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 果たしてこれは誰に相談すべき?

 ネーヴェか、パンテーラか。

 4人班の中で交際するとは、なかなか他のふたりにとっては気まずいものなのでは?


 なんて思いながら任務につくルース。

 ヴォルペの指示に従いながら、まったくもって普段通りの態度に困惑する。


(夢……?)


 あの告白は夢だった?

 ああ、欲求不満になって見た夢想だったのだろう。

 こんな貧相な身体で、とびきりの美人でもないこの顔で、ほとんどプロポーズまがいの告白をされるだなんてなんと都合のいいアニメか。邪な願望甚だしい。


「さて、任務終了。今日はこれで最後だから、自由に過ごしてね。次の休みは11日後の予定だよ」


 ヴォルペが言う。

 休みなくほぼ一ヶ月近く働き続けるって身体的にどうなのかしらと思いつつ、ストリートで飢え死にするよりかはマシかと言い聞かせる。

 解散の一言とともにルースは自室に戻り、すぐにシャワーを浴びた。


 そして食堂へ。



◇◆◇◆◇◆



「出掛けよう」


 と、提案するのは部屋で待ち構えていたヴォルペだ。


「任務ですか?」

「ううん。僕たちが恋人だからだよ」


(あ、夢じゃなかったんだ。……その服で?)


 ルースはヴォルペと服を見比べて、もしかしたら仕事人間で私服を持っていないのかもしれないと思い至った。

 つい今しがた任務を終えたから、夕方くらいにはなっているだろうか。ならば先にヴォルペの私服を買い、レストランで──いや、食事が苦手なヴォルペだから紅茶だけを楽しめるカフェや茶葉店でも行けばデートになるか?

 なんて考えつつ、数少ない私服に着替える。


 ところで本当に自分たちは恋人関係とすることを了承していいのだろうか、とも思うのだが、いかんせん断ったところで状況が好転する兆しが想像できない。

 のらり、くらりと躱し続けるのも失礼な気がするし。

 しかし了承したとて、パンテーラやネーヴェに迷惑をかけるだろうし。

 悶々とする思考で答えが出せず、ふたりは街に出た。




「ヴォルペさん、スタイルがいいからなんでも似合うなぁ」


 ヴォルペの私服を買うために、なんだか落ち着いた雰囲気の店に立ち寄った。男性の服を専門的に扱う店で、店員も男性。続々と運ばれてくる服を着て、ルースがこれ! というものを買おうということになったのだけれど、すべて似合うので困ってしまう。


「色は濃いほうが好きだなあ。この赤もいいし、あー、この紫も青もいいなあ。どれも黒が混ざった落ち着いた色で、すごくヴォルペさんに似合う」

「じゃあ全て買おうかな」

「えっ! いや、私がヴォルペさんにプレゼントさせてくれるんですよね?」

「他のものでいいよ」


 全てくださいとヴォルペが言ったときの店員の綻びようといったら。

 調子に乗ったのか、アクセサリーまで運んできた。


「アクセサリーはいかがでしょうか? 時計やカフス、ネクタイピン、ラペルピン、幅広く取り揃えております。ハンカチーフも、服のお色に合わせてお買い求めいただけますよ」


 うーん。と唸るルース。

 制服に華美なものを付けていくのは気が引ける。かといって数少ない私服の機会のためにアクセサリーを買うのもなぁ。着用する回数が滅多にないものを買うのは勿体なく感じてしまう。


「では、ペアのアクセサリーはいかがでしょう?」


 手をこまねいているルースを見た店員が、思い付いたように提案した。


「ペア?」


 ルースとヴォルペの声が重なった。

 そのときには既に店員の部下らしき人が小さなショーケースごと運んできていた。


「ペアのブレスレット、ネックレス。ラペルピンと揃いのデザインの髪留め。そして指輪。薬指に嵌めることにまだ抵抗がございますカップルでしたら、奥様は小指に、旦那様は親指にはめるサイズもございます。


 こちら、小指と親指でしたら、ぶつかり合わないのです。手を繋ぐときですとか、()()()ときに」


 なにやら、したり顔である。

(色んなときって、なにを想定しているんじゃい)

 ルースはそう思いつつ、指輪を眺める。細い金属で、握り拳を作ってもさほど支障はない。石も埋め込み型で、なおかつ色は紺碧。ヴォルペの瞳に合わせたといっても過言ではない。むしろそれを狙ったのだとしたら、やり手の店員である。


「僕、指輪がほしい」


 ヴォルペが言った。

 えっ。と驚き、反射的に値段を見る。貧乏の癖だ。まずは値段。

 お、と思った。

 さほど高くない。礼装用ではなく、恋人用のカジュアルなものだからなのか、ルースでも充分に購入できる額だった。


「結婚指輪と婚約指輪は僕が贈るから」


 とまでヴォルペが言い添える始末。

 ヴォルペの頭の中では、本当にルースを妻とする未来が見えているんだなと、ルースは半ば感心した。


 そんな未来を想像する。

 仲間であり、夫婦であり、家族である。

 つまり、夫婦で同じ職場かあ。家族経営の食堂みたいなものなのか? ちょっと喧嘩しても小言を言いつつ一緒に仕事をする。


 大して、おかしくない未来なのかも。

 別に普通のことなのかも。


「じゃあ、これ貰います。ペアで。プレゼントにしてください。どうせすぐ開けるんですけどね。へへ」

「畏まりました。ではサイズを──」

「僕がやります」


 ルースの手を取って、サイズ測量用の指輪を嵌めようとした店員から一切合切を奪ったヴォルペ。

 そしてルースだけならまだしも、自分のもルースに測らせるという徹底ぶりのおかげで、ふたりは店員に触れず、触れられずに指輪を手に入れた。


◇◆◇◆◇◆


 紅茶の飲み比べができる店は、外に席が設けられていた。

 夜風に頬と髪を撫でられながら、ちょっと違う味の紅茶を交互に飲む。どちらがなんの茶葉なのかは、既にわからないけれど、なんとなく右のほうが好みだった。

 テーブルの中央には揺らめくアロマキャンドル。

(はーーー。デートぽーい)

 意図せず店員が施してくれた演出だったが、アロマキャンドルの香りがすごくいい。


「指輪、開けたいな」


 ヴォルペが言う。

 早速制服ではない服に着替えたヴォルペは、雰囲気ががらりと変わった。落ち着きはそのままで、もう少し色気が強くなったというか、柔らかくなったというか。

 隠しきれない嬉々とした様子に、ルースも思わず頬が緩んでしまい、包装したばかりの箱をとく。


 蓋を開けると磨かれたばかりの指輪がキャンドルの光を受けてきらりと光った。

 どちらとも言わず、ヴォルペが促したよう動いたからか、自然とふたりは指輪をはめあった。ルースの小指に、ヴォルペの親指に。


「変な気持ち」


 ぼそっとヴォルペが呟く。

 その横顔を見ると、じっと親指の指輪を見ているのがわかった。


「変、とは?」

「……わからないんだ。でも、お揃いの指輪が、なんだか、ちょっと変な気持ちにさせるんだよ」

「悪い気持ち?」

「多分、違うと思うんだけど」


 ルースもつられるように小指の指輪を見た。


「この指輪って、任務のときは──」

「1秒も外さないでね。僕も外さないから」

「あ、はい」


◇◆◇◆◇◆


 そうした翌日、パンテーラがルースとヴォルペの指輪を見て、大人の対応をした。


「あ、ふーん? へー。そう。」


 しかし、そのパンテーラが動揺している様に、さらに大人の対応をしたのがネーヴェだった。


(果たして、パンテーラの動揺はどういう意味なのですかねえ)

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