16ページ,tactics
僕らは、日々戦っている。アメリと僕は共同関係にあっても決して味方ではない。
アメリは、いつでも僕を監禁しようと狙っている。僕は、それを防ぐために力をつけている。
僕が隙を見せた瞬間、それは敗北の二文字なのだ。
「今日は皆の精神状態はどうだった?」
「……良好。皆、異世界に慣れたおかげか、精神状態が安定している」
「それはよかった」
これは、お互いの意識を保っているかの調査だ。僕が気を失うことがあったら、アメリはそれを見逃すことなく僕に襲い掛かることだろう。
僕らは、寝ない。寝る意味がないからだ。偶には体を重ねることがあっても、それは単なるスキンシップあって、愛情表現ではない。すくなくとも、僕はそう思っている。
まあ、舌なめずりをしている真正面のアメリは違うと思ってそうだけど。実際に昔、僕はアメリに依存していた。だが、とあることをきっかけに、僕らは敵対した。
なんやかんやあって、いまは停戦状態なわけだ。そんなことがあるので、いつ襲われても、なんら不自然ではない。
いや、襲われることにかんしては不自然だと思うが。
さて、集めてきた情報を処理しよう。
情報神のときの権能だった〈情報支配〉を使っていた。このスキルの中でも情報確保という力をグラマースとの決闘中を使った。
これを他のやつに言わなかった理由は、場を混乱させないためだ。予め邪神というありえない存在のことを発言したのだ。さらに国が怪しいともなればさらに混乱する。それに、まだ情報が確定的じゃない。もっと情報に説得性を持たせて伝えないといけない。
「不可解なところに焦点を当てよう」
僕の周りに半透明の青い板が周りだし、私はその全てに目を通す。
「これだな」
『この国には、どの場所からでも見れると呼ばれている大時計が存在している。寸分たがわぬセレマで動く時計とされているが、実は数コンマだけズレている』
「こんなの、関係なくない?」
いつのまにか隣にいるアメリが口をだす。
「アメリはこういうの詳しくなかったな。だが、これは明らかにおかしい。セレマで動く時計は、書かれている通り、絶対に寸分たがわない。数コンマもずれるというのは、機械として不良品だ」
「じゃあ、壊れてるとか?」
「それも違う。あんな大時計だ。壊れてるともなれば修理くらい、すぐされるだろう」
「……どういうことなの?」
「正しい量のエーテルが流れていない。どこかに流出しているんだ」
「その根拠は?」
私は腕を動かし、別の情報を目の前に移動させる。
『この国に、税金という制度はない』
「これだ」
僕はその情報に指を指す。
「これになんの関係があるの? 確かに税金がないのは変だと思うけど……」
「じゃあこれは?」
『この国で一番の資産家は国王陛下である』
『ドワーフ国は福利厚生が手厚く、この星で一番治安がいいといわれている』
『人々の武器を打つエネルギーがこの国に吸収される』
「待って。エネルギーが吸収されるってなに?」
「言葉のままだ。この国の炉は全てここにつながっていて、武器を作る意思のエネルギーがここに集約される。だから、税金はいらず、福利厚生が手堅い。───それが、表向きの理由だ」
「なにがおかしいの」
流石アメリ、なんでも疑うな。
「試しに、どのくらいの規模がエネルギーに変換されるのか、昼にやってみた」
「……それがあの対決だったんだ。なにかしてると思ってたけど」
「まあ、結果として、莫大な量のエネルギーを変換していた。よくも人種であそこまでの技術を作れたものだといえるもの……いや、異常ともいえる」
しかし、その莫大なエネルギーをどこに使っているかだ。
次の情報に目を移す。
『ドワーフが一日で武具を作る数は、平均で2個』
『ドワーフ国の人口は720万人』
「これほどのドワーフが武具を作る。そして、集められたエネルギーは信じられないものになる。それを、なにに使う気か。これがドワーフ国最大の謎だ」
「……目星はついてるの?」
「さっぱりだな。もしかしたら……」
「パル?」
顎に手をあて、思案する。
「ドワーフ王と魔族が結託している?」
いや、それだとドワーフ王が俺と同盟を組んだ理由がわからない。
───なにが目的だ?
「パル?」
そのメリアの言葉で、ハッとする。どうやら考えすぎていたようだ。完全体でもないのに全知全能面するのはよくない。
「なんでもないさ」
そうだ。考えていても無駄だ。生物以下の存在がなにを考えても生物には劣るのに、無駄に考えようとするから動きにラグが生じる。
それなら、勘で動いていた方がよっぽどいい動きをする。
感じろ、誰が犯人か。後付けは後でいい。いいや、もう分かってるんだ。
ドワーフ王。お前には何を考えている。何が見える。
「それで、いつ攻めるの?」
「今日は無理だ。明日、俺とアメリだけで行く」
「それは無謀じゃない?」
「理由は?」
「敵の戦力はわからない。もしかしたら、私たちにとって最悪の相性かもしれない」
……私達の最悪の相性。それは神に愛されたものだ。ちょっと昔に神をボコっちゃったから、それ以来神に目の敵にされてるんだよね。
俺は【創造主の加護】があるが、それでも効くものは効く。もし変なところにそれが当たってしまったらそれだけでドカンだ。
「まあ一理ある。確かに、この手口は神が絡んでいてもおかしくない。でも、なぜこんなところに神が来る?」
「多分、パルがここにきているの……バレてる」
「まあ、それしか考えられないな。現世に降臨するには条件があるからといっても、そんなに他の奴に任せたいのか。神は」
「誰の……せいだろうね」
「後悔はしてない」
キリッと言ってみたが、やっぱりどうなんだろと考えてみる。やっぱり後悔したかも。
「どっちなの」
「いや、それはハッキリとさせないといけない議題かもしれないけどハッキリとしてしまうと心がスッキリしない課題だし宿題なんだから……」
「……?」
「あ、いえ、すみません。だからそんな顔しないでください」
さて、それじゃあ。セレマを発動する。自身の周りの光がすり抜けていき、もはや他人に僕の姿は見えなくなった。それはアメリも同様。
さらに体内のエーテル量を完璧になくせば、そこには誰もいない。
これで、まずは不意打ちだな……───
「客人はかくれんぼが好きなのかな? クライシス殿?」
まあちょっといざこざあったけどやっていきますよ。はい。