26ページ,扉の前の決戦
ただただ愚直に進み続ける。だが、そんな単純な人間ロケットでも、音速に近い速度がでている。
ちょっとした距離でも、通常の動体視力では通用しない。エーテルで眼を補強して、世界がスローモーションのように遅くさせる。
(ここまでは計算通り……お願い……───!)
突然、レーザーの軌道が狂う。これは、ナイの計算ではなかったことだ。
(そうか……! 劣化か……!)
レーザーが発生している部分を見ると、そこは錆だらけになっていた。誰も来なかったからか、手入れもなにもしていないだのろう。
(たったちょっとの誤差だ……だけど、その誤差でケーラさんの体は……! お願い……!)
そして奇しくも、ナイの考えた通り、一つのレーザーがケーラのほうへ突き進んでしまう。
そして、その存在をケーラも知っていた。
(ちょっとは大人しくできないのかな?)
ケーラは体を捻り、少しでもと運動エネルギーを加える。
(でも、それだけじゃあ、レーザーを避けられない!)
ナイとカーラの二人が手に汗握る。
しかし、ケーラの手には魔剣が握られていた。
『───どんな魔剣でも作れる。どんな聖法でも分かる。この二つを組み上げればケーラは最強になれる』
『つまり?』
『相手のセレマを吸収する魔剣だ』
───周りのレーザーが、ケーラの剣によって切られていく……否、吸収されていく。
「そうか……! レーザーも全てセレマでできているから……!」
「この土壇場で……解析するの……?」
吸収されたセレマがケーラの体に染み渡る。だが、それは感覚的な物であり、理解しているのではない。それはケーラ自身が解析しないといけない。
「嫌な肩書だけど……勇者っていうのは聖法のスペシャリストなんだよ」
レーザーで構成されるセレマが、ケーラの体へと流れていく。
「うん……」
体の中で構築していくセレマに相反するセレマが、ケーラの中で構築されていく。
「これだ」
ケーラの目が輝き、その剣にセレマが宿る。それは、今まさに向かってくるレーザーに対して有効打の一撃。
「───玄海零細流刀剣術、〈弐〉《弓打撲滅》」
飛び道具を扱うときに最適なその型と共に、ケーラはレーザーを断ち切る。
そして生まれたエネルギーで推進力を上げ、レーザーが届かない向こう側へと辿り着く。
「よっし!」
思わずガッツポーズをするケーラに釣られ、向こう側へといる二人も喜ぶ。
「「やった!」」
ケーラはすぐに立ち上がり、レーザーの停止ボタンを押す。
するとゴゴゴと音を鳴らし、あれほどに密だったレーザーの群れは消失する。
「やりましたね! ケーラさん!」
「長かったですね」
「うん……でも、ここからだ」
目の前に広がる大きな扉へと手を伸ばし、教会の闇の部分へと触れる───……
触れる……扉はびくとも動かない。
取っ手のような部分を見つけた。
もう一度息を吸い───目の前に広がる大きな扉へと手を伸ばし、教会の闇の部分へと触れる───……
触れる……扉はびくとも動かない。
「……?」
ガタッガタッと扉を何度も動かすが、もちろん扉は硬い岩のようにビクとも動かない。
爽やかな笑顔を見せていたケーラの顔がどんどんと青ざめ、冷や汗がだらだらとでてくる。
「……開かない」
最早二人も呆れたような目でケーラを見ていた。
「……まあ、こういうことも想定していました。だから今までずっと術式を組んでたんです」
「「え?」」
刹那。ナイの周りには神々しく衣装のように術式が絡んでいた。その術式一つ一つが他の術式と複雑にくっつき干渉しあっている。
「先程私が目覚めたときから組み始めてたんですが……やっぱりかなり時間がかかりましたね」
「ナイさんが目覚めたときって……ドットルーマとの戦いのとき⁉ いくらなんでも先読みしすぎだよ」
「パルさんはこれを即座に創ってしまうんですから……私はまだまだですよ」
そう告げ、扉に手をかざす。
「『絶対解除鍵』」
術式がナイの掌へと何重にも重なって錠のようになる。
そこに青白い鍵がどこからともなく出現し、ゆっくりと術式へと吸い込まれるように入っていく。
ガチャガチャと音を鳴らし、全て入り切ったところで鍵が回転し、ゆっくりと扉が開かれる。
「「すご……」」
重い岩が動くかのようにゴゴゴとゆっくりと開かれる。
だが、その先には期待とはまた違ったものが待っていた。
───ボロ屋。そう表現するのが適切だろう。埃まみれになった部屋が三人を不快と失望の顔にしていく。
「なんですか……これ……」
「この汚れ具合……最後にここに人が訪れたのは随分前のように感じるね」
(おかしい……私の予想通りでは、ここにあるのは数多の悪行が記された資料。それは、今日まで行っているはず。それに、こんなにも厳重の警備だったはずなのに、あまりにもこれは腑に落ちない)
顎に手を置き、思案するナイ。
そして、ふと目に入った散策をする二人の背中に───怪しげに光る術式が。
ハッとするその声は、反射的に出された。
「カーラちゃん、ケーラさん! これは罠です! 逃げて!!」
「「え?」」
次の瞬間、ナイが結界を張り、そこに炎の螺旋が飛び込まれる。
「っち、勘が良いやつらは嫌いだよ」
「貴方は……司教」
そのセレマを放った人物は、この教会の司教。その顔は苛立ちと憎悪がざわざわと現れている。
「こそこそと……ドットルーマの気配が消えたために念のため、とこちらへ来たが……勇者様がこんなところになんの用で?」
「貴方が動くほどにここは重要な場、ということですか」
「……」
司教は黙示を貫く。だが、それはほぼ肯定といって差し控えないようだった。
「ケーラさんは少し休んでおいてください。ここは私がします」
「でも……」
先程のようなことがあり、ケーラは心配したようにナイを見つめる。
「まあ、見ててください。先程は術式を組もうとそちらに集中してましたが……仮にもパルさんと戦えた身です。こんな人間、片手で済ませますよ」
「はは……確かにね」
「さて……虚言もそこまででいいかね?」
沈黙を自らで破った司教は、不快そうな目で三人を見つめる。
「ごめんなさいね、待たせちゃって。だから……先手はそちらからでどうぞ」
「ほざけ!」
両手を前に突き出し、その掌には陣を展開させる。
そしてそこから飛び出るは、光。
「『魔相殺螺旋弾!!!!』」
螺旋が織りなす魔を滅することだけをつめたその聖法は、ナイへと迫る。
「甘い───『魔滅砲塔陣白光弾』」
腕を組むナイの目の前に現れるは、砲塔。そしてそこから放たれる煌びやかな光は、全てを包み込まんとするほどのうねりを上げて真正面から受けた。
もちろん司教が放ったセレマは、ナイのセレマによって一瞬にして無くなり、司教の目の前で霧散する。
「……へ?」
そんな非常識のことを目のあたりにした司教はそんな言葉を漏らした。