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魔王の娘ですが皇子に惚れたので世界と戦います  作者: ヒカリ
第2章  君と出会い、私は魔王の娘をやめた
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第16話  魔王の贖罪

世界は、理によって定められた。

魔王と勇者。殺し合い、繰り返される運命。


だが、もしそれが、

誰かを失うことでしか保たれない世界だとしたら……


その理は、果たして正義なのか。


これは、かつて“魔王の娘”と呼ばれた少女が、

愛を知り、運命の輪を砕こうとした、ひとつの終わりと始まりの物語。


今回のお話では、《輪廻》をテーマとしています。


読んでいただければ幸いです。

魔王アドラメレク

ーー父に、かつてのような威圧感はなかった。


燃えさかる赤い瞳も、禍々しい魔力の気配も、いまや風に消えそうなほどに淡い。


「我が娘よ……すまなかった」


静かな、苦しみを抱えたような声だった。


その言葉を聞いた瞬間、私は動きを止めた。


瞬間――胸の奥で何かが弾けた。


「……遅いのよ」


私は手を掲げる。赤黒い魔力が、掌に集まる。


「あなたが、全てを奪ったのよ!!」


魔力が、咆哮のように走った。


炎が唸り、城の床を割り、空を焦がす。


アドラメレクは動かなかった。


その身を、魔力の奔流に晒しながら――ただ、立っていた。


「そうだ……それでよい」


父の瞳に、はじめて哀しみが浮かぶ。


「アネモネ……お前が正しかった。我は……間違っていた」


私は声も出せずに、ただ彼を見つめていた。


「サクラよ。勇者とは、人の運命が作り出す輪廻の産物だ。魔王が存在する限り、その理は続く。

我が存在こそが、勇者を“蘇らせるための理由”となるのだ」



彼は、裂けた空を見上げ、その向こうに何かを見ているようだった。


「だからこそ……」

「魔王の血、そして勇者の運命の継承…二つが衝突することで秩序を保つ、この理は終わらせねばならぬ」


「サクラ。お前の大切なものを取り戻すために」


彼はゆっくりと、胸元から何かを取り出した。


それは、ひときわ美しい銀のペンダントだった。

中央に砕けた三日月のような彫刻、微かに青白い光を宿していた。


「これは、アネモネの形見だ。

お前の母が、最後まで大切にしていた……“希望”の象徴だった」


私は目を見開いた。どこかで見たことがある気がした。

そうだ、記憶の中で母がそっと握っていた――あの光。


「これを……お前に託す。未来を照らす道標として」


彼の手が、私の肩に触れる。その手は、父のものなのに、どこか母の温もりに似ていた。


「我が命を以て、理を断ち切ろう」

「そして、世界により勇者が復活した時でも、悲しい衝動がないようにしよう」


「我が娘よ、未来を……愛を選び取れ」


ペンダントが、私の手の中にそっと落ちた。


「復活した勇者とともに、もう一度、世界を作るのだ。我では成し遂げなかった…幸福に溢れる世界を……」


魔王アドラメレクは、赤い光の粒となって崩れ――風に、溶けていった。


「……父さん……」


私の身体は崩壊を止め、色を取り戻していった。


風が、優しく吹いた。


どこかで、雲が、裂けた気がした。



そして、私は思い出す。


かつて、青い空があったこと。

ユウトがいたこと。



ーー私が、彼を愛していたこと。



私の思念は、雲の向こうへと舞い上がる。



ーーーーー

遥か彼方。

違う時代、違う場所で。

灰色の大地を彷徨う、黒髪の少年の瞳が、空を見上げていた。


彼が見た空の、その裂け目に――


私は、確かに存在していた。

サクラは世界を壊しました。


“理”に抗った彼女の叫びは、

一人の父の贖罪を呼び起こし、

一つの「輪」を断ち切りました。


それは、終わりであり、はじまり。


灰の大地に立つ少年の眼差しの先に、

かつての空が戻ってくることを願って。


次の話では、いよいよ第1話へとつながる“再会”の物語が始まります。


長い物語をここまで読んでくださった皆さまに、

心からの感謝を込めて。


よろしければ、フォローや感想をいただけると、執筆の励みになります。

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