恋人を捨てるのが早すぎる
彼女の行動には一切の迷いと妥協がない。
少しでも嫌だと思えば「NO」と突き返すし、勝負事から逃げるという思考も持ち合わせていない。
そして何より自分にとって必要がないと判断すれば、愛おしい恋人さえも簡単に切り捨ててしまえる人だ。
「相変わらずですね、木崎くんは」
彼女の手から離れた恋人を眺めながら、隣に座る真面目ぶった表情の女帝をうかがう。
「別に。あたしには必要ないと判断しただけなので」
「君の頭の中の辞書には“辛抱”とう言葉はないようで感心します」
美しい孔雀の人だったのに。ずり落ちた眼鏡を指先で上げながら呟けば、じろりと木崎くんが不機嫌に私を睨みつけた。
「というか御門先生は恋人を大事にしすぎじゃないですか。だからいつも取り返しがつかなくなるんですよ。気付くのが遅すぎて」
「あいたた……。こりゃ痛いところを突かれましたな」
大袈裟に脇腹を擦りながら自身の懐で綺麗に並ぶ愛おしい人を指先で撫でた。
「まぁ君の美点でもありますけれど。それでも切り捨てる前に最善の策を練った方が、」
「迷う時間が勿体ないです。あたしはあたしのルールがあるんで。恋人よりも私にとって益になる子を選ぶだけですから」
「……そうですよね。君はそういう強さがありますよね」
つんと鼻先を上向かせた木崎くんにため息を漏らす。普通は自分にとって益になるものなんてうまく引き寄せられないのに、どういったわけか彼女は非情な選択をしても神様に見放されないでいる。
「あ、また君は……」
「だから言ってるじゃないですか。──例えこのドラでもあたしにとっては必要のない牌だって」
場に出された索子の一索を指して、肩にかかった髪を払いながら堂々と言い切った木崎くんに苦笑いを向ける。
「まったく……君には“ドラは恋人のように扱え”ってのは通じないみたいだね」
「ドラも所詮他人なんで」
プロが聞いたら怒るぞ。言葉を紡ぐ前に彼女の勝利宣言が点数とともにかっさらっていった。