直の章:1.いつでも一緒
俺が2度目に生まれたとき、最初に口にしたのは君の
美咲の涙だったんだ。
雨が降るといつも思い出す。
暗い小さな箱から出されて
昼の眩しさに目を細めると
久しぶりに見る君の瞳が俺を見つめてた。
元々、目の大きい君だったけど、それがさらに大きくなって目玉が落ちそうで。
その表情が可愛らしくて、君にまた会えて、俺は嬉しくて
君が俺を指にはめたのと同時に、俺は君を抱きしめた。
その時だよ、君が大粒の涙をこぼしたのは。
君の指と俺の間に涙が流れ込んで、溺れるかと思った。
でも、その涙は甘かったんだ。
何かで聞いたことがある。
悲しいときの涙はしょっぱくて
嬉しいときの涙は甘いんだって。
だから、俺は少しほっとしたんだけど
今まで君にどれくらいしょっぱい涙を流させたんだろうと思うと
たまらなくなって、もう一度、君を抱きしめた。
君に連れられての初めての外出は、そのすぐ後で、店主のところへ行ったね。
何度も何度も君は店主に頭を下げて、お礼を言った。
「直君を帰してくれてありがとうございます」
俺も一緒に言ってたんだよ。
美咲にまた会わせてくれてありがとうございますって。
やっぱりここの店主は、シルクロードからやってきた魔法使いなんだ。
店主は、君が頭を下げるたびに、口ひげを動かしながら屈託なく笑って
「いやいや、これが私の仕事ですから」
そんなやり取りがしばらく続いた後、君は聞いた。
「あの、どうして直君、笑ってるんですか?」
「ああ、少し加工させていただいたんですよ」
「でも、直君、ほんとにこんな風に笑ってたんです。これ見て、思い出しました」
俺もそれは不思議だった。
「いや、あなたの彼氏様のこと覚えていたので」
「え、でも、一度しか・・・」
「彼氏様、リングを眺めて、いい顔してるって言っていたでしょう」
「はい、彼、写真が趣味だったから」
「職人としては、よくできてるとか、すごいとか言われる方が嬉しいんですが」
そういえばそういうものかも。
「でも、そのいい顔をこうしてリングに残せてるっていう実感が久しぶりに蘇って」
店主は続けた。
「商売してると、そういうことは、つい忘れてしまいましてね。それで」
店を出るとき、店主は
「今度は」
言いかけて
「お気をつけて」
と、言葉を変えた。
君は、少し首を傾げてから深々と頭を下げた。
俺は店主が言いたかったことが薄々、分かったけど、聞かなかったことにした。
帰ってから、君は改めて、俺を、右手、左手、それぞれの指にはめてみて
俺の所定の位置を、左手の薬指に決定した。
それからは、俺が外されるのは、お風呂の時だけで
後はほんとに、いつでも一緒だった。
君と同じものを見て
同じものを聞く。
愛する人と時間を共有する心地よさ。
もちろん、君が俺に話しかけてくるのもちゃんと聞こえてる。
君は、何かあると
(ねぇ、どう思う、直君?)
とか
(この花、写真家の魂、そそられない?)
とか
心の中で、周りに人がいないときは声を出して、ささやいてくるよね。
俺の返事は、君には聞こえないはずなのに
もしかしたら、俺の返事が聞こえてるんじゃないかなって思うくらい
君は俺に話しかけた後は、満足げに微笑むんだ。
そして、寝る前には必ず俺の顔を見ながら
「おやすみ」
と、言って、俺を再び指にはめる。
君の寝顔は、すっかり安心しきっていて、無防備で、愛おしい。
そんなこんなで君は、高校を卒業して、大学に入った。
学部は文学部。
ほんとに好きなところに入ったからか
君は順調に単位を取っていって、あっという間に大学3年になった。
大教室。
君は、後ろの方の席に座って、テキストと筆記用具を出す。
ピンクが好きな君らしく、クリアファイルも筆入れもボールペンも全部、ピンクだ。
君は自分に似合う色を知っているんだね。
優しさの中に華やかさがある色。
大教室の騒がしさに打ち消されそうな鐘が鳴って授業が始まる。
授業開始の鐘は、君と出会ってからあまり好きじゃない。
それは、君の鈴のような声を聞いていられる時間を奪う合図だから。
ドイツ文学史の教授が、はきはきと授業を進め、遅れて入ってくる生徒も少なくなった。
ドアの開け閉めが落ち着き、ようやく教授の声だけが響くようになった頃。
ガタンっ、とドアが開く音がした。
板書されたものを、消される前に、と必死に書き写していた君がびくっとして見る。
そこには、肩まである髪を金色に染めた長身の男が立っていた。
顔は白く塗られ、ショッキングピンクの口紅も塗っている。
(うわぁ、バリバリのヴィジュアル系~)
ほんとだね。
(眉毛も描いてる、ね?)
眉毛そって、描いてるんだろうね、あれ。化粧落としたの、見られたくないだろうなぁ。
(あの格好で学校くるのって、相当、勇気いるよね)
君には全く縁がなさそうな男だね。
だから、俺は安心できる。
ヴィジュアル男は、俺たちの隣に座った。
その派手な出で立ちは、教室を見渡せる位置にいる教授にも目立ったようで
「君、そこの金髪の」
教授の呼びかけで、ノートに目を戻していた君が、ちらりと隣を見る。
下を向いて、色々と準備をしていた男が気怠そうに顔を上げた。
「はい?僕ですか?」
「そう、君」
「はい」
「君、『ファウスト』は読んだことある?」
「はい、去年くらいに」
「どうだった?」
「どう、と言われても・・・」
君は、さっきより顔を横に向け、男の言葉に耳を傾けてる。
「正直、不思議でした。どうして、人を殺しといてあの世で救われるのかなって」
教授が苦笑したのと同時に、君がくすっと笑った。
男が、それに気付いて、君の方に目を向ける。
君は、合った目を少し伏せた。
しばらくして、授業が終わった。
君は、筆記用具諸々をしまいながら、同じ作業をしているさっきの男に
「あの、さっきは、あなたのこと笑ったんじゃないです。私も同じこと思ってたから」
と、告げた。
男は顔を上げ、君を見ると、微笑んだ。
「そう。僕だけじゃないんですね」
派手な化粧に似合わない、しっとりした笑顔。
君は、鞄に入れようとして彼の手から逃げたノートを拾い、彼に渡す。
「あ、ありがとう」
君の左手の薬指が、彼の手に当たった。
君はその後
(ぶつかっちゃったね)
そう言って、俺を撫でた。
君は、この4年間、一日一回は俺を撫でる。
その日の帰り、君が俺に話しかけてきたのはこんなことだった。
(あの、ヴィジュアル系な人、いい感じだったね)
うん。
(私、ああいう人って、誰にでもタメ口だ、と思ってたんだけど)
いきなりのタメ口にはトラウマがあるもんね。
(うん、でも、ほんと、いい感じだった)
彼女が自分以外の男を誉めるのを見て、気分のいい彼氏なんていないんだよ。
それから、君とヴィジュアル男は、いくつかの授業で一緒になり
軽い会話を交わすまでになった。
ヴィジュアル男の正式名称は、神田翼。
家は、品川。
3つ上の姉が一人。
6歳になる柴犬のオスを飼ってる。
これが、君の仕入れた神田の情報だ。
神田は、君を見つけると、隣の隣の席にそっと腰を下ろす。
その日も、君は授業が終わって神田と談笑していた。
「あの先生の話、面白いんだけど、マイク使ってあの声の小ささじゃ疲れるよね」
「僕は、小さな教室でも受けたことがあるんだけど、それでも、前に行かないと」
「でも、神田さんは、バンドやってるんでしょ?バンドやってる人って、耳いいんじゃ?」
神田は、少し、きょとんとして
「ああ、僕、やっぱりバンドやってるように見える?」
「え、違うの?」
「やってないよ」
「あれ、ずっとそうなのかと思ってたのに」
「見る方、専門」
「じゃ、なんでまた?そのメイク、時間かかるでしょ?」
「ま、ざっと、1時間くらい」
神田は一つ目の質問には答えない。
「女の私だって、5分くらいだよ」
「木村さんなら、してもしなくても変わりなさそうだなぁ」
よく分かるね。
美咲はすっぴんで十分、可愛いんだよ。
「だって朝は、化粧時間より睡眠時間とりたいし」
「彼氏、化粧しろとか、何も言わないの?」
「え?」
「だってほら」
神田が俺を指さす。
「ああ」
君は俺に目を落とした。
「直君はねぇ、言わないと思うよ」
ご名答。
「思うって?」
「彼、4年前に亡くなったんだ」
君は、神田の目が不安げに揺れたのを見て、慌てて言った。
「あ、でもね、直君、ここにいるんだよ。ずっと一緒なの」
事情が飲み込めない神田に君は、俺を外して渡した。
「内側、見てみて」
神田の目が俺を覗く。
俺を覗いたのは、神田で3人目だ。
一人目は香奈ちゃんで、二人目は翔。
二人とも俺を発見すると、驚いてたっけ。
神田も多分に漏れず
「あ」
「うん、彼が直君。それしてると、直君が守ってくれてる感じがするの」
神田は、俺をじっくり眺めてから、何十億もする宝石かのように、そっと君に返した。
「私ね、時々、直君に話しかけるんだけど、直君が何て答えてるか、何となく分かるの」
やっぱりね。
俺たちは深いところで結ばれてるんだ。
君が、返された俺を指にはめたときだった。
「翼!」
君が振り返ると、ラメ入りの黒いキャミソールに短パンを履いた女の子が立っていた。
マッチ数本が乗っけられそうなほどの付けまつげに、唇からはみ出しそうなテカッた口紅。
「やだぁ、翼ったらぁ、浮気ぃ?」
君が口を開くより早く、神田が口を開いた。
「そんなんじゃねーよ。授業で一緒になって仲良くなっただけ」
神田の口振りが変化した。
どこから出たのか分からない高い声で、早口になっている。
少し昔のお笑い芸人みたいだ。
君も俺と一緒に唖然とする。
口が利けないままの君に、神田は、女の子の肩に手を掛け
「これ、俺の彼女。かわいーっしょ」
「んもぅ、翼ったらぁ。菜々美でーす。よろしくっ」
「あ・・・はい、あ、私、美咲です。よろしく」
二人の自己紹介が終わると、神田は君の背中をぽんっと叩き
「んじゃ、またねっ、美咲ちゃん」
「あ、ん、バイバイ、神田さん?」
呆然とする俺たちの耳に、遠くから神田の話し声が聞こえる。
「今日の授業、マジつまんなくて参ったよー」
その日の帰りは、君は終始、しかめっ面で話しかけてきた。
(神田さんのあの変貌っぷりは何?チャラすぎ)
俺もびっくりしたよ。
(まさか、あっちの神田さんが本物、とか?)
さぁ?
(また私、騙されかけてたとか?)
さぁ?
(でも、だったら、完璧に釣れるまでバラさないよね?)
そうだね。
(じゃ、二重人格、とか?)
違う気もするけど。
(ねぇ、どう思う、直君?)
俺に聞かれても分からないよ。
結局、君は、答えが出ないまま翌日を迎えた。
翌日の神田は、君を見ると、少し困ったように目を伏せてから、腰を下ろした。
「昨日はごめんね」
いつもの神田の落ち着いた口調に、君は、昨日のことを聞く機会を失う。
「ん、いいよ。彼女、明るくていいね」
「うん」
神田は、短い返事で会話を終わらせようとしている。
君は、間をおいてから、レポートの話をし始めた。
それから、菜々美という女性が現れることもなく、神田もいつも通りだった。
ただ、神田は授業が終わると、さっと教室を出るようになった。
神田豹変事件の直後は、そのことを気にしてた君だけど、それが日常となれば違う。
君と神田は、以前の関係に戻った。
それからしばらくしたよく晴れた日。
君は、授業が終わって校舎を出ると、背伸びをして門とは反対方向に向かった。
そっちには、図書館があって、その前には、大きな木を囲んだ石のベンチがある。
君は晴れた日には、そこでのんびり読書をするのが好きなんだ。
俺は俺で、ページをめくる君のしなやかな手を見るのが楽しみだったりする。
歩を進めていくと、君のそのお気に入りの場所に神田が一人でいた。
黒の携帯電話をいじっている。
君は少し早足になって
「神田君、こんなとこで何してるの?」
「ああ、木村さん」
神田は君に気が付くと軽く手を振って、携帯を閉じた。
「僕は、菜々美ちゃん待ち。半に待ち合わせてるんだけど、なかなか来なくてね」
君は、神田の隣に腰を下ろす。
「そっか。いつもここが待ち合わせ場所なの?」
「いや、いつもあっち。旧校舎の方。なんか今日から工事らしくて、で、ここ」
「ああ、そっか。あっち、エレベーター付けるとか」
「そうなんだ」
君は話しに切りがついたところで、『カルメン』を取りだした。
「これ、読んだ?」
「ああ、レポートの課題の原作?」
「うん」
「あるよ。でも、課題ってオペラ、見るだけでよかったよね」
「原作と比べてみるのが好きなの。映画でも、何でも。これはオペラの方が良さげ」
「僕もやっぱり、オペラの方が好きだよ。ドン・ホセに同情できるし」
神田が寂しげな目をした。
ドン・ホセ。
好きな女のために自分を見失い、破滅する男。
君のためなら、俺は破滅しても構わないけど。
君は神田の言葉と表情に引っかかるものがあったのか
「何、同情って?」
冗談っぽく聞く。
だけど、神田が答える前に
「翼、ごめーん」
「おう、待ったぜ」
神田は、勢いよく立ち上がり、今にも彼女をハグしそうだ。
君がまたしても豹変した神田にびくっとした。
「あれー、美咲ちゃん、だっけぇ?」
彼女が君を見て眉を曇らす。
「あー、美咲ちゃんには、暇つぶしの相手してもらってただーけ。な?」
「うん」
君はにこやかに彼女に挨拶して本を開いた。
「じゃ、行くか、菜々美」
「あ、ちょっと待って」
「ん?」
「さっきねぇ、友達と会ってぇ、話盛り上がっちゃってさぁ」
文字を追っている君の耳に彼らの話が聞こえてくる。
「んでね、翼の話ししたらぁ、会ってみたいってー」
「俺も菜々美のダチなら会いてぇな」
「よかったぁ。あっちに待たせてあるからぁ、こっち来てぇ」
彼女は、神田を案内しかけて
「あ、ちょっとお手洗い、行って来るー」
彼女が離れると、神田は、どすっとベンチに腰を戻した。
神田が背中を丸める。
不気味に笑うドクロがプリントされた半袖シャツに皺ができて、ドクロがヘの字になった。
神田の深いため息が、そのドクロから発せられたように思える。
「どしたの?」
君が怖々と神田に話しかけると、神田は
「菜々美ちゃんの友達にも好かれるかなぁって」
「どういうこと?」
君の口調が怪しんでる。
軽い男が嫌いな君だもんね。
神田は慌てた表情で
「違うよ、浮気したいとかじゃなくて、友達になれるかなって意味」
君のまだ少し疑ったような表情に神田は付け加える。
「好きな人が大事にしてる人のことも、一緒に大事にしたいんだ」
君が神田の目を覗く。
君を見返した神田の目には、静けさと真剣な色があった。
彼女が帰ってきて、神田が豹変しても、君はもう怖がらなかった。
数日後。
君は、教室に入ってきた神田に挨拶をしようとして、神田の異変に気が付いた。
視点が定まらず、ふらふらしてる。
それでも、神田は君のことは目に入ったようで、よたよたっと君の隣の隣に座り込んだ。
「やだ、神田君、大丈夫?」
君は、座るなり、腕を力無く伸ばして机に突っ伏した神田をのぞき込む。
よくみると、いつもの完璧な化粧が、ところどころ崩れてて
鼻筋は肌色が見え、眉毛が消えかかっている。
黒いTシャツに、黒のビンテージジーンズ。
稲妻の形のネックレスとドクロの指輪。
ファッションも、おとといのものと一緒。
君もそのことには気付いたはずだけど、それには触れず、神田の背中をさする。
「具合悪いなら、休んだ方がいいよ」
神田は少し首を上げて弱々しく笑った。
「おとといの夜から何も食べてないだけだから」
君は、それを聞くと、がたっとイスから立ち上がった。
生協に向かった君は、サンドウィッチをいくつか買い、走って戻ると神田に渡す。
最近、君は香奈ちゃんに似てきたように思う。
正確に言うなら、元々の君の優しさに逞しさが備わったんだろう。
そんな君も魅力的だよ。
神田はさすがに君が買ってきてくれた物を突き返すわけにはいかず、一つ食べ始めた。
だけど、その食べ方は、もそもそしたものだった。
なんとか授業が始まる前に食べ終わった神田は、授業には耳を傾けられたようだったけど
授業が終わっても、じとっと動かない。
神田には、元からささやかなオーラしかない。
ただ、今は、そのないに等しいオーラさえも見えなかった。
次の授業でも一緒になる女友達が君を誘いに来た。
だけど、君は
「ごめん、先行ってて」
と断る。
君は、本を取りだして、ゆったり読書をし始めた。
神田がゆっくり君の方を向く。
「木村さん、次、フランス文学、隣の教室でしょう?」
「うん」
「僕は大丈夫だから行っていいよ。始まっちゃうよ」
「出席日数はたりてるはずだし、この教室、次、何もないし。たまにはサボりも悪くない」
君は、えへへと、いたずらっ子のように笑い、本に目を戻す。
その笑顔は、君が俺の写真を撮ろうとしたときのものだった。
君が30ページほど読み進めたとき、神田が口を開いた。
「僕」
「ん?」
「見かけ倒しなんだ」
君は本から目を放さないで、神田の声に耳を傾けてる。
「こんな格好してるけど、バンドなんかやってなくて」
「うん、知ってる」
「音痴で」
「そか」
「この間、菜々美ちゃんの友達と会ったでしょ?」
「うん」
「最初は良かったんだ。みんな明るくて、いい子で」
「うん」
「だけど、その後、カラオケに行くことになっちゃって」
なんとなく先が読める。
「みんなが楽しそうに歌ってるから、僕、断れなくて歌ったんだ」
「うん」
「そしたら、音程、思いっきり外しちゃって、菜々美ちゃんの顔が真っ赤になって」
神田がそこで黙る。
君は、本を閉じて神田と向き合った。
「私も音痴でね。鼻歌歌ってると、お経か、ってよく突っ込まれるの」
神田が微かに笑う。
神田は、少し大きく息を吸ってから言った。
「で、おととい、菜々美ちゃんに振られたんだ。彼女として恥ずかしいって」
君の眉毛がぴくっと動いた。
「それで、そのショックで食欲なし?」
神田がこくっと頷いて自嘲気味に言う。
「軟弱でしょ」
君は、首を横に振る。
「好きな人がいなくなったら悲しいのが普通だよ」
神田はどきっとしたように
「ごめん」
「何が?」
「だってその・・・」
神田が俺を見る。
君は、微笑んで俺を撫でた。
神田は、その後も凹む日々が続いた。
最初は、そっとしておいてた君だけど、あまりにも凹んでる期間が長い。
君はとうとう見かねて
俺がいない間、香奈ちゃんが君にそうしてくれたように
神田をなるべく一人にしないようにした。
お昼を共にし、授業が神田より早く終わっても、神田を待って駅まで一緒に行った。
そして別れ際には、決まってこの挨拶。
「じゃ、また明日ね」