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魔王の娘ですが皇子に惚れたので世界と戦います  作者: ヒカリ
第2章  君と出会い、私は魔王の娘をやめた
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第12話  君の名を呼ぶ

 勇者として選ばれた少年が“声”に呑まれ、世界に背を向けられる瞬間。

 そして、それを傍で見つめる少女が、“奪われたくないもの”をただ叫び続ける。


 運命の継承とは、過去に屈することではなく、自分自身に問い続けること。


 運命と自分自身について、問いかける話を紡ぎました。

「ユウト……?」


私はそっと名前を呼んだ。けれど、彼は答えない。まるで自分自身と戦っているかのように、頭を抱え、苦しげに膝をついていた。


「……うるさい……やめろ……!」


うめくような声が漏れる。額に汗が滲み、普段の穏やかさは影を潜めていた。私が知っている、誰かのために拳を握る優しい彼の姿ではない。


私は一歩、彼に近づいた。


そのときだった。



『魔王を滅ぼせ』


『魔王を滅ぼせ』


『魔王を滅ぼせ』


――声。無数の声が、空間を満たす。男も女も、老人も子どもも。まるで魂そのものがユウトに囁いているように。


「うわあああああっ!」


ユウトが絶叫した。地面に両手をつき、爪が石畳に食い込む。彼の背中から、淡い青白い光が漏れはじめていた。

それは冷たくも神聖な光で、私の赤い魔力とはまるで違う。見ているだけで胸が締め付けられそうな、鋭い輝きだった。


私はただ、彼に手を伸ばすしかできなかった。


だが、そのとき――


「……殿下は、魔王の娘に籠絡された」


低く、冷えた声が空間を断ち切った。振り返ると、護衛たちが剣に手をかけていた。

ユウトは、彼らの中には、海軍時代から共に過ごした仲間もいると言っていた。そして、私にとっても、魔王軍がネレイアを襲い、船での旅を一緒にした、仲間でもある。


「……!!!

申し訳ありません。ですが、今や殿下は……国家の象徴とは呼べません。魔王の血に情を通じたと知れれば、民心は……」


護衛たちは、唇を固く噛み締めながら、その剣が一斉に抜き、ユウトに向かう。


「やめてッ!!」


私は叫んだ。赤い魔力が爆ぜ、空気が熱を帯びる。兵士たちがたじろぐ。



「お願い……彼を奪わないで……!」


一瞬、空気が止まったように感じた。


私の赤い魔力に呼応するかのように、ユウトの身体が再び震えた。

青白い紋章が彼の背に浮かび、空間が軋むような音を立てる。


『使命を果たせ』


『魔王を滅ぼせ』


『世界を救え』


声が、また彼を覆っていく。

その声の波に呑まれれば、ユウトはもう、ユウトではなくなる気がした。


「ユウト!」


私は駆け寄り、彼の手を握った。赤と青の光が混じり合い、眩い閃光が部屋を包んだ。


その中心で、ユウトが静かに目を開いた。

いつもの爽やかな笑顔が、私を落ち着かせていた彼の顔からは、滝のような汗が滴っている。


「……僕は……誰だ……?」


かすれた声が、光の中に溶けていった。


……彼は、「ユウト」でいられるのだろうか。


私は彼の隣に座り、そっと囁いた。


「あなたの名前は、ユウト。

優しくて、強くて、私を何度も助けてくれた人。

そして……私が、何度も呼びたかった名前」



その声が、彼の心の奥に届くことを祈って――

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


 今回のお話、「声」では、ユウトの中に響き始めた“勇者たちの声”と、それに抗おうとする彼自身の姿を描きました。

 同時に、かつて仲間だった者たちが、信じていた“正義”の名のもとに剣を振るうという、もう一つの悲劇も挿入しています。


 この章で重要だったのは、「サクラが力で守るのではなく、“叫び”で繋ぎとめようとする」ことです。

 それは、彼女が“魔王の娘”ではなく“サクラ”として、誰かを想う姿そのもの。

 そしてユウトもまた、自分が“誰であるか”を問われ、崩れながらも答えを探し始める。


 二人の運命は、いま大きく交差し、そして揺らぎ始めました。


 この“覚醒”が、世界とどうぶつかり合うのか――次のお話では、そのあたりについて言葉を紡いで参ります。


次回、「勇者の覚醒」

続きを楽しみにしていただければ嬉しいです。


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