25ページ,地下突破
「ここに何か秘密があるんだよね。パルの情報によると」
「そうですね。あの人の情報によると」
少し休憩したのちに、三人は扉の前まで来ていた。何か秘密が隠されている───その事実が三人の中に緊張が生まれる。
ケーラが一歩前に出てドアノブへと手をかける。
扉を引くと、真っ白な光がケーラたちを襲う。
「「「───ッ⁉」」」
手で光を防ぎ、光が押さえてきたのを感じると、三人はドアの向こう側へと目をやる。
「「「え?」」」
同時に声がでる。それもそのはず……
目の前に広がる景色はどこまでも果てしない真っ白な空間だったからだ。
「「「ええええええええ⁉」」」
目ん玉が飛び出す三人、それもそのはず。この教会は大きいが、この空間ができるほどの大きさなどない。
最奥が見えず、ずっと先まで続くそれは、白く眩い光が吹いている。
「なんなんだここ……」
「これが、聖教が隠している秘密……?」
「いや……」
ナイが真横を見る。そこには、目の前の絶景に隠されたようにガラスが敷かれている。
そちらの方へ歩いていくと、ガラスの向こうには教会を見渡す形の景色となっていた。
その上から見た教会は狼のようななんとも芸術的な建物となっていた。
「へー、こんなになってたんだ。教会って……」
「地図だけじゃあわかりにくいですからね」
「でも、だからって何が……」
ここに来た意味が無い、そうケーラが言おうと思ったとき、ナイの胸元にあるロザリオがガラスを伝った日光を輝かせる。
そのロザリオは、前も綴った通り、十字架ではなく、聖教のシンボルが飾られてる───神獣として崇められている、フェンリルの姿が。
「───あ」
その瞬間、ケーラが気づく。続いて、ナイも。
「……地図、見ますか?」
「ああ、そうするよ?」
「え? え?」
唯一その場を理解していないカーラがナイとケーラのことを交互見る。首を振っては頭に?を浮かべ、何も教えてくれない二人に少し嫌な顔をした。
が、それを教えられる余裕もない二人は黙々と地図を眺める。
「……やっぱり」
聖教のシンボルなど、ここに来るまでに腐るほど見ている。
だけど、真上の教会をみた時になんら違和感を感じなかったのは、その形の普通さである。
ここの聖教のシンボルであるフェンリルには、通常存在しない角がある。
この理由は、聖書に書かれているのだが『我らが主は、この世界を創造するときに、数多の神と共に神獣を作った~~~~幾年の月日が経ち、我らが窮地に立たされたとき、再び全ての角を持つ神獣は我らを救うだろう』のとおり、神獣は角を持っていると考えられているからだ。
閑話休題。
真上の教会を見た姿は、ただの狼である。しかし、ところどころ狼と言ったら違和感を感じる姿である。
逆立った毛。鋭い歯。些細なものであるが、これを狼と呼ぶには些か疑問である。それに───凄く似ているのだ、聖教のシンボルに。
逆に、無い箇所はどこかと言われたら、角だ。
「……聞きました。神獣には、神聖な角が必ず生えているのだと。それほどに角は大事なものだと」
状況を理解したカーラが更なる情報を口にする。
「そうだね───だから、こんなにも不自然な地下があったのか」
三人の目の前にあるアクリル板のようなセレマで作られた階層ごとの地図。
三階まで存在し、地下には倉庫、と書かれた不思議な三角の部屋がある。
「だけど、これはただの部屋じゃない───これを作るために、できた部屋だ」
階層ごとに書かれた地図が、一斉となって集まる。
普通の教会として建てられている建物が、一つの物となって集まる。そして、地下にある謎の三角部屋は狼の角として……嵌る。
「……フェンリル」
「やっぱり……地下に行くよ。二人とも」
「「了解しました」」
***
───数刻後、教会地下、ケーラ───
「なんか……誰もここに居ないって怖いね……」
「そうですね。だって罠張りまくりですもん」
「「え?」」
「あ、見てみます?」
そういうとナイは二人に”眼”の共有を行う。
ちなみにナイは楽々とこの操作を行っているが、超絶難しい業である。眼の共有というのは相手の脳を一時的に、部分的とはいえ、支配するということだ。
超高度技術が要することを、二人は知る由もないが、ナイは元神。
人に崇められる存在なのだ。
無論、そのような存在が人外に勝てるはずはないが……
閑話休題、二人が映し出した視界の先には、無数のレーザーが貼られていた。
さながらバ〇オハザード……
「うわあ……なにこれ」
あまりのレーザーの量に、これを突破できるのかという絶望と、もはや呆れのような声が喉から溜息のように吐かれる。
「これ、どうやって行く気?」
「そうですねえ……力づくでいっても轟音が響くので上にバレるのは確実ですね」
「ここにきて詰みはないよ……」
「まあ、やろうと思えばいけますけど」
ケロッと告げるナイにケーラは訝し気に彼女を見る。
「……方法次第ですけど」
「それが可能なんだったら、どれだけ難しくても僕はやるよ。だって勇者だから」
「そうですか……」
なら、とナイはこの後に起こることを説明する。
「……だいぶクレイジーだね」
若干引き気味のケーラに、ナイは笑顔で答える。
「じゃあ、早速実行しましょうか!」
……レーザーは絶えず動いている。だから、ゆっくりと一つずつ進むのは無理な話だ。
「───だけど、規則的に動いている」
セッティングするナイは怪しげな目でニヤッと笑う。
「ナ、ナイさん……?」
カーラがそんなナイを心配そうに見つめるが、ふふふと笑うナイを無視しておくことにした。
「てかさ……事前に聞いたけど、これってあんまりじゃない?」
「許可したケーラさんに文句を言われる筋はないですね」
「辛辣だなぁ……」
ケーラの姿はナイとカーラに支えられて人間大砲のようなものであった。思春期、というのはないが、人並みに恥ずかしい恰好をしていた。
「4回のレーザーの往復に一度、たった数瞬だけ人一人分だけ入れる隙間が生まれます。そこを一気に私たちがセレマで吹き飛ばします。当たったら即死。大博打の一手です」
「……ホントに……最低な一手だね」
「でも、これ以外に思いつかないのは事実ですよね?」
「それも……最悪だよ。だけど、こう……練習みたいなのはできないかな?」
「それも無理ですね。時間が刻一刻と迫ってます」
「どうしてなの? ナイさん」
「どうやら追手が来ています。見張り役だったと考えるドットルーマの気配を察してこちらに来ているのでしょう」
「それだけで気配を隠している僕たちがいる地下に行くとは……随分な物が隠されているんだね。ここには」
「まあ、だいたいは予想がつくんですけどね……さて、遺言は済みましたか? ケーラさん」
「僕はいつから死刑囚になったんだか……いいよ。思いっきりやって」
覚悟を決めたケーラに向かって、二人は全力のセレマを放つ。
そして、ケーラの人体は計算の狂いもなく、直進するのだった。