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美咲の章:1.それだけのこと

『プロローグ』


ここはある作業所。


小人たちが生まれる場所。




あなたに会えるのが好き。


学校でしか会えないあなたは、友達と楽しそうに話したり 


そうじゃないときは、静かに本を読んだりしてる。


休日のあなたが何をしてるかなんて知らないけど。


学校でだって話したことはないけど。


それでも、あなたに会えるのが好き。


だって、あなたはスポーツ万能、成績もトップクラス、おまけに美形。


ジャニーズにだって入れそう。


あなたが好き、じゃなくて


あなたに会えるのが好きっていうのは、多分、TVで好きなタレントを眺めるのが好き、


っていうのと変わらないから。


あなたの友達との話を聞こうとしないのも、あなたと話そうともしないのも


大好きなタレントがバカなことを言うのを聞いて冷めないように


ドラマだけ見て、トーク番組は見ないようにするのと一緒。


それで今日も7列離れた席から彼を眺める。



「なになに~、美咲、また直君眺めてるの~?」


休み時間に話しかけてきたのは、小学校からの親友、香奈。


「うん」


「眺めてるだけで楽しいもんかね?」


「目の保養~」


「またそれか」


香奈が苦笑したのに気付いたけど、気にしない。


「ねー、ちょっとで良いからさ、話しかけてみれば?」


「いいの、幻滅したらヤダもん」


「でも、直君って評判いいよ?」


「そうだね」


「私も何回か話したことあるけど、悪くないよ?」


「何、香奈も直君に興味あるの?翔君というものがありながら?」


翔君というのは、香奈の彼氏。


香奈と翔君は、去年から一緒の部活で仲良くなって


1年の終わりくらいから付き合いだしてるから、まだ数ヶ月しか経ってない。


「違うよ、帰りに待ち合わせしてたの、翔と。そしたら直君と話してたから」


そういえば、直君と翔君は1年の時から同じクラスだった。


「とーにーかーく、直君、優しげだったよ。美咲にぴったりだって」


どうしても食い下がってくる香奈に私は


「男なんてね、周りをダマしていかにモテようとするかしか頭にないの」


自分の頭をつんつんしてジェスチャーする。


「あんたさー」


香奈が、私の机に肘をついて顔をのぞき込んできた。


「17でそんなに悟ってたら、人生つまんないよ?」


「いいの、悟っちゃったもんはしょうがないの」


私が17歳で悟るようになった経緯を知ってる香奈は、やっと黙った。


聞こえるのはため息一つ。


しょうがない、経緯は知っていても私の気持ちなんて分からない。


いくら香奈だって。


恐怖を笑いに変えるのが、どんなに大変かなんて


分からない。


チャイムが鳴って授業開始。


私は、教科書に目を落とした。



それから3日後。


私が帰る支度をしていると香奈が声を掛けてきた。


「ね、久しぶりにゲーセン、寄ってかない?」


確かに久しぶり。


だけど、私は香奈の口ぶりに警戒する。


ウキウキ弾む声。


いくら久しぶりだからって、ゲーセンごときで喜ぶような柄じゃないはず。


それに、その弾んだ声を抑えようとしてるところも怪しい。


「今日は翔君と一緒じゃないの?」


「うん、今日はね。で、どうする?」


「んー、遠慮する」


私が警戒してそう言うのを知ってたのか、香奈はすぐ次の手に出た。


「リラックダの形した枕、UFOキャッチャーで出たんだって」


リラックダ。


今私が集めてる、癒し系のラクダのキャラクター。


「それ、持ってるからいいや」


「ゲーセンオリジナルバージョン、だよ?」


それはまだ持ってない。


心がくすぐられる。


「どうする?行く?行かない?」


「じゃ、見るだけ」


負けた。


私は、香奈がただ親切に言ってくれただけだと信じて彼女についていった。


ゲーセンオリジナルバージョンのリラックダの枕は、私が持っているのより大きかった。


「どう、あれ欲しい?」


UFOキャッチャーのガラスに顔を近づける私に、香奈は企みの笑顔を浮かべてる。


「欲しい。けど、私じゃ取れないよ」


「美咲、これ苦手だもんね」


初めて二人でゲーセンに行ったときから、UFOキャッチャーは香奈任せ。


「取ってあげよか?」


「いい、諦める」


「なんでー?」


「だって香奈、なんか取り引きし掛けてきそうなんだもん」


「あれー、なんで分かったー?」


やっぱり。


分かるよ、それくらい。


私は、香奈の同情を引くように、がっくり肩を落としてゲーセンを出ようとした。 


「待って待って」


香奈が私の行く道をふさぐ。


「じゃあ、3回。3回以内に取れなかったら、無条件でそなたに授けよう」


いくら香奈でもさすがにそれは無理でしょ。


そう思って、私は乗った。


香奈が腕をまくってUFOキャッチャーの前に立つ。


コインを入れていざ開始。


私は、香奈の手元とクレーンの動きを息をのんで交互に見つめた。


1回目。2回目。


香奈は、クレーンの先を、リラックダのタグに引っかけ、確実にゴールに近づけていく。


やな予感。


そして3回目。


リラックダは、クレーンにぽんっと後ろを押されただけで、ホールインワン。


「うそー」


「香奈様を甘く見すぎたようね」


自慢げな香奈に私は大きく息を吸い、覚悟を決めた。


「で、取引とは何でござんすか?」


「美咲、もっとこー、感謝の気持ちというのはないの?」


「はいはい、ありがとね。で、ご要望は?」


香奈の作った呆れ顔が、にやつきに変わる。


「明日中に直君に告白しなさい」


私は耳を疑った。


何でどうしてどうやって。


問いつめようとする私を振り切るように、香奈は 


「翔、待たせてるから」


とだけ言って店を出た。



次の日。


私は、香奈との取引を無視したまま1日を終わらそうとしていた。


もうすぐ、校門を出られる。


「逃げちゃだめー」


香奈の声が後ろから迫ってくる。


まるで恐怖映画。


香奈がトイレに行っている隙を狙って走ってきたのに。


私は、香奈にあっという間に追いつかれた。


自分の運動神経の悪さを恨む。


「そんな簡単に逃げられると思ったら甘いよ」


「勘弁、今回だけは勘弁!」


私は、ハエが顔を洗っているときのポーズを取った。


「枕、返すからさ。ね?」


「いや、私、リラックダ興味ないし」


「じゃ、違うもの。香奈の好きなあの宇宙人のキャラの、買ったげるから交換。どう?」


「惹かれるけどねー、もう遅いよ?」


「どういうこと?」


「翔に直君、呼んでもらってあるから。もうすぐ女の子来るから待っててって」


「は?どこに!?」


香奈は校舎の上を指さしながら


「告白の定番、屋上。そろそろ行かないと、第一印象最悪になるよ?」


そんな。


「香奈のバカ!!」


私はUターンしながら、捨てぜりふを吐いた。


屋上に着くまでの間、私はなんと言うべきか考えた。


告白はしなくてもいいと思う。


だけど、わざわざ呼び出してまでの用事を今更つくれない。


なんていう?


好きです?


でも、どこが好きなのって聞かれたらどうしよう。


声?


確かに悪い声じゃない。


でも、そんなに注意深くは聞いたことない。


話し方?


でも、彼が話しているのをちゃんと聞いたことがあるのは授業中だけで


先生の前で改まって話すのは当然。


じゃ、素直に顔?


軽すぎる。


最悪。


結局、答えが出ないまま、私は屋上に着いた。


おそるおそる重いドアを開くと彼の姿。


ドアのガチャという派手な音に彼が振り向く。


「あの、ごめん、遅れて」


とりあえず動揺を隠して謝る。


時間稼ぎ。


「ん、いや、あれ、翔は?」


直君が私の後ろをのぞき込む。


「翔君は香奈と帰った・・・と思う」


「なんだ、立ち合うとか言ってたのに」


立ち合うって出産かよ。


落ち着きを払うために、心の中で突っ込みを入れてみる。


「で?」


言葉が見つからず、文字通り右往左往している私に直君が促す。


「えっと・・・」


頭が熱い。


「夕方の屋上、男女二人。その心は?」


初めて話したも同然なのに、直君の口調にはからかいの表情が見えた。


私はそれでヤケになった。


親しくもないのに親しげにしてくる男は嫌い。


もうフラれたってかまわない。


私は気楽になって、勢いに任せて言った。


「好きです。付き合って下さい!」


なんのひねりもない、よく聞く言葉。


そして、次には、これまたなんのひねりもない言葉が返ってくるはず。


へらへら笑いながら、ごめん、という返事。


この手の男はそうなんだ。


「いいよ」


どんな感じで帰ろう。


なんかムカツクから、この告白は罰ゲームだと言ってやろうか。


今度は、そんなことで頭がいっぱいだった私は、その言葉にすぐに反応ができなかった。


危うく、どうして?と、立場違いなことまで聞きそうになったくらい。


きょとんとしている私に、直君が手を差し出してきた。


「よろしく」


こうして、私と直君は「カップル」になった。


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