メイ名を改める
朝日が差し目が覚める。
身体を起こし側に置いてある上着に手を伸ばし袖を通す。
目に入った掌を握り力加減を確かめる。
武神は言った。
「汝の年齢を60年程若返らせる」
と。
そして気を失った後、目を覚ましてみれば確かに身体は若返っている。
「ふむ、60年と言う事は今の年齢は21じゃの。」
にわかには信じがたかったが確かに若返った。
これなら身体は旅に耐えられるし、二十代前半ともなれば嫁探しも捗るだろう。
そう思いかつて老人だったメイは旅支度を始めたのだった。
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所々ほつれている鞄を背負い、腰には古びた刀を差す。
「相棒が最近手入れが出来なんだ刀一本とはのう。 刀は珍しい故、大きな街に行かねば売ってはいまい。 道中稼ぐしかあるまいの。」
「どっこいしょ」と腰を上げ、これまたほつれた草履を履く。
「なんともみずぼらしい姿じゃがどうにかなるじゃろ。」
そう言ってメイは廃村を後にしたのだった。
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歩く事半日。
山道を麓沿いに歩きそこで小川を見つけた。
メイは川に足を入れ素手で川魚を捕まえ、石を割り包丁にして捌く。
そして興した火で魚を炙り、いざ口にしようとした瞬間、遠くで魔物の雄叫びが聞こえた。
よく耳をすませば剣戟の音も聞こえる。
「なんじゃなんじゃ、騒がしい。」
メイは腰を上げそちらに向かう事にした。
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唸り声を上げ数十匹の猫型モンスターが2台の馬車を取り囲む。
馬車の前には護衛の冒険者が数人武器を構え、モンスターに相対している。
「ほう、猫型のモンスター。 数が多いの、ちと彼等では厄介じゃの。」
そんな台詞を吐きながらメイは雑木林の中から現れる。
それを見た冒険者がメイを見て叫ぶ。
「お前何やってんだ!! モンスターが居るんだぞ、早く逃げろ!!」
冒険者が叫び声を出した瞬間、一匹のモンスターがその冒険者に襲い掛かる。
「これはイカンの。」
メイはスッと歩いたかと思うと、冒険者に襲いかかったモンスターに一瞬で近付き、首を後ろから掴むと『ゴキッ』と音と共にモンスターの首の骨を砕いた。
一瞬で命を刈られたモンスターはメイの手の中でダラリとぶら下がり、メイはそれを無造作に放り投げた。
「若いの大丈夫かの?」
そう声を掛けられた冒険者は、何が起きたか分からないと言う顔でコクコクと何度も頷いた。
「しかし数が多いの、若いのお前さんの後ろに落ちている槍を借りても構わんかの?」
メイは尻もちをついている冒険者の後ろに落ちていた槍を片手で軽々持ち上げる。
その槍は大人二人がかりでやっと持ち上げる事が出来る豪槍。
尻もちをついている冒険者が力自慢の為に持っていた役立たずの武器であった。
その光景を他の冒険者達も呆気に取られた顔で見ている。
「ふむ、ちと重いがまぁよいか。」
メイはそう言うと、警戒し距離を取っているモンスターにスッと近付くと、槍を真横に一閃した。
すると何と槍の穂先に猫型モンスターの首が5つ乗っていた。
その光景を驚愕の表情で見つめていた女冒険者がハッと我に還り、
「え、援護します!!」
と魔術の詠唱を始めようとする。
それを見たメイは、
「お前さん魔術が使えるのか? なら水魔術を奴等の後方に撃ってくれんかの?」
「わ、判りました!!」
そうして完成した水魔術を猫型モンスターの後方にぶつけると、それを見て動揺したモンスターにメイは一気に肉薄し、槍を縦横無尽に振り回す。
無駄の無い動きで一匹、また一匹とその豪槍でモンスターを殺して行く。
「凄ぇ・・・、お、おい見ろ!!」
冒険者の1人があることに気付く。
「返り血が・・・全く付いて・・・ない?」
それあり得ない事だった。
メイはモンスターの行動埓外から攻撃をしていたが、周りを囲まれた際は、豪槍の真ん中辺りを持ち、細かい動きで槍の穂先を使い切り刻んでいた。
しかし、切られたモンスターの血が一拍置いて吹き出して来ており、吹き出した際にはメイは既に別の場所に移動していた。
その為、血風吹き荒ぶ戦いの場に於いてもメイは返り血一つ浴びて居なかった。
やがて、全てのモンスターを駆逐したメイは、
「やれやれ、ようやっと終わったの〜」
と、野良仕事を終えたかの様な軽い口調で槍の石突を地面に立て辺りを見廻す。
「ほれ返すぞい。」
豪槍を返された冒険者は恐る恐る声を掛ける。
「アンタ一体何者なんだ?」
「儂か? 儂は・・・」
(ふむ、メイの名は知っている貴族もまだおろう。なら・・・)
「ノブトモ・・・、ノブトモ・オタニじゃ」