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4000兆回目の転生日記  作者: ゆるん
三冊目《監禁魔女王の解放》
92/102

19ページ,勇者誘拐

「私の【皇化】とケーラの【覚醒】って本質的には一緒だとおもうんだけど……何か違う?」


 修行中、キャルはケーラに問う。


「ん-、確かに本質的には一緒だけど、キャルメルには【姫の器】があるからね。この差がちがうかな」


「でもケーラって【勇者の器】があるでしょ? それってどっちの方が強いの?」


「【覚醒】どうしだったら【勇者の器】が勝るけど、キャルメルは【皇化】をもってるからそっちの方が力の向上は大きいんじゃないかな?」


【皇化】は単純に【覚醒】の上位互換だ。


「確かにね。でも、ケーラも【皇化】できないの?」


「【皇化】は限られた者しか発言できないからね。少なくとも、今はできないかな───っと。誰か来たみたいだね」


 白装束の集団が、ケーラに向かって歩いてくる。その虚ろ気な歩き姿は集団の不気味さを一層増している。


「あれは……ケーラのお客さん?」


「少なくとも、あんな不気味な集団に付きまとわれる覚えはないね」


 敵意はない……が、本能が攻撃しろと命令してくるのをケーラは感じた。本能に従って悪いことはない。それは、スラム時代のケーラが学んだことだ。


 先手必勝という蹴りを目の前の白装束へと浴びせる───が、白装束は腰を(かが)め、蹴りを避ける。その身のこなしにケーラは只者ではないと考え、後ろに下がる。


「つわものね」


 横に居るキャルが、臨戦態勢へと入る。


「極悪犯罪者、ケーラを捕らえに参った! 吾輩は聖軍第一隊長! ドットルーマである! 以後お見知りおきを!」


 その言葉に、二人は目を見開く。


「……僕が犯罪者? まだスラム以外では犯罪をした覚えはないけど?」


「犯罪者の言葉に耳を傾ける筋合いはなーい! そして、犯罪者に肩を貸す不届き者にも、慈悲はない!」


 キャルを方を見たドットルーマは眉間に皺を寄せ、相も変わらずその耳をつんざく声を張り上げる。


 キャルも眉間に皺を寄せ、ドットルーマを睨む。


「アンタが誇り高き聖軍? 笑わせないで。そんな由緒正しい軍隊が冤罪で一般人を捕らえるわけないでしょ」


 縮地ともいえるその踏み込みを、キャルはいとも簡単に相手の死角まで持ち込む。


「───《奥義》《超天球(ごくぎょう)》」


 キャルが放つその奥義は、天体があるかのように四方八方、空間を蹴りありとあらゆる方向から切り裂く。


 だが───。


「無駄だ」


 一撃目で、キャルの剣はドットルーマに阻まれた。


「素手で止めるって……一体どんな化物なのよ……聖軍ってのは……」


「吾輩はお前に興味はな───い! ケーラ! 吾輩はお前を捕らえに来たのだ!」


 その軽快な言葉はリズミカルに紡がれる。それが余計腹立たしいのか、ケーラはイラつきながらも反駁(はんばく)する。


「そんなに偉そうにしたって、その寝ぐせは治らないよ?」


 ドットルーマのチャームポイントであるトサカ頭を寝癖と称したケーラに、ドットルーマは血管がピシピシと増える。


「お前えええぇぇぇぇぇええ!」


 ドットルーマはキャルを投げ捨て、ケーラにまっすぐ向かってくる。


「君みたいに短絡的な性格は嫌いじゃないよ」


 抱きかかえるような攻撃をするドットルーマは、見事に空振り、その手を確認する。もちろん、そこにケーラはいない。


 ケーラは、ドットルーマの死角である後ろに回り込んでいた。


「じゃあね」


 そう言い、魔剣を振りかざした。


「───《反撃(カウンター)》」


 が、その攻撃は全てケーラに返ってきた。その反動により、ケーラは吹き飛ばされ、白装束の集団に抱えられる。


「ケーラ!」


 キャルはケーラに向かって叫ぶが、反応はしていない。既に気を失っていたのだ。


「自分が相手を騙せたと思って歯茎を見せるその瞬間───まだまだ青いなあ? こうやって調子乗ってるやつが足元すくわれるんだよ」


 ゆっくりとケーラへと歩き出し、その顔を見るや否や、本性を剝きだしたの如くニタァと口元をゆがませる。


「ブァァァァァァァァアアアアアアアカ」


 ***


 号外が回った。空を舞うその紙はまるで天女のように───ではないな。


 そんな比喩が頭にめぐったが、即座に否定する。なんせ、書かれている内容があれなもんでな。


『容疑者 ケーラ スラム出身 賞金~~~~』


 見つけたら聖軍に……か。なにが狙いなんだ? もちろんのこと、ケーラはなにも罪を犯していない。罪状も殺人、強盗など適当だ。


 聖軍は星王直属の部下なのだが……星王が命令しているわけではなさそうだな。


 あの時、私は星王に命令をしといた。だから私に関わってくるわけはない。じゃあ誰だ……? 少なくとも、聖軍が動くとなると星王の親族なのは間違いない。


 ともなると……あの時、記憶を失くさせたヴェルトレンターヴか。あいつなら、聖軍を動かせる権力を持っている。


 魔王を倒すのなら、勇者を探すのは有効だ。それなら、勇者を凶悪犯としてとっつかまえる方が国民も協力してくれる。


 ……さて、そんな持論を並べている間にも、人の気配が増えている。なんでかな?


 そちらの方に気配を探ると、何人かの軍人が無理矢理入り込んでいる。


「気づかれたか」


 本当に、こういうときだけ仕事が早い。だから、むかつく。


 気配のする方に向かうと、聖軍がケーラを押さえつけている。ん~これは無視でいいかな。


 僕はみんなに通信セレマで伝える。


『みんな。ケーラについてはこのままなにもしないでくれ』


『まって? それはこの状況を見逃せっていうの?』


 その場にいたキャルが僕の意見に難色を見せる。


『そうだ』


『それはどういう意味でございましょう』


 ルーラは憤りを覚えるかのような声色で意義を申し出る。


『このままケーラは正式に勇者として聖軍に運ばせてもらう。全てが終わった後の為にも、ケーラは英雄になってもらわないと事後処理に困る』


『……今ケーラ気を失ってるんだけど。多分ケーラ目覚めたら状況意味わからないことになるよ?』


『そうだね。ケーラが起きたら状況説明するセレマをかけとくよ』


『……そんなセレマ聞いたことありませんのだけど』


『今作った』


『そういうものだよ。クーにこういうの求めちゃ……ってそういえばクーのこういうの不思議となにも感じなかったな』


『取り敢えず、ケーラのことは任せといてくれ』


 危ない。ルーラはあれだから催眠はかけられないから、それが裏目にでたな。


 みんなにはさらに深い催眠かけないと。


「このケーラの仲間か! 吾輩は───」


「ああ、そういうのいいから。もう求めてないの」


「……ノリが悪いな」


「気持ち悪い目でこっちを見つめてくんな。もう帰れ」


 私がそう言うと、ドットルーマは不思議そうな目に変わった。


「お前はこやつの仲間ではないのか?」


「ああ、別にソイツとは仲間とも思ってねえよ。勇者だから利用価値があるってだけだ」


「……なるほどな。聖軍! てった~い!」


 これで相手は勇者と知っていなかろうが勇者と判断した。あまり無用なことはしないだろう。


 同時に、俺の事も意識してしまったようだがな。


「本当にこれでいいの?」


 キャルが(いぶか)し気にこちらを見つめる。


「さあ、な。だが、あのドットルーマは気を付けた方がいい。人間じゃないからな」


「え?」


「さあ、行くぞ。これから始まる」


「ねえ! さっきの言葉ってどういう意味? ねえクー?」


 少し風が涼しくなってきた。秋が始まろうとしている。


 ……開戦も、近いだろうな。

これで場面は切り替えります。しばらくパル視点はないかも?

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