすために努力した最強の悪役令嬢様が華麗に解決してくれる。
魔法の使用に伴う排気ガス的なものによって異形となった生き物を魔物と呼び、それを唯一取り除けるのが聖女様ことヒロインのテルル。
その地位に胡坐をかいちゃったこれまた転生系聖女様は主人公にメロメロな攻略対象にアタックして成敗される。
後から悪役令嬢様も聖女なことも判明する。
もしかしたら異世界特権だったり。
私もそんな能力が…いや、やっぱいらないかも。
おっきな野生動物と対面するとか怖すぎる。
前世に記憶は、漫画を適当に読んで、深夜だしそろそろ寝ようと思って、それから先が消えている。
この体の持ち主、マリさんとその家族には申し訳ない話だ。私も家族が心配だし。
転生しました。なんて一生明かせる気がしない。
娘を返せとか言われたら罪悪感で泣いちゃう。
それでも、私は別にバッドエンド回避に奮闘する必要もないし、悲劇の登場人物を助ける必要もない。
人生をそこそこ転落しないように生きて、だらだらと働ければいいって話だ。
なんだ。今までの人生と大して変わらないじゃないか。
主人公様みたいに攻略対象に怯える必要もない。というか会う機会もない。
学校とか友達づくりとか正直ストレスだけど。
私自身が酷くつらい目にあうような感じじゃなかったことを、感謝しないといけないんだろうね。
今後の計画をたてよう。
転生ものらしくてワクワクするし。
太陽がすっかり沈み切った後、私は壁にもたれかかりながら思案を巡らせた。
改めて、私は一週間後、アーレイ学園に入学する。
一応奨学金制度があって、成績優秀者には免除制度があるが、その他の生徒は卒業後に一生かけて返済していく仕組みだ。
もちろん、ヒロインは特待組で私は返済組。
平等を掲げているタイプの学校なので、平民でも入れるしぶっちゃけ名前書ければ入れる。
入試の結果によってA~Eまでランク分けされており、世界最上の教育から基礎教育まで幅広くってやつらしい。
ちなみに私はCクラスだった。普通。
そして何より全寮制しかも個室。ちょっと考証的に文句いわれそうなこの設定は、いまさらと言えばいまさらだ。
今後の方針として大きく言えることは、メインキャラクターに絡みにいかないこと。
私も転生者なんです助言します。なんて言って何かが変わるわけでもないし、たかが一介の娘がお偉いさんに話しかけるなんてリスクでしかない。
もし仮に私が主人公に、「あなた断罪されませんよ」なんて伝えたとして、先の展開がどう影響されるのかなんてわかったものじゃない。
物語の中にはもちろん世界規模の危機もある。
だから、下手に関わって国家の存亡とか言われたら責任が取れない。
あ、でもバタフライエフェクトは許してほしい。
原作と寸分たりとも所作を変えてはいけないなんて完全に無理だし、それこそ強制力さんを頼りにしてます。
あと、大学ぼっちだったから。もしできたら、せっかくなら、友達欲しいな。
ベットの上。
考えがまとまらないまま、私は眠りについた。




