13ページ,カシス教の目的
「どうだった?」
転移者組の情報役を務める果拿はメモ帳を持って皆に告げる。
「魔族のエリート中のエリートだけが加入できるといわれる『赫の魔人』。その中でも魔王の右腕とまで呼ばれる『赫の魔人』大将ファレーラ。彼は元々魔族の血を受け継ぐハーフドワーフだったらしいのですが、その実力だけで大将に昇格したらしいです」
「それで? そのファレーラとカシス教皇との関係は?」
「どうやら、数日前に会食だけをしていたようで……そこで重要機密事項は話し合っていないようです」
「会食をしただけ? その二人はそこまで親密な関係なのか?」
「いえ、会談は今回が初めてのようで……そして二人が会うのも、これが初めてです」
「ならどうして……」
「ここからは僕が説明しよう」
透明化を解いて皆の前に姿を現す。
「今のって……スキルでもセレマでもないよね? ……もうなにも驚かないけど」
別にエーテルを使えば皆の視覚の光くらいずらせる。
まあ、視覚を必要としない生物だったらこんな技術も要らないんだけどな。なんとなく癖だ。
閑話休題
「二人は、護衛も付けずに話し合ったようだ。そして、鎖国状態の魔族領。その素性こそ、誰も知りはしない。誰も、そこの内情は知らない。───私を除いてな。……魔族領では、神父が多い。……そこで魔教として崇められている、カシス教」
「「「 !? 」」」
「そう、全世界で親しまれている聖教。その宗教信念は魔を滅し、世界平和を望む」
「でも、それだと今回の行動に矛盾していますね」
「さあさあ、今までのピースを集めてみると、カシス教の行動理念が見えてくる」
矛盾する宗教理念、護衛の無い会食、鎖国状態の魔族領、聖教と魔教。
「カシス教は、戦争を望んでいる」
「確かに、そうなるね」
「星王はカシス教のことを寛容だっけ」
あれ? この前星王のところ行ったよな……。なんか言動がムカついてボコっちゃったけど。……そういえば、他にやりたいことができすぎたからほっといたままだったな。
「……そうだな……星王の処置もどうにかしたい……『蒼の聖人』。アイツらもちゃくちゃくと装備を進めている。ぶつけたら厄介だ」
『蒼の聖人』。星王の下、聖人として認められたエリート集団だ。人間の部類では、結構強い。
特に、魔族に特攻のセレマを覚えているから危険だ。
「クライシス殿。私が『蒼の聖人』を止めて見せます」
「あー、わかった頼む。カムトリエさん」
「はい」
「……」
「……」
「「「……」」」
うん、わかってるさ。いつの間にかここに来たかってね。なんでだろうね。カイメルス王国キサラギ聖騎士団長?
「いや、誰か居ないかってさっき尋ねたらこの方がここへ……」
指先はナイの方に。
「お前か……?」
「ち、ちがうんです! 別に、パルさんに勝ったからって調子乗ってそのまま勢いで家に上げちゃったわけじゃないんです! それにそれに! 知っている人なのですから上げてもいいじゃないですか!」
ナイ、魂の否定。しかし、信用はなし!
「へえ……お前そう思ってたのか……」
私が拳を握ると、ナイはカーラと一緒に抱きしめ、プルプルと震える。
一歩、また一歩と進み……ナイの顔面に……───デコピンする。
「イテッ」
「くだらないことやってないで、進めるぞ。お前も案を出せ。ナイ」
「! はい! ……許された? 私許された!? カーラちゃん!」
「は、はい! なんとか許されましたね! ナイさん!」ハイタッチ!
ちなみに説明をすると、このトアノレスの家は各場所に存在する。だからカイメルス王国にあるトアノレスの家から入ってきたカムトリエさんは、ドワーフ王国にあるトアノレスの家に入ってきた。
簡単に言うと、トアノレスの家は繋がっているということだ。
さて、お遊びはここまでだ。
「当面の目標は、カシス教の鎮圧。つまり、『蒼の聖人』『赫の魔人』を互いに黙らせることだ。カムトリエさん、『蒼の聖人』の方は頼む」
「はい」
「僕らは、『赫の魔人』の方を攻める。こちらの方が強力だ」
「魔族だから?」
「それもある。だけど、それ以上に警戒しないといけないのが、魔王だ」
まだ戦力が読めない魔王。それに、こちらに敵対しているのか、はたして……
「まあ、こっちに勇者がいるから、魔王はコイツに任せる」
「え?」
ケーラは私の一言に驚いた声色を吐く。
「任せたぞ」
ウインクをすると、ケーラはうんざりした顔で溜息を洩らした。
「……まあ、『勇者』だしね。そのくらいの覚悟はしてたさ」
因果は巡る。それを覆させることは……そんなにない。夜が明けるのなら、朝も更ける。それと同じなで魔王は、勇者と対決する因果が巡る。
それを捻じ曲げるのは、今の僕の力ではできない。まあ、ここら辺の力の法則は難しい話だし、割愛。
つまり、私がなにも言わなくても勇者と魔王は対決する運命だ。
そんなこと、ケーラは知らないようだがな。……ルーラの視線を感じる。何故だろう?
まあいいか。
「私も、話をしていいかしら?」
「来たね。───キャル? ケル?」
「「「え?」」」
後ろを向くと、包帯で巻かれた二人がいた。まあ、復活していたのはちょっと前から気づいていた。
「気分はどうだい?」
「もう絶好調よ」
「あたぼうよ」
棒読みだ。そんなに体調は良くないのだろう。
「まだ、休んでおきな。体中ボロボロだ。まだ時間はちょっとだけある。その間に回復のセレマを───」
「それでも、話しておきたいの。この前のこと。それに、時間なんてもうないんでしょ? 嘘を吐くのは、やめてよ」
〈虚偽感知〉をするなんて、そんな子に育てた覚えはないです!
「私は貴方の子になった覚えはないわけだけど?」
「ありゃりゃ、〈読心術〉もするなんて」
「……それで? 話を聞く気になったかしら?」
「……仕方ないね。でも、これから休む時間はほとんどないよ?」
「お生憎様。休む気は元からないわよ」
「皆の役に立ちたいからね!」
なんともまあ、元気のいい返事だこと。二人の私たちを見る目は、まっすぐ、そして殺意の籠った……殺意? なんか比喩表現間違ってるな……まあ、いいや。取り合えず、なんか凄い感じの目でこちらを見つめた。
「じゃあ、聞かせてくれるか? あの夜、何があったのか」
「そうね……」
よいお年を?
あけましておめでとうございます?
どっちでもいいや。おめでとう!




