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前向き悪役令嬢は今日も我が道を行く~百人が振り返る美女になるより百人を論破する知識がほしいです~  作者: 桜祈理


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10 黒幕の正体

「さて、グレイス嬢」


 いつの間にかこの断罪劇の進行役になっているカーティス殿下の如才ない視線が、私に向けられた。


「レベッカ嬢のネックレスだが、何故たかが子爵令嬢がそんなものを持っているのか、あなたの見解を聞かせてもらえないかな?」

「はい」


 話の途中で魔導具の可能性があるとわかったネックレスは、とうにレベッカ様の首元から外されてカーティス殿下が手にしていた。


「先程もお話しした通り、レベッカ様にはローダムなまりがあるので出身はローダムだと思われます。ローダムと言えばそちらにいらっしゃるエルドレッド様もローダムの方。そしてお2人の編入の時期が近いことを考えると、お2人には何らかの関係があるのではないかと思いました」

「可能性はあるだろうな。それで?」

「エルドレッド様は遺跡研究所の研究員でもあるそうですが、10年ほど前に発見されたローダムの遺跡が古代文明の遺跡であることは周知の通りです。これは仮定の話に過ぎないのですが、もしもその遺跡から古代文明の魔導具が発掘されていたとしたら、と考えました。発掘された魔導具を、レベッカ様が使用しているのではと」

「そんなわけないだろう? 発掘された貴重な遺物を勝手に持ち出して使うなど」


 遺跡に話が及んだせいか、それまで不気味な笑顔を湛えて沈黙を貫いていたエルドレッド様が不愉快そうに口を挟んだ。


「ですから仮定の話、と申し上げました。もし仮に、レベッカ様のネックレスが遺跡から発掘された遺物だったとして、なぜレベッカ様はそれを手にすることができたのでしょう? ローダムの遺跡研究は国家レベルの大事業のはずです。研究所まで建てて遺跡や遺物を厳重に管理しているのですから、その辺の普通の令嬢が勝手に持ち出すなんてことは恐らく不可能。ということは『勝手に』持ち出したのではなく、ローダム公国が持ち出しを許可した」

「それこそあり得ない話だ。何故ローダムがそんなことを許可する必要がある?」

「『魅了』するためです。ラングリッジの王子を魅了して意のままに操り、毒の入った紅茶を飲ませて帝国の皇太子を害し、それを契機として最終的にはラングリッジと帝国との間に戦争を引き起こすためです」



 「戦争」という言葉のインパクトが、否応なしにエルドレッド様へと襲いかかる。


 カーティス殿下や陛下、王妃様はエルドレッド様の一挙一動を見逃すまいと、静かに、だけど厳しい目で見据えている。



「せ、戦争など、そんな馬鹿げたこと……」

「そうです。私だってローダムの目的が戦争だなんて、思いもしませんでした。というか、何が目的なのか、実はずっとわからなかったんです。レベッカ様がネックレスを使ってジェイコブ殿下を魅了したあと、何をしようとしているのか。何故同じ時期にエルドレッド様が編入して来たのか。ローダム公国は何を画策しているのか。そして、ローダムの遺跡研究所が本当に研究していたのは、何なのか」

「遺跡じゃないのか?」



 答えを知っているはずのカーティス殿下が、意地の悪そうな目をして不敵に笑う。


 私に早く答えを言わせたいと思っているのは明白だった。



「遺跡、もはじめは研究対象ではあったと思います。でも次第に、研究の中心は遺跡そのものではなくなっていったのでしょう。遺跡発掘の過程の中でもしも本当に魔導具が見つかっていたのなら、最も優先的に研究されたのは、恐らく魔法です」

「そ、そんなわけないだろう? 魔法なんてこの世界にはない、すでに失われたものだとあなたも先程……」

「そうです。だからその失われた古代の秘術を、『技術力の国』ローダムが率先して研究していたとしても、おかしくはないでしょう? 偶然にでも魔導具が発見されたとしたら、技術力で名高いローダムがそれに興味を抱かないはずがありませんもの。表向きは遺跡を研究しているように見せかけて、実際には失われた古代の魔法を復活させようとしていた、もしくは魔法そのものの復活が無理でも、発掘された魔導具を足がかりとして何らかの魔法が付与された魔導具を開発しようとしていた」


 さっきまで余裕ぶっていたエルドレッド様の顔色が、どんどん血の気が引いて青白くなっていく。


「でも、仮にそうだったとして、ローダムの思惑がやっぱりわからなかったんです。だからジェイコブ殿下とレベッカ様に距離を置くよう注意するくらいの消極的な防御策しか取ることができなかった。でも、昨日とうとう、事件が起こりました。ライアン殿下の紅茶に毒が盛られ、もしも本当にライアン殿下が毒殺されていたらどうなっていただろうと考えたとき、最終的に行き着いた答えが戦争でした」

「しかし解せんな。ローダム公国がラングリッジ王国と帝国との戦争を引き起こそうと画策したとして、その目的は何なんだ?」



 陛下が思案顔で首を傾げる。



「そうですね。ではここから先は、私が説明します」



 カーティス殿下が、よくやったと言わんばかりの表情で私に目配せをした。




 私が説明できるのはここまで。

 戦争の可能性までは気づいたけれど、ローダムの最終的な目的は何なのか、この事件の黒幕は一体何を企んでいるのか、ということはどうしてもわからなかった。



 私一人では、パズルの最後のピースを埋めることはできなかったのだ。



 だから昨日、アシュレイ様の勧めもあってカーティス殿下に全部お話ししてみたら、王室でも調査をすると快く引き受けてくださった。



「昨日、グレイス嬢からここまでの話を聞いたときにもかなり驚いたのですがね。でも突拍子もない話だと一笑に付すことはできないほど、この仮説は筋が通っている。だから調べてみる価値はあるだろうと思ったのです。グレイス嬢が『ローダムの2人が編入してきた時期に鍵があるのでは』と言うので、ここ1~2年の間にローダムとラングリッジとの間に何か特別なことはなかったか、気になる点はないかを精査したのですよ。そしたら、2年前にローダムとラングリッジとの境界、正確にはラングリッジ領なのですが、そこに何かの鉱脈が発見されたので採掘の許可がほしいというローダムからの申請書が見つかりまして」

「申請書? 何の鉱脈だ?」

「それがはっきり書かれていなくて。書類に不備が多い上に、それを指摘して回答を求めたら申請自体が取り消されましてね。なんだか有耶無耶になってしまっていたのです」


 カーティス殿下はその申請書を陛下に手渡した。


 陛下はそれを一瞥し、カーティス殿下に続きを促す。


「それで、昨夜のうちにこの場所に直接行ってみたのですよ。そしたらまあ、あっさりとね、捕まえることができたんです」



 ちょっと呆れたような顔をしたカーティス殿下の合図で、3人の労働者風の男たちが近衛兵に引きずられるようにして謁見室に入ってきた。



「まさかこんなに早くバレると思ってなかったのか、夜中だから大丈夫だと油断したのか、隠れる様子もなく堂々と採掘しようとしていたものでね。捕まえてちょっと縛り上げたら簡単に白状しました。なんでもその鉱脈で発見されたのは未知の鉱物で、ローダムの魔導具研究に必要不可欠な代物なんだそうで」


 いつもは嫌味なくらい澄ました顔のエルドレッド様が、動揺のせいかわなわなと震えている。



「つまり、ローダム公国は長年遺跡の研究ではなく魔法や魔導の研究をしていて、魔道具の開発に必要な未知の鉱物を発見したんでそれを独り占めするために我がラングリッジ王国と帝国との間に戦争を引き起こして争わせ、漁夫の利を狙ったというわけです。そのための火種として、ライアン殿下の命を狙ったと」

「ま、待て、そんな、ろ、ローダムが仮に魔法の研究をしていたとして、そのこととライアン殿下の暗殺未遂は関連があると言えるのか? だいたい、ライアン殿下を毒殺しようとして使われたサエアの実なんて、私はもちろんローダムだって与り知らぬことだろう」

「それについては、僕が説明しますよ」


 私の隣にいたアシュレイ様が眼鏡の真ん中を押し上げながら、これでもかというほどにこやかな笑顔を貼りつけてエルドレッド様に対峙する。



「サエアの自生地というのは実はディアハイル公爵領にあるんですが、猛毒植物なので国によって厳重に管理されているんです」

「な、なら……!」

「それでね、昨日のうちにその管理地と周辺を調査してもらったんですよ。そしたら半年ほど前に、あまり見かけない派手な女性が出入りしていたという証言があって」

「は?」

「管理地には警備の者をしっかりと配置してるんですが、彼らがその派手な女性と仲良くなって、自生地を見たいとねだる女性を勝手に中に入れたと。彼らにそのときのことを確認したら、どうやらそれがあのネックレスをしたレベッカ様だということが判明したんです」



 王家の仕事の早さにもびっくりだけど、公爵家も負けてはいない。



 アシュレイ様は先日の意趣返しができて満足したのか、一点の曇りもない晴れやかな顔を見せている。


「というわけで、もう悪あがきは無駄だと思いますよ? エルドレッド・ジンデル殿。いえ、アドレグ・エルド・ローダム大公子殿と呼んだ方が正しいですか?」



 唐突に正体を言い当てられたエルドレッド様は天を仰いで嘆息し、そして呆然と立ち尽くした。



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