11ページ,ナイの勝利
(兄者は、ずっと俺の憧れだった。だから、俺は兄者と一緒の道を歩いた)
「だからこそ、知った」
私がそう告げると、目の前のドワーフおっさんは驚いた顔で目を見開き、フッと笑った。
「……兄者への道は、俺には遠すぎた」
「だからこそ僕は、ソイツを超えろとお前に言っている」
俯きながら、独り言を言うように呟く。
「俺は、確かにその武具の設計図を、持っている。だが、俺はその原理を8割も理解していない」
自分の不甲斐なさに、優秀な者の陰にいるという劣等感に、まだ追いつけないという絶望。とことん僕に似ている。
「重ねてるの?」
アメリにも、横でそう言われる。
「そうだな、昔の俺に、そっくりだ」
ザーザーと視界が揺れるのを感じる。ドワーフのおっさんはいつの間にか泣いている昔の自分になっていた。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛‼‼‼???』
自分で制御もできず、崩れ落ちていく体をゆっくりと感じ取っていくだけの自分。不甲斐なさ、劣等感、絶望。それらをただ噛みしめながら一秒一秒をただ刻む地獄。
「"一人が無理なら皆で。複数で動くからこそ、それを生物という"」
とあるおちゃらけ創造主の言葉だ。
「なにも独りよがりにならなくていい。大丈夫だ、俺たちも協力する」
座り込み、目の前のドワーフのおっさん、グラマースを見つめる。
「俺らと、作ろうぜ」
「…………頼っても、いいのか?」
僕はフッと笑い……
「めんどくs───」
アメリに頭をはたかれる。グシャッと頭部が破壊されるが、瞬きの速さで再生する。
冗談だよ。
「立つぞ」
グラマースを横目に見つめる。その呼応のようなものに応え、グラマースは立つ。
さあて、と。
私は蒼穹を眺める。うん、殺意たっぷりの空だ。
「まずは拠点を探さないとな。グラマース、普段アンタが住んでいるところを教えてくれ」
別にトアノレス製の家があるわけだが、置くときにはある程度の面積が必要だ。そこが難点だから、特別万能とも言えない。もう少ししたら、役に立つ時が来るかもしれないが。
というわけで、グラマースが活動しているところに向かったところは……
「いや……宮かよ──……」
上を見上げる。でっけえ。王宮に住むとか、実はコイツ凄い奴だったり?
「あれ? そういいえば……」
横を向き、グラマースを見てると、ふと思い出す。
『俺はミキレバ国宮廷鍛冶師! この国で二番目に凄い鍛冶師なんだぞ!』
「この国で一番凄いとか言う鍛冶師って誰なんだ?」
「……ここに住んでいるドワーフ国の長。ミキレバ王だ」
……どれだけ一番が凄かろうと、二番がこのレベルじゃ一番だってたかが知れているな。
「……そうか」
「なぜおまえが空き部屋を探しているのかわからないが、取り敢えずここが空き部屋だ」
ここに来て最初に私が望んだのは、空き部屋だ。まあ、何故かというと……
「トアノレス、ペースト」
ドアに手を置き、そう告げると、ゴンガラガッシャーンやらバギボボガガとかドアが伸びたり膨らむ。
そしてポシューンと蒸気を放ち、それらが落ち着くと私はドアノブを引く。
「あっ、おかえりなさい! パルさん!」
ナイがエプロン姿で出迎えてきた。その後ろにひょこっと少女が現れる。この前町で虐められていた少女だ。どうやら風呂で洗われて綺麗になっている。
「な……っ、なんだこの技術は⁉」
「あーアーティファクトやらの技術だと思えばいい」
説明はいちいちめんどくさいので省く。
まずは、と。目の前の少女を見る。名前はカーラか。
「グラマース、お前の話は夜だ。まずはカーラと話をしないといけない」
お前はその武具の研究でもしいとけ、と促す。そそくさとグラマースは自分の部屋に戻っていった。
「さて、カーラ。だいぶ綺麗になったな」
「な、なんで……私の名前を……」
そうか。当たり前だと思ってたけど、ほとんどの人間は〈情報看破〉のスキルを持たないのか。
このスキルを持っているとステータスやセレマとかの情報を見るときに相手に知られる。最近戦ってきたやつらや転移者たちは全員持っていたから別に気にしていなかったな。
「ステータスを見ただけだ、そんなに恐れた顔しなくていいよ」
プルプル震え口もすぼめ、まるでミッフィ〇。
おっと、怒られそう。
にしてもナイがカーラの背中をさすっている。さして慈悲の顔を浮かべている。
「うん、怖いよね。お姉さんもすごい分かるよ……」
ナイのその強い共感性はなんだ……?
「僕の顔って怖い?」
「多分そんな問題じゃないと思う」
じゃあなんで震えるんだろう……? しかもナイも一緒に。
「まあいいや。震えたってなにも変わんないぞ。ほら、お姉さんに抱き着いてみて?」
警戒心を振りほどいてもらうために両手を伸ばし、ボディタッチを目論む。こういうのは人肌の温もり?っていうのだろ?
───こういう人格操作は慣れている。
まず『神経操作』カーラがこちらに来る。次に〈郷愁味想起〉。キャルのお母さんであるフェイさんの固有スキルだ。この前も言った通り、これは洗脳系スキルだ。適当にお母さんなどの暖かい心情を思い出させることが重要だ。
あっ、ちなみにフェイさんから『模倣眼』でコピーしました。ありがたく使わせていただきます。
よし、カーラの目が完全に信用した。
最後に言霊。エーテルを乗せた声でカーラを諭す。
『カーラ? 私は貴方の一番信用できる人……わかった?』
「「「……げっす」」」
「やってること完全に悪党よね? あれって……」
「うわぁ……」
ちょっと転移者組! そこうるさいわよ! あと帰ったなら一言申しなさい!
「信用できる……一番信用で───きません。一番はナイさんです!」
「「「⁉」」」
なっ……!
「あ、あのクライシスさんのセレマを上回った⁉」
「なんつー子だ」
『え、えーと……カーラ? ほら言ってみ? 一番信用できるのはクライシスさんですって? ほら、ね?』
「いえ! 一番はナイさんです! すっごい優しいです! クライシスさんは二番目です!」
ナイを見るとくねくねと褒められて照れくさいようだ。
「はあ……もういいや、ナイ。後は任せた。この子の面倒はお前が見ることとする」
洗脳は俺の一番苦手な分野だ。こういう揺るがない心を持つものなら、なおさら僕の洗脳は効かない。
にしても、ナイに懐くとは。でもまあ、目的は話を聞くことだ。洗脳するのが目的ではない。
「はいです! 任せてください! ほら、カーラちゃん、こっちこっち」
ナイが両手を広げると、カーラはそこに突っ込む。
仲睦まじいものだ。
「で、パル? 話を聞きだすためとはいえ、洗脳はやりすぎだよね?」
あ、やべ。アメリが近くにいんの忘れてた。
「誰がパルの一番か……教えてあげる」
「…………流石に話を聞いてからにしてね?」
「なんで私が傀儡の技術を知ってるかって? えーっと……あれ? なんだっけ……」
『……───この■■は、私が最も得意とするもの。誰にも、■■を離さないためにも、必要な───』