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【完結】「補助金申請は領収書付きでお願いします!」 ~ 死に戻り転生女王は「領収書」で国家再建を目指す ~  作者: 白うさぎの子


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第13話 領収書添付を義務化するための勅令

「ギルバート。忙しいところ、申し訳ありません」


 私がそう言うと、ギルバートは胸に手を当て、王国流の敬礼をして深く頭を下げる。


「いいえ、全く問題ございません。女王陛下のお役に立てるのでしたら、どこにでも参上いたします」


 私はギルバートの対応に慣れてきた。少々胸の高鳴りは感じるが、今まで何度も顔を合わせているためか、以前のように固まってしまうことはない。


 私はほんのり頬を赤くしつつ、ギルバートを見て軽く笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。それでは、ギルバートに協力してもらう業務について説明します」


 私はテーブルに積み上げられた書類の山の前に移動すると、その中から説明に使えそうな一組の書類を選んで、ギルバートの前に置いた。


 そして、書類のチェックすべき箇所、証明書類の妥当性のチェック方法など、私はギルバートが知らない書類の分類方法を説明していく。ギルバートからいくつかの質問を受けたが、過去世での経験から、彼の全ての質問に回答することができた。


 私は最後に、エリーが書類を木箱に分類・格納してくれることを伝えて説明を終える。すると、ギルバートは私を見て、軽く感嘆の息を漏らした。


「恐れながら、女王陛下が若くして優秀でいらっしゃることを改めて認識いたしました。父も申しておりましたが、私は臣下として、女王陛下のことをとても誇りに思います」


 ギルバートの言葉に、私は頬を赤くする。しかし、「臣下」という言葉が少し寂しくて、思わず俯いてしまった。すると、その私の心の変化に気付いたエリーが、私に助け舟を出してくれた。


「女王陛下。業務のご説明も終えられたことですし、そろそろ作業を開始いたしましょうか?」


 私は気を取り直して顔を上げると、できる限りの笑顔を作って、ギルバートに話し掛けた。


「ギルバート。今日からよろしくお願いいたしますね。疑問点があれば、何でも聞いて下さい」


 私がそう言うと、ギルバートは椅子から起立して、その場で敬礼する。


 私はその姿を見て苦笑すると、ずっと彼に言おうと思っていたことを思い切って伝えた。


「できれば、(かしこ)まった振舞いや話し方はやめてもらえますか? この会議室では、皆対等です。上下はありません。私達は、国の財政を再建するという目標に向かって頑張る仲間です」


 実は、私の本音は「ギルバートともっと親しくお話ししたい」というものだった。エリーはそれに勘付いているようで、私にニッコリと温かい目を向ける。


 しかし、当のギルバートはそんな私に思いに気付くことなく、普段通りの態度で、私からの依頼に答えた。


「分かりました。女王陛下。一緒に頑張りましょう。……こんな感じでよろしいですか?」


 ギルバートはそう言いながら、少し照れくさそうに笑みを浮かべる。


 私にとって、その笑顔の破壊力はすさまじかった。


 私は十代の娘のように顔を真っ赤にして、慌てて目を()らすと、エリーに視線を向けた。


「エッ……エリーもいつも通り、私を名前で呼んでちょうだいね!」


 エリーは突然の私からの振りに、「はい、分かりました」と少し困った笑みを浮かべた。


    ◇ ◇ ◇


 ギルバートの参画により、書類のチェックは大幅に(はかど)った。


 まず、ギルバートの提案で、ある一定額以下の書類はチェックしないことに決めた。それまでの確認作業で、低額案件には不審な書類がほぼ無いことが分かったためだ。


 低額案件は、財務省の平民中心の部署で管理されており、お金と物・サービスの関係がはっきりしている上、各取引が確認可能な書面として残っていて、添付されている証明書の信憑性も高かった。


 そのため、全体の三分の一程度の低額案件の書類は、金額の記録だけを行って、分類・整理の後に木箱へ収めることになった。


 また、書類に優先度を決めて、最も執行状況が怪しい上級貴族主体の案件を最優先にチェックすることにした。


 この取り決めにより、財務省から運び込まれる書類の量を超えてチェックできるようになり、徐々に書類の積み残しが減っていった。


 そして、今回のチェック作業で、最も有用だったのがエリーの提案だ。


 私とギルバートが書類をめくりながらチェックを行っていると、エリーの声が部屋に響く。


「シルヴィア様、ギルバート様。休憩に入ります。今すぐに手を止めてください」


 私達は、決められた時間ごとに休憩を取ることを自らに強制した。効率の良い作業に休憩は欠かせないためだ。疲労は確認作業のミスにもつながる。


 私がエリーの言葉を聞いても書類をめくっていると、エリーは私の手をギュッと押さえた。


「シルヴィア様、ダメですよ。休憩の時間です」


 私は「は~い」と言いながら、テストが終了して答案用紙に解答を書くのを諦めた学生のように、椅子にもたれるようにして軽く溜息を吐く。


 エリーは給湯室にお茶とお茶菓子を取りに行くと、すぐにカートを押して戻ってきた。そして、私達の前に手際よくお茶とお茶菓子を準備した。


「エリー、ありがとう。それじゃ、休憩しましょう」


 私はギルバートの前でもすっかり緊張することがなくなり、休憩時間には、遠慮のない普段の口調で会話を楽しめるようになった。


 他愛もない会話ばかりだが、エリーが言った通り、好きな人との会話は無限のエネルギーを私に与えてくれた。一方で、砕けた態度を許されたギルバートの方が、むしろ緊張しているように見えた。


 しばらくの休憩の後、私達は再び作業を開始する。


「さぁ、次の休憩を目指して頑張りましょう!」


 過去世のサラリーマン時代のように、仕事をして帰って寝るだけのような生活だったが、私にとって三人で作業する日々は楽しく、とても充実したものだった。


    ◇ ◇ ◇


 私が財務省で予算の再確認を宣言してから約一週間後、(つい)に、確認必須とした全ての書類のチェック作業が終了した。


「終わった~!」


 私が会議室の椅子に座ったまま万歳をすると、エリーとギルバートが私を見てニッコリと微笑む。私は二人に視線を向けた。


「ギルバート、エリー。協力してくれて、本当にありがとう! 二人がいなかったら、こんなに早く作業を終えることはできなかった」


「いえいえ、女王陛下の優秀さの賜物(たまもの)でございます」


 丁寧に言葉を返すギルバートに、私が困った表情で苦笑いしながら、「丁寧な口調で言われても、お世辞にしか聞こえない」と冗談で返すと、ギルバートとエリーが声を出して笑った。


「それにしても……」


 私は書類の分類と整理が終わったばかりの木箱の山に視線を向ける。


「この圧倒的な『不合格』の山……。この部屋に入りきらない分は財務省に戻してるのに、こんなにもまだ残ってる。予想はしていたけれど、私はこの現状にかなりショック……」


 予算執行額が高額になるほど、「不合格」の割合が増えていった。結果として、高額な予算を扱える上級貴族達による不正の横行が証明された形だ。


 私はこめかみに指を当てて、独り言のように(つぶや)く。


「自浄作用が働いていないローゼンハイム王国は、本当に滅亡の一歩手前ね……」


 私の言葉に、ギルバートは椅子から立ち上がって、申し訳なさそうに頭を下げた。


「女王陛下。私は財務省に勤務する者として、この現状に責任を感じます。誠に申し訳ございません。不正をこれほどまでに看過(かんか)していたとなれば、私はどのような処罰も受ける所存でございます」


 思ってもいなかったギルバートの言葉に、私は慌てて、胸の前で両手を左右に振った。


「いえいえ! ギルバート達を処罰するつもりは一切ないですよ! これはむしろ、私達王族の責任です。上級貴族達の横暴に、歴代国王がしっかりと対応できていなかったんです」


 私がそう言っても、ギルバートは頭を上げない。


 確かに、先代国王の私の父なら、このような大量の不正が発覚したら、財務省の大部分の人員や取引の関係者を処罰したに違いない。それが今までの王国のやり方であり、貴族達にとっての常識だ。


 しかし、私が生まれ変わって感じたのは、それが無意味であるということだ。


 処罰を下すと言っても、前世を含めて、私は侯爵以上の上級貴族が処刑されたという話を聞いたことがなかった。おそらく、上級貴族は下級貴族に罪を押し付けて、あらゆる処罰を逃れてきたのだろう。


 今回も同様の処置をすれば、同じことの繰り返しだ。つまり、今までのやり方では駄目だということだ。なんとかして、この国に自浄作用を取り戻す必要がある。


 私は溜息を()くと、頭を下げ続けるギルバートに声を掛けた。


「ギルバート。顔を上げてください。そして、もし本当に責任を感じているなら、私に協力してくれますか?」


 ギルバートは顔を上げると、胸に手を当てて、私の問い掛けに答えた。


「はい、もちろんでございます。なんなりとお申し付けください」


 私は椅子から立ち上がると、外の景色が見える窓際に移動する。そして、窓から王宮の綺麗な庭園に目を向けた。太陽の光を受けてキラキラと輝く噴水には、鳥達が水を飲むために集まっていた。


 ギルバートとエリーが、窓の外を見て黙ったままの私を見て、次の言葉を待っている。


 ──死に戻ってから、忙しいながらも平穏に過ごしていたけれど、それもこれで終わりかもしれない……。


 私は覚悟を決めると、振り返って、会議室のテーブルに座るギルバートとエリーに視線を向けた。


「明日、私は、王国の会計関連法を変更するように勅令を出します」


 ギルバートは私の言葉に息を呑んだ。


「改正法の発布時期は、事前準備の期間を考慮して、二週間後を目途とします。そして、その改正法の施行は、私の即位祭の直後、……つまり、上級貴族達が王都に戻ってくる頃とします」


 私が「上級貴族」に言及したことにより、エリーも、勅令による改正法が大きく王国を揺るがすものだと察したようだ。不安そうな表情を浮かべるエリーに視線を向けつつ、私は話を続けた。


「法律の記載上の変更は軽微なものにするつもりです。しかし、そのたった数行の追加・変更によって、多くの既得権益を奪われる者達から、大きな反発を受けるのは間違いありません」


 私は二人に、私が考えている法律改正案の概要を伝えた。


 今後、予算の執行で金銭・物品の授受が行われた際には、領収書の発行を義務化すること。その領収書は当面3通発行し、1通目を相手、2通目を自らの控え、3通目を財務省に提出すること。財務省は、期末後一か月以内にそれらの領収書と予算と照合し、金額に差異がないことを国王に報告すること。


「もし、私が指示して作らせた改正法を遵守(じゅんしゅ)しなかった場合、もしくは、領収書を偽造した場合は、身分によらず懲役刑を課します。また、罪状によっては、死刑に処することもあり得ます」


 ギルバートは私を心配そうな目で見る。


「女王陛下、それは……」


「分かっています。これは、私と上級貴族・商人達との全面戦争になります。……もしかすると、私は殺されるかもしれません」


 エリーは目を大きく見開くと、口元を両手で押さえた。


「財務省に上級貴族を含む『犯罪者』の逮捕権を与えますが、おそらく簡単には逮捕させてくれないでしょう。ですから、『犯罪者』の逮捕の際には、国王の近衛部隊を同行させます。そのため、逮捕時には本当に血が流れるかもしれません。……ギルバート、それでも私に協力してくれますか?」


 ギルバートは無言で頭を下げた。


「はい。もちろんでございます。私は女王陛下の忠実な臣下なのですから」


 そして、すぐに顔を上げて微笑む。


「……それに、このローゼンハイム王国の危機的な状況を知ってなお、そこから逃げようとするのであれば、私は王国貴族失格です。父上や領民に合わせる顔がありません」


 ウェルズリー伯に良く似た、正義感(あふ)れるギルバートの笑みに、私は優しく微笑(ほほえ)んで「ありがとう」と感謝の言葉を返した。


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