表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘ですが皇子に惚れたので世界と戦います  作者: ヒカリ
第2章  君と出会い、私は魔王の娘をやめた
11/37

第11話  魔王の血と運命

 “運命”は、ただ受け継がれるだけのものなのか。

 それとも、抗うことができるものなのか。


 魔王の血を継いだ少女と、勇者の運命に引き裂かれる少年。

 その出会いが、世界の均衡を少しずつ揺らしていく。


 もし、あなたが“誰かの意思”ではなく、“自分自身”として生きたいと願ったことがあるなら――

 この物語が、あなたの心に触れるといいな。

 私の身体には、まだ父の残した灼熱の魔力が残っていた。


 それは、内側から燃え上がるような衝動だった。指先が震える。心臓が早鐘のように打ち続ける。赤い魔力は、皮膚の下を脈動しながら、意識の境界をじわじわと侵していく。


 轟々と血が沸き立つ音がする。骨の髄まで熱が突き抜け、思考が焼け落ちていく。ただ――壊したい。焼き尽くしたい。その衝動だけが、喉元までせり上がってきた。


 まるで、父の魔力そのものが私という器を乗っ取り、世界に爪を立てようとしているかのようだった。


 「……やめて……っ」


 その声は、私自身のものとは思えないほどかすれていた。目の奥が焼けるように熱く、視界は赤く染まる。

 身体から迸る赤い魔力に宿っていたのは、父――いや、“魔王アドラメレク”の、人間に対する凄まじい憎悪。そしてその奥底に、重く沈殿するような深い、深い悲しみだった。



 「……サクラ、大丈夫か?」


 背後から響いたユウトの声が、私の心の中に光を差し込んだ。


 燃える炎に冷たい水をかけるように、その声は、熱に浮かされた私の中へ染み込んでいく。


 振り返ると、彼は心配そうに眉を寄せていた。


 その顔を見た途端、張りつめていた何かがほどけていった。


 ――私は、まだここにいる。


 私は、魔王じゃない。私は、サクラだ――。


 そう、はっきりと思えた。



 けれどその時、ユウトの瞳の奥に、かすかな違和感が走った。恐れでも、拒絶でもない。もっと曖昧で、揺れる影のような“ざわめき”がそこにあった。



 一瞬、心の奥底に黒い波が押し寄せてくる。



 それを察したのか、ユウトはそっと手を伸ばし、私の肩に触れた。


 その瞬間だった。


 ――ごぅん、と空気が軋むような音がした。


『――魔王は、血によって継がれる。だが、ひ弱な人間にはそうはいかぬ』


 空気の奥底から、低く響いた父の声。


『勇者の力は、“人から人へ”、運命として継承されるのだ』


 ユウトの身体が、ぴくりと震えた。


 彼の顔が、苦痛に歪んでいく。まるで、内側から何か異質なものが芽吹こうとしているように。


 「ユウト……?」


 私は、ぞっとした。


 先ほどまで私の中で暴れていた魔力の奔流に、彼まで巻き込まれてしまったのでは――そう思った。


 しかし、そうではない。


 彼の内に、まったく別の“力”が目覚めかけている気がする。


 ユウトの背に、青白い光がふわりと揺らめく。それは、私の赤い魔力とはまったく異なる、けれど同じように抗いがたい力



 私は、思わず息を呑んだ。


 お願い、どうか――ユウトだけは。



 どうか――


 ――私から、奪わないで。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 今回は、「受け継ぐ」ということが持つ重さと怖さ、そしてそこに抗おうとする“意志”を描きたくて言葉を紡ぎました。


 サクラは、父である魔王から逃れられない血を引きながらも、自分の存在を「サクラ」として貫こうとしています。

 一方のユウトもまた、自分の内にある“何か”と向き合い始める段階に差し掛かっています。


 二人がそれぞれの運命とどう向き合い、乗り越えていくのか。

 この先の展開にも、少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。


 感想やご意見など、お気軽にお寄せください。

 次回のお話で、またお会いできますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ