表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘ですが皇子に惚れたので世界と戦います  作者: ヒカリ
第4章  君に惚れたので、世界と戦います
37/37

エピローグ

――光の中で、私は確かにユウトと手を握っていた。

命を差し出す覚悟で、世界を選び直すと誓った。


……なのに。


気づけば、私は玉座の前に立っていた。

高い天井、冷たい石の床。

そして玉座には、赤い瞳の父――魔王が座している。


「サクラ、そろそろ城を出て、見聞を広めてみるといい」

「……陛下?」

思わず口をついた呼び方に、父は眉をひそめる。

「陛下などと他人行儀な呼び方をするでない。父上と……呼んではくれぬのか?」


横で、柔らかな笑い声が響く。

アネモネ――母が、口元に手を添えて私を見ていた。

「ふふ……」

「……アネモネ、そなたも笑ってないで何か言ってくれ。これが、世に言う反抗期なのだろうか」

「さあ……でも、可愛らしいではありませんか」


私は戸惑いを隠せなかった。

父と母が並んで玉座に座っている姿は、記憶と違う。

もっと重苦しく、冷たい空気が流れていたはずなのに――今、この広間には穏やかな風が吹いているようだった。


「今は、人と魔族が手を取り合って生きる時代だ」

父の声は低く、しかし温かい。

「人の世界を見に行って、見聞を広げたらどうだ?」


「……あの、魔王と勇者の輪廻りんねは?」

輪廻りんね?」

 父は首をかしげ、母が穏やかに答える。

「神話の時代の話かしら。争いをしても何も生まれないという、昔話よ」


胸の奥で何かがざわめく。

輪廻りんねが……ない。あの絶え間ない争いの循環が、消えている――。


「港町ネレイアなど、どうでしょう」

母が微笑みながら提案する。

「海もきれいですし、きっとあなたの知らない景色がたくさんありますよ」


私は小さく頷いた。

ネレイア――その名を聞くだけで、潮の香りが蘇る。懐かしくて、胸が熱くなる感覚とともに。


――――


港町の空気が、胸いっぱいに広がった。

潮風のぬるさも、遠くで帆がきしむ音も、果物の甘い香りと魚の生臭さも――全部、知っている。


懐かしい。いや、正確には”もう一度”だ。

確かに一度ここに立った。この港町のざわめきも、空の青さも、全部覚えている。


そして――私が”目立つ”ことも。


「こんな上玉、久々に見たな。おれたちといいことしようぜ?」

粗暴な男たちが下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。


この台詞知ってる。前もこうだった。


吹き飛ばすこともできる。でも、それをする前に――


「やめろ!その人が君たちと関わる理由なんてない!」

来た。この声、このタイミング。

全部覚えてる。



ゆっくりと振り返る。

白いシャツを風にはためかせ、黒色の瞳がまっすぐに私を見抜く。

何もかも吸い込んでしまうような、変わらない瞳。


「……やあ。待ってたよ。」

その笑顔も、覚えている。私をいつも救ってくれた顔。


「今回は、あなたが私を見つけてくれたのかしら」

私がそういうと、ユウトは小さく首をかしげて小さく笑った。


潮風が吹き抜け、海の香りが強くなった。

また、一緒にこの人と旅をしよう――そう心の奥で誓う。


「ねえ」

ユウトが突然、呼びかける。


「……月が奇麗だね」


「まだ昼よ」

私は、あきれながら笑って返す。


「……私も愛しているわ」


潮風が、静かに二人の間を満たした。



こうして、私たちの旅はもう一度始まった。

今度こそ――愛と笑顔だけを携えて。




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


この物語は、私が初めて書き上げたものです。

拙い文章に何度も嫌気がさし、途中で手を止めそうになったこともありました。

それでも――愛や気持ちを強く持ち続けることで、必ず何かが変わる。

そのことを物語を通して、読者の皆さんに伝えたいと願いながら、ここまで歩んできました。


この物語は、ここで幕を閉じます。

ですが、どこかでまた、皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。


もし少しでも心に残るものがあれば、

感想や評価をいただけると、とても励みになります。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!



ヒカリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ