言い合い
「私以外誰が貴方に本当のことを言える?寧々、私は貴方が嫌いだからこんなことを言ってるんじゃないの。貴方は私とは違って才能もあるし、誰もが認めるくらい美しい。でもね、それだけでは当主にはなれないの。人の上に立つのはそんな簡単なことではないの」
首を横に振り今のままでは当主になれても誰も支持してくれないと。
「人の上に立つのならそれ相応の振る舞いってものがあるの。人を見下したりなんてしてはいけない。己の利益の為に人を利用してはいけない」
まだ、話を続けようとしたが寧々が遮るように叫ぶ。
「うるさい!うるさい!うるさい!今度はなに!この私に説教でもするつもり!」
「違うわ。説教じゃなくて…」
これは人の上に立つ人間としての在り方の問題だと話しを続けようとするが、未桜の頭に何かがぶつかり言うことができなかった。
頭にぶつかったのは何か確認すると湯飲みだった。
寧々が投げたのだろう。
湯飲みの中にまだお茶が残っていたのか顔が濡れ着物にポタポタと落ちていく。
「説教ではないと言うなら一体どういうつもりよ!そもそも、何で私が下民達のことを考えないといけないのよ!私は生まれてくる前から人の上に立つことが決まっていたのよ!権力も地位も全てが私のものなのよ!そんな私がどうしてそんなことを考えないといけないのよ!」
この家にくる前の間惨めな想いをしていたことを思い出し怒りをぶつける。
寧々がそうなったのは信近と末姫の勝手な行動のせいなのに、全て未桜のせいだと逆恨みしていた。
本来なら、未桜が三人を恨む側なのに身勝手な思い違いもいいとこだった。
「寧々。貴方何か勘違いしているわ。人の上に立つといことは自分を信じてくれた人達の為にその身を捧げないといけないのよ」
舞桜や歴代当主達がそうしてきたように、当主となるつもりなら寧々自身もそうしないといけないと誰よりも理解している。
「四百年前からずっと桐花家はこの町を中心にいろんな所を守っているわ。その代価として桐花家はこの地位を築けた。もし、貴方が今までの当主がやってきたことを放棄すれば町の人達だけでなく、陰陽連からの信用もなくなるのよ。それがなくなったらどうなると思っているの。寧々、貴方はどうするつもりなの」
少し前から信近が当主でいいのだろうかという話が陰陽連から声が上がってきているが、桐花家はそのことを誰も知らない。
未桜は信近が当主になったときから、いつかそんな日がくるだろとは思っていたがまだもう少し先だろと思っていた。
まさか、自分の嫌な予感がこうも早く当たるとはこの時は思ってもみなかった。
桐花家が壊滅させられるとは、このときは誰一人予想できていなかった。
「別にどうもしないわ。そもそも、そんなことにはならないわ。わたしが当主になればこの町はもっと良くなるの。貴方ではなく私がそうするの」
例え町の人達からの支持がなくなろうと大したことではない。
自分は特別な選ばれた人間なのだからと一切聞く耳を持たない。
「なるよ。このままなら全て失うよ」
小さな声だったが寧々の耳にはしっかり聞こえていた。
「はぁ?何言ってるのよ。そんなことあるわけないでしょう」
ハッと鼻で馬鹿にしたように笑う。
桐花家は日本最古の陰陽家の一つで最強の一角を担う家。たかが、町の人達の信頼がなくなったからといって全てを失うわけではない。
寧々はそう思っている。いや、そう信じている。
「寧々。人にしたことはどんなことであろうと必ず自分に返ってくるのよ。貴方が下に見ている人達だって馬鹿じゃない。遅かれ早かれ貴方たちがしたことに気づくはずよ」
だから、舞桜が生きていた頃この町に住んでいた人達のほとんどはここから出て行った。
今この町に住んでいる人達も真実を知ったら全員手の平を返してここから出て行くだろう。
「今ならまだ間に合うはずよ。もう、これ以上人を傷つけるのはやめなさい。その力を人の為に使いなさい」
末姫は幽霊でも見たかのように目を開く。
ヒュッと自分の喉から音がした。鼓動が早くなる。体が震える。
一瞬未桜が舞桜に見えた。
偉大な当主だった桐花舞桜。
自分の欲の為に殺した女のことを。
忘れていたあの頃のドス黒い感情を思い出す。
「寧々、このままだと誰も傍にいなくなるわ。誰にも愛されず死ぬことになるわ」
信近と末姫が寧々に抱いている感情は愛でないと薄々未桜は気づいていた。
だから、このままだと本当にそうなってしまうと思ってそう言った。
寧々は小刻みに震え顔を真っ赤にして怒りを露わにする。
なんて声をかけるか悩んでいると、パチンと大きな音がした。
少しして自分の頬に痛みがはしり、打たれたのだと気づく。
「私は何か間違ったことを言いましたか」
未桜は自分の頬を打った末姫の方へ向き問う。
末姫は本当にこの娘は未桜なのかと疑う。未桜のむける眼差しが舞桜そっくりで、ここに舞桜がいるのではと思い、頭がおかしくなりそうだった。
今まで一度も未桜と舞桜が似ていると思ったことはないのに、何故か今は目の前にいるのが舞桜だと錯覚してしまうくらい同じだった。
未桜を罵ろうと声を出さそうとしたが、未桜と目があった瞬間何も言えなくなる。
「末姫さん。私は貴方を一生許すことはできません。私は貴方が何故あんなことをしたのかわかりませんが、その罪はいつか必ず償わなければいけません」
末姫の顔が強張る。
ーーこの娘は一体どこまで知っているのか。
信近でさえ末姫のしたことの全てを知っているわけではない。
まさか、自分の本当の目的に気づいているのかと恐くなる。
寧々は一体何のことを言っているのかわからない。
母親の罪とは何か尋ねようと末姫を見ると体がガタガタと震え顔は青白く、何かに怯えていた。
開いていた口を閉じ聞くのをやめる。
聞いたらいけない気がした。それを聞けば自分の中にある何かが壊れるような恐ろしさを感じた。
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