15ページ,無理な話
「いやさ、今までだって色んな人置いてけぼりだったし、別に前回ぐらいいいんじゃないかなって……さ? ほら」
「前回ってなに言ってるの?」
「いやこっちの話。それよりも、キャルの剣───イメグランが今、なにが足りてないかを説明すべきだな」
僕は掌を上に向けると、エーテルでできた半透明で水色のイメグランが生み出される。その他にも剣のステータスが表示される。
「通常、こういうエーテルが籠っている剣を咒剣という。咒剣は、エーテルと攻撃力アップの比率が2:1のときに一番敵にダメージを与えられる。だが、イメグランはこの比率が3:1だ」
しかし、ステータスを見ると、イメグランは攻撃力アップは十分に足りている。つまり。
「エーテル量が多すぎるってこと?」
「そう。こういう場合はエーテル量を減らしてでも攻撃力アップを挙げた方がダメージは高くなる」
「なんだがゲームみたいね」
「……? 計算、むずかしい」
ケルの頭がパンクしそうになっているので話はここまでにしよう。
先程配られたお茶を啜り、皆が落ちつくのを感じる。
「さて、グラマースにも話そう。これからの僕たちの行動を」
先程、皆にも話したカシス教と魔族が繋がっていることをグラマースにも伝える。
「なっ……!」
「そして、俺たちが行うこと。それは魔族と人族の共存だ」
「「「え?」」」
そして、その場に居る全員が反応する。
「まって、クー。そんな話聞いてないんだけど?」
ケーラが思わず聞き返す。
「だって言ってなかったもん」
「「「……」」」
全員が呆れる。なるべく、こういう話は全員がいるときに話したかった。
「まあ、そのためにカシス教を壊さないといけない」
「なんで壊さないといけないの? それこそ共存とか……」
「無理だ」
キャルの意見を一瞥する。
「どうして?」
それで納得しなかったケルがさらに聞き返す。
「元より……いや、その前に邪神の事はどこまで知っている?」
「……神話に出てくる悪の神様……みたいな?」
「まあその通りだ。だが厳密にいうと、邪神は"世界の理から外れた存在"だ」
「"世界の理から外れたもの"?」
「世界の理に逆らえる存在だ。例えると、セレマがその例だ。セレマはその法則に従って、自身の想像で力を発揮する。しかし、アイツらは別だ。発動するものが発動しない、死なない物がいとも簡単に死ぬ。などありえないことを平然と行う」
「……それってチートってこと?」
「ああ……やつらは世界のバグだ。そして、邪神を信仰するやつらも、その力の一端を付与される」
「それでお父さんも……フレアも……」
キャルの目に、闘志が宿る。
「邪神の最終目的はなんなんだい?」
「さあな。それは定かではない。なにせ、邪神は一人じゃないんだから一人一人個性がある」
「「「え?」」」
俺の発言に、驚きや絶望などの負の感情が籠った声が発せられる。
「発生条件はわからないが、とある昔に二人の邪神が<神界>を滅亡寸前まで追い込んだという歴史がある。まあ、この他にも邪神は世界を滅亡しようとしているものが多数だ」
「なるほどね……彼らに意志めいたものはあるのかい?」
「ああ……邪神は世界の理から外れた力を持っていること以外は、普通の"生物"だ」
「生物……なにか意図が含まれる言葉だね」
「……邪神はその言葉の通り、神様だ。だが……人間でも、邪神になったという記録がある」
「人間でも?」
「人と成る……という言葉がある。まあ、人間が神になるのもありえない話でもない」
「それって神が人に乗り移るってだけで別に神になるっていうのじゃ……」
「うるさい! それっぽいこと言ってればいいの!」
「……で、それはいいけど。これからどう動くの?」
「取り敢えず、今日はこれで解散だ。おやすみ、みんな」
私の一言で、全員は寝床に着くために寝室に移動する。
「……他に俺と話したい内容でもあるのか?」
残ったグラマースが僕に話しかける。それに私とアメリはセレマで作った椅子に腰かける。
「最後に、お前に言うことがある」
「なんだ? 国家転覆でも狙う気か?」
「ああ。そうだ」
「……冗談で言ったつもりだったんだがな……」
「まあ、正確に言えばこの星を転覆する」
「……あんたの話はぶっ飛んでいてよくわからねえわ。それよりも、先程から気になってたんだ。あんたは、この世界のことをこの星といってるよな。まるで、世界と呼ばれるのが他にある言い方をしてる……何故だ?」
「ああ。そうだった。お前のことを催眠するの忘れてた」
「え?」
俺が指を鳴らすと、グラマースの目はぐるぐると渦巻く。
「さて、行くかアメリ」
「……ほっといていいの?」
「ああ、今は頭の中を整理するために固まっている。この状態じゃあ、なにを話しても意味ないぞ」
「……それって、この催眠何回もしてきたってこと……?」
「…………さあ?」
「何に使ったの」
結果的にアメリに問い詰められることになってしまった。やっぱり、アメリの目の前でしなかった方がよかったかなあ……?
「ねえ」
取り敢えずこういうときは頭を撫でてればなんとかなるだろう。
「とか思ってない?」
……心読まないでよアメリさん。
かといって私が手を離すとそれは不機嫌になる。
「あとさ」
今日のアメリはやけにおしゃべりだ。
「世界転覆とか、狙ってない?」
「……すくなくとも、今は狙ってないね」
「そう」
(この意図はなんだろうか。アメリは世界征服をしたいのか?)
まあいいだろう。今は他にやるべきことがある。一歩ずつタスクを済ませていく。私はそれしかできないのだから。
僕らも自分たちだけの寝室に戻る。
「もう催眠の用途のことはいいから、いつから催眠をしていたのだけ教えて」
「ん? もちろん最初からに決まってるじゃん……皆には、その記憶がないだけ。僕と開口一番、もしくは寝ているときに催眠をかける」
「催眠する内容は?」
「僕の言動に関する違和感、そして僕の力を異常と感じないこと」
「(まだ私の知らないことが彼にある。これは危険だ。全ての情報を網羅しないと……)」
とか思ってるんでしょ? アメリ。
……残念だけど、元情報神から情報を出し抜くのは至難の業だよ。
───こうして、僕ら二人は水面下での情報戦を繰り広げていくのだった。
補足:パルは幾重にも思考のロックをかけています。いつも出てくる文はパルの表面上に想っていることであり、本当に思っていることとは違うことがあります。今回でてきた()内はパルの深層にある思考です。なので、アメリにも読心術で読まれることはありません。