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魔王の娘ですが皇子に惚れたので世界と戦います  作者: ヒカリ
間 章  転生。名前も失った僕
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間話2-1 その日、空が避けた

今回は、間話を作ってみました。


サクラとユウトの悲劇があった後、この世界は大きく変わってしまいます。

異世界と言ってもいいかも知れません。


空は、ずっと閉ざされていました。

名前も、自由も、希望も持たない少年がいた世界で。


でもある日、少女が降りてきた。

それが、すべての始まりでした。


ここからは、あなたの心に何かが灯るような物語を目指していきます。


引き続き、どうか最後までお付き合いください。

その日、空が裂けた。

どれほど灰に覆われた世界でも、あの一瞬だけは確かに、“青”が存在した。


この大陸の空は、いつも厚い雲に覆われ、陽の光など一度たりとも届かない。

街は煤け、空気は淀み、泥と悪臭が石畳の隙間を埋め、人々は目を伏せてただ命令に従う。


奴隷と呼ばれる者たちはなおさら――番号で呼ばれ、殴られないことだけど祈って生きていた。


僕——“番号七二”も、そうだった。

生まれたときから鉄格子石の床しか知らず、ただ労働力として使われてきた。


ただ一つ、違っていたのは――神が、深い黒だったこと。


異質なその色は、忌み嫌われ、腐った野菜の処理や獣の死骸の片づけ、排泄物の清掃といった、誰もやりたがらない底辺の仕事ばかりを押しつけられた。

いつしか自分の姿を見ることも酒、ただ日々をやり過ごすだけになった。


しかし、ほんの数日前、桶の水にふと映った自分の顔を見たとき——なぜか、目が離せなかった。


「なぜ、自分だけが、違うのか」


その問いが、小さく、だが確かに胸の奥でくすぶり始めた。




ある朝、街が異様な静けさに包まれた。

空が音もなく避け、透き通るような青が現れたのだ。


澄んだ、深海のような青。

生まれてこの方、誰も見たことのなかった“本来の空の色”が、雲の隙間からわずかに顔を覗かせた。


その瞬間——


「……やっと、見つけた」


声が、聞こえた。耳ではなく、心の奥深くに。

優しく、温かく、けれど、抗いようのない確信を伴って。


だが、次の瞬間、雲が閉じ、日常が戻った。


その日、納屋の奥で、“番号一〇九”が、鞭打たれていた。

弟のように可愛がっていた子だ。


「やめろ!!」

衝動的に叫び、僕は鞭の下に飛び込んだ。


結果は明白だった。怒声が響き、身体に痛みが走る。

殴られ、蹴られ、血を吐き、気を失った。


——気づけば、冷たい石の牢の中にいた。


その夜……再び風が、吹いた。


牢の高窓から、小さな隙間を縫うように、一筋の風が差し込んだ。

そして、信じられないことに——空が、再び裂けた。


ほんの一瞬、空が戻ってきたのだ。

まるで、それが彼を呼ぶ“合図”であるかのように。

そこには、満点の星空があった。


そのときだった。


「……こっち」


鉄格子の向こうに、影が現れた。


少女だった。十六か、それよりも若く見えた。

透き通る白い肌、夜明けの空のような亜麻色の髪。

目が合った瞬間、彼女の翡翠色の瞳が貫いた。


彼女の胸元には、三日月を砕いたような銀のペンダントが光っていた。


青白く、静かに、けれど確かに輝いていた。

まるで、それが——この世界を裂く“鍵”であるかのように。


少女は微笑んだ。


優しく、どこか寂しげに。


「あなたを迎えに来たの」


まるで、それが最初から決まっていた運命だとでもいうように。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


名前も、希望もなく、ただ「七二」として生きていた少年が、

“空を裂く少女”と出会い、ほんの少しだけ世界が揺らぎ始めました。


少年とは誰なのか。

そして少女は――?


勘の良い読者の皆様なら、すでにお気づきかも知れませんが。


この話は、新しい物語の「扉」です。

すべてが灰色だった世界に、最初の“風”が吹き込む瞬間を描きました。


次回、

”彼”は「名前」を与えられ、

そして初めて“誰かの手を取って逃げる”という選択をします。


暗く閉ざされた日常が、少しずつ壊れていく予感。

あなたも、ぜひ”彼”と一緒に“世界の外”を見に行きませんか?


感想・ブックマーク・フォローなど、していただけると励みになります。

この物語が、ほんの少しでもあなたの心に残れば嬉しいです。


それでは、また次のお話でお会いしましょう。

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