表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜姫の寵愛  作者: 知恵紅葉
44/44

再会

二人は屋敷内を並んで歩く。桃志郎は屋敷の部屋全てを把握しており丁寧に説明する。


一つ一つ見て回っていると、使用人や門下生達に出会う。


出会うたびに桃志郎は自分の妻だと紹介してくれた。使用人や門下生達は、それはそれは自分の事のように嬉しそうな顔をしてお祝いの言葉をのべる。


未桜は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに「未桜です。不束者ですが、これからよろしくお願いします」と頭を下げた。


涙が出ないよう必死に耐えた。


桃志郎が自分のことを皆に紹介してくれたことが嬉しかった。


桐花家では奴隷のように扱われ、町では悪女として忌み嫌われていた。


そんな未桜を桃志郎は一人の人間として、妻として大切にしてくれている。それがわかるから幸せで涙が出そうになる。


使用人や門下生達も未桜を桃志郎の妻として受け入れてくれている。


ああ、ほんの少ししか時は経っていないのに、もうここからどこにもいきたくなくなる。ずっとここにいたいと願う。


「大丈夫。ここには未桜さんを傷つける人は誰もいない」


桃志郎は俯いている未桜の頭を撫でようとして手を伸ばしたが、何を思ったのかその手を引っ込める。


「ありがとう」


今にも消えてしまいそうなほどか弱い声でお礼を言う。


未桜が顔を上げると桃志郎と目が絡み合う。


風で桜の花びらが二人の周りを囲むように舞う。


どちらも目を逸らすことなく同じことを考えていた。


「「ああ、美しい人だ」」




まだ屋敷の十分の一も案内し終えていないが、前から楓が近づいてくるのが見える。


「桃志郎様。奥様。お邪魔してしまい申し訳ありません」


二人の時間の邪魔をして申し訳なくなる。


「どうした」


何となく楓が来た理由を察する。


「準備が整いました。皆、待っております」


やっぱりか、と未桜との時間が終わり残念に思う。もう少し二人でいたかった。


「わかった。先に行ってくれ。すぐに向かう」


「はい。わかりました」


元々そのつもりだったが、もう少し二人でいたいのだろうと勘付く。


「(桃志郎様って結構わかりやすい方なんだな)」


桃志郎の緩んだ顔を見て嬉しくなる。


未桜は二人のやり取りを聞いて、「これから何かあるのかしら」と呑気に考えていた。


楓の姿が見えなくなると桃志郎に名を呼ばれ返事をする。


「今から会って欲しい人達がいる。会ってくれますか」


誰にあって欲しいのか、どんな人なのか、桃志郎は会って欲しいと頼んだのに、その人達の事を何も教えない。


何か事情があるのかと桃志郎を見ると顔がだんだん曇っていく。


よくわからないが、桃志郎が会わせたいと思う人達なら大丈夫だろうと「ええ、会いたいです」と返事する。


桃志郎は「ありがとう」と礼を言い「行きましょう」とその人達がいるところに向かう。


二人は目的の場所に着くまで何も言葉を交わさなかった。


美しい風景をただ目に焼き付けていたくて話さなかっただけ。


「(まるで、桜の雨ね)」


言葉を忘れてしまうほど美しいものだった。


未桜が無意識に立ち止まって眺めていると、桃志郎は何も言わず黙ってその光景を眺め続けた。




「未桜さん。私はここにいます。ここからは一人で」


角を曲がる前にそう言うと足を止める。


未桜は不思議に思うも、言われるがまま一人で曲がる。


角を曲がった先に懐かしい顔が見え、言葉を失う。


「み……んな……」


未桜の瞳からポロポロと涙が溢れ落ちる。


未桜は震える足で近づく。


「「お嬢様」」


未桜の周りに一斉に集まる。


昔、桐花家に仕えていた者達は未桜の顔を見るや否涙で顔がぐちゃぐちゃになるくらい泣き出す。


「よ……かっ……た。みん……な。あい……た……かった」


涙のせいで上手く話すことができない。それでも、必死に伝えようとする。


「もう……にど……と、あ……えない……とおも……ていた」


「「(お嬢様)」」


自分達もずっと会いたかったと言いたいのに何も言えず、ただ未桜の言葉を黙って聞く。




「お嬢様。これからの残りの人生全て捧げます。もう、二度お嬢様を一人には致しません。必ず私達がお守りします。どうか、もう一度私達をお嬢様の傍に置いてください」


未桜を一人残して町を離れたことをずっと悔やんでいた。未桜の願いだとしても残って守り続けるべきだったと。


何回か町に戻ろうとしたが、信近が張った結界でもう町に入ることができなかった。


未桜の傍を離れなければ、未桜が辛い目に遭うこともなかったかもしれない。


自分達の犯した過ちを許すことができず、残りの人生を全て捧げて守りたいと願いでる。


「お嬢様。どうかお願いします」


皆地面に頭がつくくらい下げる。


未桜が承諾するまでずっと「お願いします」と頭を下げ続ける。


「わかったわ。皆、もう頭を上げて」


本当は断るべきなのだろう。自分の傍にいれば信近達に嫌がらせされるかもしれない。


皆のことを思えば突き放すべきだった。


頭ではわかっていたができなかった。


「ありがとう、皆」


未桜は覚悟を決める。


今度こそ皆を守る。

次回更新は二週間後を予定しています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ