再会
国道と国道が交わる、田舎の交差点。国道といってもそれぞれ片側一車線で、交通量はそこまで多くはない。
そんな交差点の角にある、全国でお馴染みの看板のコンビニ。ここが俺のバイト先だ。
夜型人間の俺にとって、田舎のコンビニ夜勤はなかなか相性がいい。
シフト通りに出勤して、やるべき事をきちんとやって、後はレジでぼーっとする。それだけで店長に褒められる。
「遅刻したり、たまに勤務中寝ちゃったりする人もいてさ。和田くんはそんなことなく働いてくれるから助かってるよ。」
最低限の仕事をするだけで褒められ、僅かながら時給も上がった。
いつの間にか、バイトを始めて1年が経過し、気ままなフリーター生活が今後も続くだろうと思っていた。
深夜3時、什器の清掃などやるべき事を一通り終え、残った作業は残り1つとなった。
レジには自分と今日の相方の高倉くんの2人で、客は誰もいない。最後の作業の担当を2人で決めることにした。
「「最初はグー。じゃんけんぽん!」」
「っしゃ!!」
「うわーーー。」
じゃんけんに見事勝ち、高倉くんが負けて悔しそうにしてる。
「じゃ、トイレ掃除いってら~」
「はーい。」
高倉くんは、トイレの方へとぼとぼと歩いていった。
高倉くんを待つ間、タバコの補充でもしようと、棚の在庫をチェックする。
とはいえ、夜勤の時間帯にタバコが多く売れるわけもなく、補充しなくても大丈夫な程度。結局、よく売れる銘柄を多めに補充する事にした。
レジに背を向けて、たばこの補充をしていると入店チャイムが鳴った。
「いらっしゃいませー。」
俺は入店の挨拶をいいながら、体をレジ側に向き直した。すると、レジの前に女性が1人立っていた。
「久しぶり。」
俺の元交際相手が、レジカウンターを挟んだ向かいに立っていた。
「なんでここにいるんだ。」
「ねぇ。もう1回付き合おうよ。」
「なぜ俺の居場所が分かった。」
「色々あったけど、お互い年も年だし。」
「質問に答えろ。」
「あなたが私と付き合ってくれるなら答えてあげる。」
俺の質問には答えず、ただ復縁を迫ってくる。
「俺が付き合う気無いってお前も分かってるだろ。」
「だからこうしてお願いしてるんじゃない。」
質問に答える気もなければ、俺の心情を考慮する事もしない。
目の前にいる元交際相手、紫藤 茉央は昔からそうだ。
「なんでこんな所でアルバイトなんてしてるの?」
「俺の勝手だろ。」
「前みたいに毎月お小遣いあげるから、バイトなんかしないですぐ戻ってきてよ。」
「それが嫌なんだよ。とにかく、さっさと帰ってくれ。」
「お客さんにそんな事言ったら失礼でしょ。」
茉央は、俺をたしなめる様に言う。
「じゃあ、何か買ってさっさと出てくれ。」
「分かった。」
茉央は、買い物カゴを手に取り、店の奥へと入って言った。
俺は、バイトを放棄して今すぐ逃げ出したかったが、そういう訳にもいかず、その場を動けないでいた。
「トイレ掃除終わりました〜」
高倉くんがトイレ掃除を終えてレジに戻ってきた。茉央は、それを見逃さなかった。
「はじめまして、和田くんの元カノの、紫藤 茉央です。」
わざわざレジ前までやってきて、高倉くんに対して挨拶をした。あろうことか、自ら"元カノ"と明かして。
「はじめまして!和田さんにはお世話になってます!」
「そうなんだ。和田くんをよろしくね。」
そして、茉央は買い物カゴを出し、高倉くんがお会計を始めた。2人は、すぐ打ち解けた様に、楽しそうに会話をしている。
「また近くに来たら寄るね。じゃあ。」
会計を終えた茉央は、大きなレジ袋を持って店を出た。
「和田さんの元カノさん、めっちゃ美人じゃないですか!」
茉央が店を出た後、高倉くんはテンション高く俺に言った。
愛想良く振る舞うことで、バイト仲間に好印象を与えようとしたのだろう。茉央のその作戦は、見事に成功している。
「あんな人が彼女なんて、羨ましいですよ。」
俺の気を知らずに話す高倉くんを叱ることもできず、俺は何も喋らなかった。