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青春怪異奇譚  作者: 諸星影
序章(プロローグ)
1/18

第零話  『異変』

公開予定の五作品の内の第二作目です。

コンセプトとしては『青春』×『怪異』のローファンタジーとなります。

『――――この世界には僕の知らないことが沢山ある』


 そう、それは今生きているこの時にも確かにそして身近に存在している。

 とはいえ、それは見えなければなんということはないものなのかもしれない。

 だがしかし一度でもその存在を見て、知って、感じてしまえば、もう後戻りは

 できない。


 見えなければ、気が付かなければ、知りもしなかった存在が最初からそこには

 いた。これは僕が『怪異』と出会い、そして僕という存在を知る物語だ。



     ◇



 突然だが僕には秘密がある。

 とはいえそれは思春期特有の恋の悩みでもなければ、学業や身体的な特徴に

 関する悩みでもない。


 僕はいつもと変わらぬ通学路にて横断歩道の信号待ちを利用し、近くにある

 店舗のショーウインドウを覗き見る。だがそれはウインドウ内の商品を

 見たかったからではない。その手前、厳密にはウインドウに反射して映る

 風景を眺めていた。


 本来であればそこには街の風景や通行人などが無造作に映し出されるもの

 だが、しかしそこに映る風景には致命的な欠点があった。


 ――――そう、そこに僕の姿は映っていなかったのだ。


「はぁ、今日もダメか」


 僕はそれを確認すると誰に言うでもなく一人呟き、青に変わった横断歩道を

 渡り始める。


 いつからこうなってしまったのだろうか。少なくとも昔からこういう体質

 だったわけではない。だが気が付くと僕の姿は鏡などの反射する性質を持つ

 物質に映らなくなっていた。


 原因は不明。

 しかし問題はそこではない。


 僕がこの体質になってから僕は『視える』ようになってしまったのだ。


 というのも幽霊が視えるとかそういうのではなく、もっとこう、黒いモヤ

 という感じのものが街のあちこちに視えるのだ。こういうのを霊感だとか、

 第六感とかいうのかは定かではないが、僕はそういうオカルトじみたものを

 今まで信じたことはなかった。


 しかしそう考えている今も、電柱の隅や民家の屋根上など様々な場所に

 大小濃薄様々なモヤが見て取れる。実害はないにしろ、人とは違うものが

 視える感覚というのはあまり気持ちの良いものではない。


 なので当然のことながら、自分でも可能な範囲でネットや本などを読み漁り

 情報を集めたり、果ては近くの神社でお祓いもしてみたのだがどれも効果は

 なく結果それらは全て徒労に終わっていた。


 加えて誰かに相談しようにも話が突飛すぎて信じてもらえそうにもない。


 一度、鏡を前に説明するという手段も試そうかと思ったが、どうやら僕以外の

 人には鏡に映った僕自身を正しく認識できているらしいくそれも不可能だった。


 なので散髪などの時も特に問題はなく、これまで普通に生きていけている

 という訳で、それがまた僕を混乱させ、危機感の欠如にも繋がっている。


「全く散々だな」


 とはいえ母子家庭である僕的には唯一の肉親である母にこれ以上の苦労は

 掛けたくないこともあり学校にだけはちゃんと通うようにはしているのだ。



 そうして学校に到着してしばらく。

 教室に入るや否や友人である、滝谷が僕の机までやってくる。


「よー宗、おはよー」

「おはよう、滝谷」

「なあなあ、聞いてくれよ。俺昨日、スゲェの見ちゃった」

「なんだよ」


 滝谷は俺の隣の席を占領すると徐に携帯を取り出し、その画面をこちらに

 向けてくる。それはどこかのトンネルのような場所の写真だった。


「なんだよこれ?」

「県境のトンネル」

「はー、また肝試しかよ、懲りないなお前も」

「いいだろ別に。それよりもここ、ここ見て」


 そういうと滝谷は写真の隅を指さす。


「なんか白いな」

「これ、絶対オーブだよな」

「ああ、なんか人の魂とかなんとかってやつか」

「そうそう」

「それで?」

「それでって、スゲェだろ? 心霊写真だぜ?」

「大したことないな」

「えーマジかよ。反応薄ッ!」

「そりゃそうだろ。心霊写真ならせめて幽霊くらいは映してくれないとな」

「まぁ、そりゃあそうか。あーあ、折角ブログにも上げたっていうのに、

 これじゃあ閲覧数は伸びそうにないな」

「あー、そういやまだブログやってたんだな」

「ああ、ほらこの通り」


 すると滝谷は携帯を操作し自身の運営する心霊ブログの画面を開ける。

 とそこには律儀にも今見せた写真がしっかりと掲載されていた。


「へぇー意外にも閲覧数増えてきてるんだな」

「だろ? もう立派なブロガーだぜ」


 滝谷は普段から流行やゴシップというのが好きなやつで、それが功を

 そうしたのか今では地元の各所を回ってはその情報をブログにすることを

 趣味にしているらしい。


「でもやっぱり俺的には夜の徘徊はあまりお勧めしないな」

「なんだ心配してるのか?」

「まぁな」


 なんてたって夜はあの黒いモヤが多いからな。

 今のところ実害らしき話は聞かないが、それでも友人にはできるだけ

 危ないことはしてほしくない。


「あ、そうそう、もう一つとっておきの話があるんだけど」

「また心霊か?」

「いやそういうのじゃないんだ」


 すると滝谷は再び写真フォルダから一枚の写真を画面に映し出す。

 そこには僕も見覚えのあるコンビニの写真が表示されていた。


「学校近くのコンビニか?」

「そうそう。でここ見て」


 そういうと滝谷は携帯の画面を親指と人差し指でスワイプし写真を拡大する。


「暗くてよく見えないな、誰これ?」

「高梨さん」

「え?」

「だから高梨さんだってば」


 僕はその名前を聞き、咄嗟に視線を上げ、教室の対角線上に位置する席へと

 視線を向ける。そこには多くの女子生徒に囲まれる才色兼備、文武両道の

 美少女、高梨藍華がいた。


「待って嘘だろ?」

「マジマジ、だってほら証拠もあるし」

「えー、でもこの写真だけじゃな」


 すると滝谷は再度視線を周囲にチラリと向けると腰を落とし俺の耳元に

 顔を近づける。


「これはあくまで噂なんだけどな、高梨さんを夜に見かけたって奴は結構

 多いんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。だけど本人は否定してるし、誰も夜の彼女と直説話したわけでは

 ないから定かではないんだけど、一部では援交とかなんかヤバいバイトでも

 してるんじゃないかって」

「いやナイナイナイ。あの高梨さんだぜ?」

「ああ、俺もこの間まで根も葉もない噂話だと思って聞き流してたんだけどな、

 だが実際会ってみるとどう見ても高梨さんっぽいんだよ」

「だけどこれだけ暗いんだから本当に本人かは判らないわけだろ」

「そうなんだよ。だからドッペルゲンガーじゃないかって。それか生き別れの

 姉妹とか」

「ははっ、なんだよそれ。そっちの方が信憑性薄いって」

「なんだよ、宗ってオカルトとか信じないタイプかよ」

「そうだな。僕は幽霊とか宇宙人とかはあんまり信じないかな」

「もしかしてお前、怖がりか? お化け屋敷とか苦手なタイプだろ」

「別にそうでもないけど」


 なんて話しているとタイミングよく予冷のチャイムが鳴り響く。

 その音に滝谷が次の授業のことを思い出し席を立つ。


「おっと、次移動教室だったな。急がねぇと」

「だな」


 そう言って席を立つ瞬間、僕は徐にチラリと高梨さんに視線を向ける。

 するとほんの一瞬、同じく席を立ち移動しようとする高梨さんと目が合った

 ような気がした。


「――――?」

「どうしたんだよ、宗」


「え、いや」


 滝谷に声を掛けられてから再度高梨さんの方を見るも、彼女は既に友達と

 教室を移動したらしくもう席にはいなかった。


「ほら早く行くぞ、遅れちまうよ」

「あ、ああ」


 そうして僕もまた滝谷と一緒に教室を後にした。



 それからしばらくして授業も終わり自宅に帰宅した僕は、リビングにある

 ソファへとカバンを放り投げ腰を深々と落とす。


「ただいま。ふぅ、疲れたー」


 ソファに腰を落とすと同時にポケットの中にしまった携帯のバイブが

 ブルブルと震える。携帯を取り出し画面を開くと一件のメッセージが

 表示される。それは母からの連絡で、今晩は遅くなるとのことだった。


「はぁ、今日もか」


 僕はソファの上で横になると携帯を置き目を瞑る。

 現在僕は現在母と二人暮らしであり、毎日遅くまで仕事に出ている

 母に変わり家事全般を担っている。


 だがこの連絡がある時は、母はご飯がいらないということらしく、決まって

 晩飯を作る必要がなくなる。そうなれば自分一人のために食事を準備

 するのもバカらしくなるので、こういう日はいつも決まってコンビニで済ませる

 ようにしているのだ。


「ふぁ~」

「ちょっとだけ…………」


 そう思うと急にやる気は削がれ、同時に眠気に襲われる。

 そして――――数分もしないうちに僕は眠りに落ちるのだった。

ご閲読ありがとうございました。

これからも不定期ではありますがローファンタジーを中心に小説を投稿して

いきますので、応援よろしくお願いいたします。

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